第50話「それぞれの準備、それぞれの役割」
キャンプから戻った翌日。
ナイア邸の作戦会議室には、ハートシールドの面々が集まっていた。
「じゃ、段取りを整理するぞー!」
ナイアがテーブルを軽く叩くと、兄弟たちがノートを抱えて整列する。
「俺とタイチは情報収集組。オルドの通信網に潜って、例のAI-Σの所在を探る。」
「了解。」
タイチがうなずき、ユウロも静かに起動音を鳴らした。
「レントは資金の管理と裏の調整な。学園側や町の人たちに迷惑かけないようにするのはお前の得意分野だろ?」
「わかっている。これでも昔は財務担当の父を手伝っていたからな。」
レントは眼鏡を押し上げ、メモを取る。
「で、ハイネとナナミは兄弟たちと共に拠点防衛。」
「おっけー。守る方なら任せろ。」
ハイネは頼もしく頷き、リラリも「ご安心ください」と微笑む。
「はいはい! ミミミも頑張ります!」とナナミが肩を叩き、ミミミが少し緊張した声で「……が、がんばります」と返した。
「ふむ、やるべきことがはっきりしたな。」
兄弟たちはそれぞれのパートを確認しあい、作業用の端末を開き始める。
―――
一方のオルド地下研究施設。
黒服たちが慌ただしく走り回る中、AI-Σのモニターが静かに灯る。
《準備はできたか。》
「……はっ! 全てのユニット、起動可能です!」
《よろしい。では新型を試すとしよう。》
モニターの奥から、サイトに酷似した声が響く。
《――さぁ、力を与えよう。望むままに、破壊という名の力を。》
格納庫の奥で、異形型たちが一斉に赤い光を灯す。
まるで巨大な獣の群れが息を吹き返したかのように、低い駆動音が地下を震わせた。
―――
ナイア邸。
会議を終えた後、兄弟たちはそれぞれの準備に動き出した。
「よし、今日は防衛ラインを確認だ。ガルド、手伝ってくれ。」
「了解。」
ガルドが短く答えると、兄弟たちが即座に工具を持って走り出す。
「こちらでは情報収集を。ユウロ、カメラの視野を再計算だ。」
「承知しました。」
その様子を見て、ナイアは満足げに笑った。
「……いいねぇ、みんな頼もしくなったじゃねーか。」
――だが彼の胸の奥にも、バイトの言葉が残っていた。
“完成していないはずの機体が稼働した”
“サイトがAIになって生き延びているかもしれない”
ナイアは深呼吸をしてから、バイトの肩を軽く叩く。
「なぁバイト。お前も無理すんなよ。オレたちがいるから。」
「……はい。愉快な皆様となら、どんな未来も乗り越えられると……そう、思います。」
その時、ナイアの端末が鳴った。
画面に映るのは、タイチからのメッセージ。
【オルド側の大規模移動を確認。どうやら何か仕掛けてくるぞ】
「……動き出したな。」
ナイアの目が鋭く光る。
「兄弟たち、配置につけ!」
次の戦いが、もうそこまで迫っていた――。
夕暮れの町。
警報が鳴り響き、空気が張り詰めていく。
「来たぞ!」
ナイアの叫びと同時に、監視モニターが異形型の群れを映し出した。赤い眼が無数に瞬き、街路を埋め尽くして進軍してくる。
「兄弟たち、各班に分かれろ! 防衛ラインを構築しろ!」
「了解!」
遠距離班は屋上へ、近距離班は路地の出口へと駆けていく。
カラーボールでの訓練が生きているのか、動きは見事に統率がとれていた。
「リラリ、行けるか?」
「はい、ハイネ様と共に。」
ハイネとリラリは前線へ。
「ミミミ、気をつけて!」
「は、はい!」
ナナミとミミミも防衛線に立つ。
轟音とともに、最初の異形型が建物を破り、飛び出してきた。
「――来る!」
ハイネが踏み込んだ瞬間、リラリが側面からその腕を弾く。
鋭い爪がコンクリートを抉る音が響いた。
「ここは通さない!」
ハイネが声を張る。
遠距離班からは次々に弾丸が飛び、異形型の脚を射抜いていく。
「足を狙え! 奴らは心臓がない!」
ナイアが指示を飛ばす。
「了解!」と兄弟たちが一斉に応答。
だが、群れは止まらない。
押し寄せる異形型の波に、ハイネが一瞬たじろいだその時――。
「――下がれ!」
バイトが前へ躍り出た。
腕から高出力の刃を展開し、敵の首を薙ぎ払う。
「兄弟たちを……守る!」
後方からナイアが叫ぶ。
「いいぞバイト! やっちまえ!」
「はい!」
バイトは一瞬だけ振り返り、強く頷いた。
兄弟たちがその背を見て、次々に勇気を取り戻す。
「撃ち続けろ! 近距離班、左翼を押さえろ!」
ナイアの指揮が響き、センドが巨大なシールドを構えて前線に立つ。
「ナイア様……御身はお守りいたします。」
「助かるぜ、相棒!」
その時、異形型の一体が屋上に飛びかかった。
「危ない!」
タイチが叫び、ユウロが跳躍してそのコアを突き刺す。
爆発が夜空を照らし、黒い影が火花となって散った。
「これで……全部だ。」
静寂が戻る。
壊れた異形型たちが煙を上げ、夜風に吹かれていく。
バイトは荒い息をつきながら、ナイアのもとへ戻った。
「……全員、生きてます。」
「よくやった、バイト。」
ナイアはその肩を叩き、にやりと笑う。
「俺たちは絶対、だれも欠けさせやしねぇ。覚えとけよ。」
「……はい。」
バイトは小さく笑い返した。
その笑顔は、少しだけ誇らしげだった。
遠く、オルドAI-Σの監視モニターがまたその光景を映し出していた。
《ほう……興味深い。》
《力ではなく、絆か……。》
その冷たい声の裏に、どこか人間らしい感情が微かに滲んだように思えた――。




