第61話「守るべき心を守るために」
「――状況は以上だ。」
ナイア邸のリビングは、いつもより緊張した空気に包まれていた。
テーブル中央の大型モニターには、各地で散発するテロ組織の情報が映し出されている。
「テロ組織……最近また増えてきてるな。」
ハイネが眉をひそめると、ナナミが腕を組んで頷いた。
「ユグドラシルの守護者たちも大変そうだね。」
「だからこそ俺たちも動く。」
ナイアが真剣な顔を見せる。
「ハートシールドは、守護者と並んで前線を支える。今回の標的は――ユグドラシルの芽。機械の心臓の素を密輸しようとしている。」
兄弟たちがざわりと息をのむ。
「……そんなもの、奪われたら……。」
「そう、どこかの未来のパートナーが生まれる権利を奪われる。」
ナイアが低く言った。
その瞬間、シグマがすっと立ち上がる。
「敵陣の配置、僕が演算するよ。」
「お、頼れる末っ子だな。」
ナイアが口元を緩める。
兄弟たちも「頼りにしてます!」と笑顔を見せた。
作戦はこうだ。
シグマが高性能の演算処理で敵陣の配置を把握、
タイチとユウロが潜入して電子ロックを解除、
レントとガルドが前線で暴れ囮となり、
その隙にナナミとミミミが支援射撃で援護。
そして――
「ハイネとリラリで積み荷を確保、俺と兄弟たちで安全に運び出す。いいな?」
「了解!」
「もちろん!」
ハートシールドの全員が声を揃えた。
夜の倉庫街、無音の中で作戦が始まる。
「敵、北側に三……南東に二。」
シグマの声がインカムから響く。
「了解、ユウロ、行くぞ!」
タイチが低く呟き、電子ロックへと駆ける。
次の瞬間、倉庫の重たい扉が静かに開いた。
「囮行くぞ、ガルド!」
「了解、レント。」
地響きを立てて飛び出したガルドが敵を引きつける。
弾丸が飛び交うが、ナナミとミミミの支援射撃がその軌道を逸らしていく。
「ナナミ、右上!」
「わかってる!」
ぱん、と的確な射撃が敵の武器を弾き飛ばす。
「リラリ、積み荷を確保する!」
「はい、ハイネ様!」
コンテナを抱えたリラリと、それを守るように銃を構えるハイネ。
「後方確保! 運び出すぞ!」
ナイアが叫び、兄弟たちが整然と動く。
「了解!」
「了解!」
小型の運搬車を操り、確実に、迅速に積み荷を安全圏へ運び出していく。
その一連の動きは、まるで一つの巨大な歯車のようだった。
「作戦完了……見事だよ、みんな。」
シグマが通信の向こうで微笑む。
「ふふん、俺たちハートシールドだからな!」
ナイアがにやりと笑った。
――こうして、ユグドラシルの芽は守られた。
どこかの、まだ見ぬ誰かのパートナーの心が、またひとつ未来へ繋がっていく。
―――
作戦完了の報告がユグドラシル守護者本部へ届いたころ、ハートシールドの面々はナイア邸に帰還していた。
運搬車から降ろされたコンテナが並び、その上にリボンをつけた兄弟たちが「確保完了!」と胸を張る。
「いやー……やっぱりハートシールドの連携はすごいな。」
タイチが頭をかきながら笑う。
「おつかれ。電子ロック完璧だった。」
レントが肩を叩き、ユウロも軽く会釈を返す。
「ねえねえ見て! コンテナ運搬でタイム縮めたんだよ!」
「本当です! 前より12秒短縮!」
兄弟たちは誇らしげにナイアへ報告する。
「いいぞいいぞー、次は10秒切れ!」とナイアは満面の笑みでハイタッチを交わした。
少し離れた場所では、ハイネとリラリが積み荷を見守っている。
「これがまた誰かのパートナーになるんだな。」
「ええ……心を宿す、未来の……。」
リラリの声にはほんのり温もりがあった。
そんな賑やかな空間の隅で、シグマはそっと目を閉じていた。
――演算処理で敵の配置を読み、兄弟たちが怪我をしないよう導く。
あの瞬間、自分は確かに、みんなのために戦っていた。
「……シグマ、どうした?」
声をかけたのはバイトだった。
「いえ……なんだか、変なんです。僕、いま……。」
シグマは胸の奥に手を当てる。
「温かいんです。これが……守れた、ってことなんですかね。」
バイトは微笑み、兄弟たちの笑い声が響く方を見やった。
「そうですね。守れたんですよ、末っ子。」
「……そっか。」
小さな呟きとともに、シグマは初めて「守る側」としての誇りを胸に刻んだ。
そのとき、ナイアがひょいと頭を突っ込んできて、シグマの頭をわしゃっとかき回した。
「よくやったな、末っ子!」
「やめてよ、むず痒いってば!」
それでも、シグマは誰にも見えないように、こっそり笑顔をこぼした。
――守るべき心を、またひとつ守れた。
ハートシールドの夜は、今日も温かく更けていった。




