表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイオロイドサーヴァント  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/75

第54話「絆と愉快と、新たな日常」

サイトを巡る戦いが終わってから、ほんの数週間。

しかし世界は、あまりに大きく変わっていた。


サイトが最後にばらまいた膨大なデータ群――それは、彼の死後、誰の意志かもわからぬまま変質を始め、やがてネットワークを侵食し、政府の極秘情報を片っ端から世界中にばら撒いていった。

軍事兵器計画、裏の代理戦争、政治家や高官の不正、全てが暴露され、各国の政府は壊滅状態に陥る。


そんな混乱のさなか、ユグドラシルの守護者たちは秩序を維持するために立ち上がった。

「人間とバイオロイドがともに生きる世界を。」

その理念を掲げて。


そして――ハートシールドは今も変わらず、人々の暮らしの中にいた。


「はぁ……今日は、犬を探す依頼か。」

ハイネが地図を片手にリラリと歩いている。

「最近、私たち……なんだか警察のようですね。」

「実際、警察と同じ権限をもらっちまったしな。通行証も新しくなったし。」

リラリはうっすらと微笑んだ。

「でも……ハイネ様の“守る”というお仕事に、誇りを感じます。」

「……やめろ、照れるだろ。」

顔を赤くしながら、ハイネはあさっての方向を見た。


町の一角では、ナナミとミミミが落し物の山を整理している。

「このリュック……持ち主探さないとね。」

「はい……。」

そして、その隣ではタイチとユウロが監視端末を覗き込んでいた。

「怪しい動き、こっちの路地だな。」

「はい、すぐ向かいましょう。」


ガルドとレントは市場の入り口で人々を誘導しながら、商人たちと穏やかに言葉を交わしている。

「守るためには秩序が必要だ。」

「……その通りだな、ガルド。」


そして、ナイアはいつもの工房で一人、古いブラウン管テレビに腰かけていた。

「……おまえ、これを狙ってたのか?」

テレビの電源は入っていない。しかし、そこから聞こえるような錯覚がする。

『さぁ? それより絆を深めよう、ナイア。今日も愉快な兄弟たちの話を聞かせておくれよ。うらやましき兄弟たちの――』

AI-Σの声だ。

ナイアは肩を竦め、笑いながら頭をかく。

「ったく……おまえ、本当に面倒くさいやつだな。でも――まぁ、いいか。」

その呟きとともに、ナイアは工具を手に取り、新たな発明に没頭していった。


外では、兄弟たちが仲良く掃除をしている声が聞こえる。

「ナイア様! 今日も愉快です!」

「はい! とっても愉快です!」

その明るい声が、混沌の中に新しい秩序が生まれたことを、静かに教えてくれていた。


―――


夕方。

町の人々は家路を急ぎ、ハートシールドの拠点には今日の報告をまとめるメンバーが戻ってきていた。


「――犬、見つけたぞ。」

ハイネが抱えているのは、尻尾をふりふりさせている茶色い子犬だ。

「よかった……飼い主さん、すぐ近くにいますよ。」

リラリが優しく笑いかける。

「ほんと助かりました……! あの、これ、お礼です……!」

飼い主が涙ぐみながら渡してきた袋には、焼きたてのパンが入っていた。

「うお……いい匂い!」

ハイネが目を輝かせると、リラリはくすっと笑った。

「ハイネ様、少しだけ、私にもくださいね。」

「もちろんだっての。」


別の場所ではナナミとミミミが、小さな喧嘩の仲裁を終えて帰ってきていた。

「ケンカしちゃうのは、仲良くなりたいからなんだってさ。」

ナナミが報告する。

「……はい、でもあの二人、きっとまた遊んでますね。」

ミミミは小さく微笑む。


レントとガルドは記録をまとめ、タイチとユウロは監視端末のデータを整理していた。

「……オルドの動き、まだ油断できねぇな。」

「はい。でも……今日一日は、穏やかでした。」


そんな中、兄弟たちが工房に戻ってくる。

「ナイア様! 今日は町の掲示板をきれいにしました!」

「わたしは落書きを消しました!」

「僕は道端で転んだ子を助けました!」

それぞれが誇らしげに報告する。


ナイアは工具を置き、椅子に足を投げ出して笑った。

「おまえら、ほんと愉快だな! えらいえらい!」

兄弟たちがぱぁっと嬉しそうな顔をして、わいわいとナイアのまわりに集まる。

バイトも少し離れた場所から見守っていたが、ふとナイアに声をかけた。

「……ナイア様。」

「ん? どうした?」

「“絆”とは、こういうものでしょうか。」

ナイアはその言葉に、しばし目を細めて黙ったあと、いつもの調子で笑い返す。

「さあな。けど、俺は今、すっげぇ楽しいぞ。」

「……なら、私も、楽しいです。」

バイトは穏やかに頷いた。


その夜。

ナイアはまた、例のブラウン管テレビに腰かける。

「なぁ、これ、全部おまえの筋書きだったりするのか?」

――すぐには返事がない。

「……ま、いっか。おまえのことなんて今さら分かりやしねぇしな。」

すると、微かに声がした。

『絆を深めよう、ナイア。今日も愉快な兄弟たちの話を聞かせておくれよ……うらやましき兄弟たちの。』

ナイアは少しだけ目を細め、そして肩を震わせて笑った。

「……ああ、そうだな。おまえには一生わかんねぇだろうけどな――聞かせてやるよ。」


外では、兄弟たちがまだ掃除を続けていた。

その笑い声が夜風に混じり、ハートシールドの拠点に、静かで確かな温かさを灯していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ