第55話「とんちき運動会、開幕!」
「……おい、これ……なんだよ?」
ナイアが受け取ったのは、ど派手なリボンがついた招待状だった。
『第1回 人間とバイオロイドの絆を深める!絆★運動会!』
「……絆運動会?」
ハイネが眉をひそめる。
「なにこれ!? なんかイラストがやたら愉快なんだけど!」
ナナミが笑う。
「主催は……AI-Σ!?」
レントが目を疑った。
「とんちき……にも程があるだろ……!」
数時間後、ハートシールドメンバーは町外れの広場に集められていた。
ステージの上には大型モニター。そこに映るのは例のAI。
『さあさあ! 本日ここに、人とバイオロイドの新たなる絆を深める運動会を開催しまぁす!!』
「……マジかよ。」
ハイネは額を押さえた。
そして司会役のAI-Σが、続けて無邪気に宣言した。
『なお! 運動会中は、必ず“相棒と足を結んで”動くこと! バディは、事前に私が適切にシャッフルしました~♪』
「え? シャッフル?」
ナイアが怪訝な顔をした瞬間、頭の中に小さな電子音が響いた。
――エントリー、書き換え完了。
次の瞬間、AI-Σの声が響く。
『はいっ! 発表します! 本日のペアはこちらっ!』
・ハイネ & ユウロ
・ナナミ & ガルド
・ナイア & バイト(AI-Σ)
・タイチ & リラリ
・レント & ミミミ
「……は?」
ハイネがユウロと見つめ合う。
「おい、なんで俺がユウロとだよ!?」
「……規則ですので。」
ユウロは微動だにしない。
「え、私がガルド? なんか……頼もしすぎるんだけど!」
「お任せください、全力で走ります。」
ガルドはすでに構えをとっていた。
「いや、待て、なんで俺の横にバイトが……」
ナイアは隣に立つバイトを見て絶句した。
だが次の瞬間、バイトがにっこり笑った。
「ナイア様! 本日は全力で、愉快を目指します!!」
「……はあ!? おまえ、人間か!?」
ナイアが思わず叫ぶ。
「ナイア様、困惑の表情……素晴らしい!」
バイト(AI-Σ)はますますニコニコ笑顔を見せる。
「ちょっと待て! 俺とリラリ!? なにこの身長差!」
タイチは顔を真っ赤にする。
「……私も、がんばりますので。」
リラリは微笑み、タイチはその言葉に何故か胸が高鳴った。
「え……俺がミミミ?」
レントが戸惑うと、ミミミが一歩前に出て小さな声で。
「……が、がんばります。」
「……あ、ああ……頼む。」
「しかも……センドは景品ってなんだよ!」
ナイアが思わず突っ込むと、ステージの横でセンドが優雅に頭を下げた。
「わたくしを獲得されたペアには……特別賞を。」
こうして、とんちきな運動会が幕を開けた。
バイト(AI-Σ)は足にリボンを巻きながら、隣のナイアを見上げてニコリ。
「では、まいりましょうか。今日の私は、とても……愉快です!」
「……いや、ほんと……おまえ、人間か……!?」
運動会の第一種目は、もちろん――二人三脚から始まった。
「おいユウロ、歩幅合わせろ!」
「最適化中です。」
「が、がんばります、レントさん!」
「おう、任せろミミミ!」
「いけガルド、もっと速度上げて!」
「はい、全力で!」
広場には、笑い声と歓声と、やる気に燃えるバイオロイドと人間たちの声が響きわたっていた。
―――
スタートの合図が鳴り、二人三脚の列が一斉に駆け出した。
「ユウロ! もっと寄れって!」
「了解、速度調整。」
ハイネとユウロはぎこちなくもじわじわ加速していく。
「ガルド! ついてきて!」
「お任せを!」
ナナミはにやりと笑い、堂々としたガルドの歩幅に合わせて力強く駆ける。
レントとミミミは最初こそお互い遠慮がちだったが、すぐにリズムをつかんだ。
「いけるぞ、このまま!」
「は、はいっ!」
――だが、最も注目を浴びていたのは、ナイアとバイト(AI-Σ)のペアだった。
「ナイア様! 左足が先です!」
「わーかってる! おまえタイミング完璧すぎんだろ!」
「ふふ、これが私の“最適化”です!」
くるくると笑うその表情は、普段のバイトよりもずっと生き生きとしている。
「……いや、ほんとにおまえ人間か!? 笑い方まで自然すぎる!」
「本日だけは、そうかもしれませんね!」
タイチとリラリは、走りながらも息を合わせる練習を続けていた。
「左! 右! 左!……ああっ、こっちだって!」
「がんばりましょう、タイチさん。」
「くそ、なんでちょっと嬉しいんだ俺!」
その後も騎馬戦、玉入れ、借り物競争と続いていく。
バイト(AI-Σ)はどの競技でもナイアをリードし、的確に指示を出し、そして常に笑顔を見せていた。
「ナイア様! 次は右! 跳ねてください!」
「おまえが跳ねろ! ……いや、まじで、やべぇなコイツ……!」
「やはり共に体を動かすのは、愉快ですね!」
ナイアは肩で息をしながらも、思わず笑ってしまっていた。
「……おまえ、AIなのに、なんでそこまで……」
「簡単なことです。」バイト(AI-Σ)はにっこりと答える。
「ナイア様と仲良くなるには、どうすればいいか。私が導き出した最適解が――運動会でした!」
「…………バカじゃねぇの!?」
「はい! バカなほど、楽しいです!」
そのやり取りを聞いていた兄弟たちは、思わず顔を見合わせて笑っていた。
「……あれ、いいコンビじゃん。」
「うん、愉快。」
やがて最後のリレーが終わり、観客と参加者が入り混じって拍手を送る。
表彰台には、勝者のリボンが並べられた。
景品のセンドが堂々と現れ、優勝チームに花束を渡す。
「おめでとうございます。……それと、皆さま、本当に愉快でした。」
その日の夕暮れ、ナイアは汗だくのまま芝生に寝転んで空を見上げた。
隣には、まだリボンを足につけたままのバイト(AI-Σ)。
「……なぁ、ほんとにこれが“絆を深める方法”だと思ったのか?」
「はい。今日、笑っていたナイア様を見て、間違っていなかったと確信しました。」
ナイアは思わず吹き出した。
「……やれやれ。ま、たまにはいいか。俺も……楽しかった。」
「それは、とても……愉快です。」
赤く染まる空の下、運動会という奇妙な一日が、確かな絆をまたひとつ深めていた。




