第56話「まさかの補講と転校生」
「……なぁ、俺たち……最近、学校行ってなくね?」
ハイネがぽつりと言った瞬間、ナナミとタイチとレントが一斉に顔を見合わせた。
「……あ。」
「……完全に忘れてた。」
「だって代理戦争とか町のお手伝いとかで忙しかったし!」
「忙しかった、で許されるのかよ……。」
結局、次の日。
久しぶりに学園の門をくぐったハートシールド一行は、妙に背筋を伸ばして職員室へと呼ばれた。
「君たち……最近、欠席が目立つねぇ。」
校長が書類をめくりながら苦笑する。
「すみません……町のことで色々と……。」
ハイネが頭を下げると、校長はため息をついて手を合わせた。
「仕方ないねぇ。じゃあ――補講だ!」
「「「「「えぇぇぇぇえええ!?」」」」」
……そして、補講が始まる日の朝。
「おはようございまーす。」
教室の扉が開くと、教師が連れてきたのは――どこからどう見てもサイトの顔をした少年型バイオロイドだった。
「今日からこのクラスに入る転校生だ。シグマくんだ。みんな仲良くするように。」
「……………………。」
沈黙。
ナイアが手を上げて叫んだ。
「正体ばればれじゃねぇか!!!」
「ふふ、よろしくお願いします。」
シグマは涼しい顔で微笑む。
だがさらに衝撃的だったのは、その後ろからフラフラと連れてこられた――バイトだった。
「彼は……私のパートナーです。」
「は!? おまえ、バイトを!? っていうか気絶してんじゃねーか!!」
バイトは椅子に座らされるや否や、こてんと机に突っ伏したままぴくりとも動かない。
「心配で見に来ちゃった……。」
「僕たちも……。」
気がつけば、ナイア邸に残したはずの兄弟たちが廊下の向こうからぞろぞろと顔を覗かせている。
「おいおいおい! おまえらまで来たら……!」
「補講ですよぉ!」と先生が叫んだ。
「あーもういい!! みんなで補講だ!!!」
ナイアが頭を抱えつつ宣言する。
こうして、サーヴァント学園の教室には、ハートシールドの面々と兄弟たち、そしてシグマとバイトという妙な集団が一堂に会することになった。
教壇に立つ先生は頭をかきながら言う。
「……それじゃあ、補講を始めます。」
「「「「「……はぁい……」」」」」
かくして、世界を揺るがす戦いを繰り広げた彼らは、しばしの間、学生としてノートと向き合うことになったのだった。
―――
「……じゃあ、今日の補講はバイオロイド倫理学からだ。」
教壇に立つ先生は、半分あきれた顔で黒板にチョークを走らせた。
「人とバイオロイドは、どのようにして協力すべきか……これが本日のテーマだ。」
「はいっ!」と元気よく手をあげたのは――シグマだった。
「人とバイオロイドは、心を持つべきです。そうすれば、絆が生まれます!」
先生がうなずきかけたその瞬間、ナイアが机を叩いた。
「……てめぇが言うなぁああ!!!」
「なぜですか? 私は誠意をもって――」
「その顔で! その過去で! 誠意とか言うんじゃねえ!」
「静かに!」
先生が額を押さえる。
その横で、バイトはまだ机に突っ伏したまま――ぴくり、と動いた。
「……はっ……ここは……?」
「おい、起きた!」
ナイアが振り返る。
「……授業、ですか?」
「そうだ! 補講だ! ほらノート取れ!」
「……ナイア様、私が居ない間に……何が……?」
「後で説明するから今は授業に集中しろ!」
「……はい。」
兄弟たちも心配そうに身を乗り出す。
「大丈夫?」
「愉快じゃなさそう?」
「……今は愉快です。」
バイトは小さく微笑んだ。
ハイネは問いかけに真剣な顔で答えた。
「……バイオロイドは、パートナーだ。なくてはならない存在だと思う。」
リラリが胸に手を当てて、小さく頷いた。
「……ハイネ様、ありがとうございます。」
「友達、だよね。」ナナミが続ける。
「……はい、ナナミさん。」ミミミも照れくさそうに笑った。
「対等な存在だな。」とタイチが言えば、ユウロが淡々と応じる。
「はい、私はあなたの相棒です。」
「……おまえ、そういうこと言うなよ……照れるだろ。」
レントは隣のガルドを見て、ゆっくりと口を開く。
「俺は……守るべき家族だと思ってる。」
「……光栄です、レント様。」ガルドが深く頭を下げた。
――教室に、しばし穏やかな空気が流れた、その時。
「質問です!」
シグマがまたもや手をあげた。
「……なんだ。」
先生がやや警戒する。
「補講で一番になったら、センドを景品としていただけるのですか?」
「やめろーーー!!!」
教室じゅうのツッコミが同時に飛び交った。
結局、シグマのとんちんかんな質問で補講は大爆笑のうちに終了した。
帰り道、ナイアは汗を拭いながら、夕焼けを見上げる。
「……まったく、なんで俺たちはこんな日常を取り戻してんだか。」
バイトが横で少し考え、そして柔らかく微笑んだ。
「それは、愉快だからです。」
「……ああ、そうだな。」
いつも通りの一日ではなかった。
けれどその一日は、また一つ、大切な“絆”を刻んでいた。




