第64話「街のお兄ちゃん、そしてユウロの夢」
晴れ渡る午後の商店街。
ナイア邸チームが始めた「街のお兄ちゃんプログラム」は、地域の子どもたちに大人気だった。
――端末の使い方、アプリの作り方、簡単なプログラミングの基礎。
シグマは丁寧な口調で、子どもたちに説明している。
「このボタンを押すとね、『ありがとう』って表示されるようになるんだよ」
子どもたちは目を輝かせて、「すごーい!」「やってみたい!」と笑顔になっていた。
その様子を、庭先から兄弟たちが暖かく見守っている。
「末っ子、優しいなぁ」
「みんなが育てた成果だね」
彼らの視線は、誇らしさに満ちていた。
―――
そのころナナミとミミミは、おしゃれなカフェで背比べを楽しんでいた。
「ミミミ、ちょっと背伸びたんじゃない?」
ナナミが微笑むと、ミミミは照れたように俯いた。
「ナナミさんが大きくなったからでは……?」
そんなやり取りを見ていたユウロは、以前タイチと話した記憶を思い返していた。
―――
――妖精型バイオロイド、ユウロには小さな悩みがあった。
機械の心臓が成長に追いつかず、不純だったため、義体は小型仕様となっていた。
それゆえ過去に苛められたこともあったという。
現在はタイチや兄弟たちと仲良く暮らせているが、「女の子としてタイチと並びたい」という気持ちがまだ強かった。
その夜。
ナイア邸の地下工房で、ユウロはそっとナイアに話をふる。
「ナイア、私……タイチと、一緒に並びたいんです。遊園地で、身長制限に引っかからず楽しみたいんです。」
ナナミやミミミも見守る中、ナイアはやさしい笑顔で頷いた。
「いいよ。なら特製義体作ろうか?」
ユウロの目がパッと輝いた。
「本当ですか?」
バイトとセンドも、嬉しそうに微笑んで頷いた。
―――
数日後。
完成したのは、妖精型バイオロイド用の新しい義体だった。
タイチと並んでも違和感のない美しいスタイル。
ユウロはその姿で、文字通り「女の子」としての自分を実感した。
完成披露の場。
ナイア邸のリビングに集まった皆が、ユウロの姿に目を見張る。
「すっごく大人っぽくなったね!」とミミミが歓声をあげ、ナナミは拍手と共に涙ぐみそうな笑顔を見せる。
タイチはそっとユウロの頭に手を乗せ、優しい眼差しで見つめる。
そしてその場でナイアは提案した。
「ねえユウロ、遊園地デート行こうよ。夢を叶えよう。今度こそ、身長制限なんて怖くない!」
ユウロは少し照れながらも、小さくうなずいた。
「……ありがとうございます。楽しみです、本当に。」
兄弟たちはみんなユウロを祝福する。
「妹だ!」
「かわいい妹だ!」
「夢叶えてよかったね、ユウロ!」
ナイアは満足げに笑い、ナナミやミミミも微笑む。
その夜。
ナイア邸には、穏やかな幸せの余韻が漂っていた。
―――
遊園地。
今日だけは特別な日だった。
タイチとユウロ、二人きりのデート――とはいえ、周囲にはそれと気づかぬように潜伏するハートシールドの面々。
ナナミとミミミはサングラスと帽子で変装しながら、ポップコーンを頬張っている。
一方、当の本人たちは仲良く手をつなぎ、園内を歩いていた。
「ほら、ジェットコースター行くぞー」
「た、高いところは少しだけ……が、がんばります!」
タイチの笑顔に引かれるように、ユウロは目を瞑って乗り込む。
そして――
「きゃあああああ!」
降りた後には、ふらふらになりながらも、どこか満足げなユウロの姿があった。
観覧車が、ゆっくりと回り始めた。
ふたりきりのゴンドラの中、ユウロは義体の姿で隣に座っている。
「たまにはこういうのもいいかもな~」とタイチがぽつりと言った。
「たまに、ですか?」ユウロは不安げに首を傾げた。
「だって俺の一緒にいるユウロは、いつもちっちゃくて真面目で、相棒なユウロだったからな」
「……今のユウロじゃ、ダメですか?」
少し間があって、タイチは笑った。
「ダメじゃないさ。なりたいように、やりたいようにすればいいよ。だけど、無理だけはするなよ?」
その言葉に、ユウロは目を潤ませながらも静かに頷いた。
夜、ナイア邸。
「うん?脱いでよかったのかユウロ?」
義体を脱ぎ、元の妖精型の姿に戻ったユウロが、タイチに向かって明るく言った。
「はい!だってこの方がずっと一緒にいられますから!」
タイチは驚いたように笑った。
「そっか。……それもそうだな!」
一方その頃、ハートシールドの面々は――
「おい、家族への土産は一家に一個だ!わかったな!?」
ナイアが叫ぶ中、おみやげ物の山に埋まったシグマ、レント、ハイネ、ナナミたちが「あれも買った」「これも欲しい」と騒いでいた。
いつもと変わらぬ愉快な日常が、そこにはあった。




