第74話「世界の守り手たち」
世界は、ハートシールドが生み出した仮想戦争ゲーム――『ハートシールド・コンバット』による新しい争いの代替方式に熱狂していた。
ただの娯楽ではない。現実の政治問題や小競り合いの解決手段として、試験的に導入される兆しが見え始めていたのだ。
「これなら――誰も死なないで、双方の力を示せる。」
世界各国の安全保障関係者はこぞって賛同し、ついには小国間で起きる紛争解決の実用例としてこのシステムが採用されることになった。
現実の戦場ではなく、仮想空間の戦いで決着をつける――新時代の“平和による戦い”として。
しかし、現実世界と同じく、問題は付き物だった。
「万が一――プレイヤーがショック死してしまったら?あるいは副作用や労災が起きた場合は?保険は?責任は?誰が補償する?」
世界会議は紛糾し、各国はルールや法体系の細部を詰める必要に迫られた。
そして――名乗りを上げたのは、かつての戦いを共にした守護者たちだった。
「――我々ユグドラシルの守護者は、人間とバイオロイドが対等に歩む未来を願う者として、この新たな平和のゲームに関するルール制定及び監督を、引き受けさせていただきます。」
守護者の代表が静かに宣言した。
それは単なる名誉職ではなく、世界の未来に発言権を持つ重みある立場だった。
ハートシールドとユグドラシル守護者――二つの勢力が並び立つその光景は、まさに世界の守り手を象徴していた。
だが、一方で――影のように蠢く存在があった。
「元政府」を名乗る団体は表向きには消えたかに見えたが、実は着々と戦力を温存し、新たな軍備を構築していた。
そして彼らが世界に突きつけた、新たな戦力――その名も 『バイオロイド・メカニマル(機械獣)計画』。
動物の形を模した機械体。
だがその開発過程はあまりにも非道で残酷だった。
「動物には人権はない。だが、人間の敵としては――有効だろう?」
猟犬型、猛獣型、鳥型――それらはバイオロイドでも、人間でもない。
工場内で機械の心臓を埋め込まれ、実験体として扱われ、チューンナップされ、戦闘に適合させられた“機械獣”たち。
映像解析班に映し出されたその姿に、ハートシールドメンバーは言葉を失った。
ハイネは拳を強く握りしめながら呟いた――
「……これは、戦争じゃなくて、“実験”だ。」
リラリの瞳には怒りが燃える。
「こんなものを“兵器”と呼べるなんて……!」
ナナミは震える心を抑えつつ言う。
「守護者たちがいなかったら……世界はどうなっていたの?」
タイチは静かに拳を結び、
「俺たちは――新しい戦い方を証明してみせる。誰も傷つけずに勝利を掴む方法を。」
世界は新たな局面を迎えた。
“守り手”としての役割を担うハートシールドとユグドラシル守護者――そして、旧勢力としての元政府の残党が放つ“機械獣”という暗い陰。
―――
巨大な機械獣が人里の境界線を越えた。
鋼の蹄――鉄骨の爪――そして赤い感圧センサーのような光が、夜の空を切り裂いている。
それはまるで獣そのものの躍動感を持っていたが、どこか違和感も醸し出していた――機械獣だ。
「ハートシールド、前へ!」
ナイアの号令が響いた。
守護者たちも展開し、世界の防衛ラインに立ちはだかる。
一触即発の緊張の中、機械獣群がうなり声のような電磁ノイズを放ち、襲いかかってきた。
ハイネ――戦闘配備中だった。
「退くな! 敵を制圧するぞ!」
しかし突如、鋭い振動が足元を揺らす。
機械獣のひとつが噛みついたのだ――鋼鉄の顎が、真っ直ぐハイネの肩に。
「ぐっ……!」
ハイネは弾き飛ばされ、地面に倒れ込む。
「! ハイネ様!」
リラリが飛び出した。
怒りと心配の入り混じった瞳で、倒れたハイネへ駆け寄る。
だが――ハイネは片手を伸ばし、優しくリラリの腕を制した。
「大丈夫だ。お前たちの居場所もここにある――。」
その声は冷静で、揺らいでいなかった。
静寂。
戦場のざわめきが一瞬、止まった。
機械獣は牙をむいたまま硬直する――しかし、次の瞬間。
その赤い感圧光がゆっくりと薄れ、代わりに――――優しい、蒼い光が宿った。
まるで怯えた瞳が開くように。
その瞬間、戦場は静かにざわめいた。
機械獣たちの姿は、獰猛ではなくなっていた。
鋭い爪を握るように、震える……その中心には、まだ不安げな温もりがあった。
「……なんだ?」
ガルドが目を見張る。
「これは……本当に“兵器”なのか?」
レントも眉をひそめる。
「感じる……恐怖じゃない。怯え……寂しさか?」
その時――遠くから、ナイアが叫んだ。
「お前ら――覚悟しとけよ!!人間もバイオロイドも、機械だって――俺たちは許さないからな!みんなで手を取り合って、お前たちを潰しに行くからな!!」
その声は怒りではなく――決意だった。
そして、希望でもあった。
機械獣たちの瞳は、さらに柔らかく輝いた。
人間の叫び――そしてその裏にある、“共に生きたいという願い”を、なぜか彼らは理解したようだった。




