第72話「仮想の戦場、現実の絆」
やっと平和になった──そう思った矢先だった。
元政府を名乗る一派が突如として声明を発表。新たに国家を立ち上げ、各国に対し宣戦布告を行ったのだ。
町中が再びざわめき始め、ハートシールドのメンバーたちにも緊張が走った。
「防衛線を敷こう。町の人たちを守るために」
ナイアの一言で、彼らの役割が再び動き出した。
しかし、それと同時に世界中で別の問題が持ち上がっていた。
戦争ができない──そのことが、国同士の決定を阻む事態を招いていたのだ。話し合いでは解決できず、かといって戦争という手段も取れない。各国は混迷を極めていた。
その光景を前にして、ナイアは深く悩んでいた。
──ハートシールドという組織の立場から、世界に『機械の心臓を一時的に止める技術』を提供すればどうか。
それは、武力衝突の代わりにスポーツとして代理戦争を行う手段になり得るかもしれない。
誰も死なずに決着をつける方法として、理想的かもしれない。
だが。
「……それが、本当に“彼ら”のためになるのか?」
ナイアは一人、研究室の片隅で端末を見つめながら呟いた。
そこには、笑顔の兄弟たちの姿が映し出されていた。
──この未来が、ずっと続いてほしい。
だからこそ、その選択が正しいのか、彼にはまだ答えが出せずにいた。
「また一人で抱え込んでる」
ジト目でハイネが呟く。
「悪い癖よね」
ハイネに続いてナナミもため息混じりに言った。
「まぁ情報が情報だからな」
タイチは肩をすくめる。
レントは真面目な顔で口を開いた。
「お前の技術は世界のためになる。だがそれを受け入れがたいなら、他の案を提示すべきだ」
その言葉にナイアは驚き、そして笑った。
「じゃあ、何で決めたらいいか一緒に考えてくれよ~!」
こうして、ハートシールドによる『戦争の代替』の考案が始まったのであった。
―――
ハートシールドの『戦争の代替案』を模索する会議は白熱していた。
様々なスポーツや競技が検討されたが、その中でも最も現実的で、かつ革新的な案が浮上した。
「仮想世界で戦えばいいんじゃないか?」
ナイアの一言が、すべてを動かした。
実際に戦うのではなく、意識だけを仮想世界に移して行うゲーム。
それなら誰も傷つかないし、決着もつけられる。
「つまり、僕たちと同じ状態になるってことですね!」
シグマが目を輝かせた。
「仮想世界ならフィールドは自由自在です!」
ベータもすぐに賛同する。
まずはプレイヤーの体を保護するポッドの開発が必要だった。
その間に、シグマとベータが仮想フィールドの構築を担当。
ハイネたちはゲームのルールと内容を考案するチームに分かれ、兄弟たちも次々とアイディアを出していく。
「この方が面白い!」
「こっちの方が意地悪だ!」
「こうした方が気持ちいいです!」
楽しげな声が飛び交う中、ナイアは全員の意見をまとめ、開発を進めていく。
そして、完成したゲームの最終デバッグ。
そのためにナイアは一台のスーパーコンピューターを購入。
「兄弟たち全員をインストールしても大丈夫なサーバだ!」と笑いながら宣言する。
ゲームは想像以上の出来だった。
兄弟たちは大はしゃぎで遊び、開発に関わったメンバー全員が誇らしげだった。
「じゃあ、これを世界に公開しよう!」
ナイアの言葉に誰もが頷いた。
──かくして、新たな『戦争の代替』として、
ハートシールドが開発した仮想ゲームは世界に発表されることになった。
それは、仮想の戦場で結ばれる、現実の絆の物語の始まりでもあった。




