第49話「帰り道の約束」
帰りのバスは、行きと同じく賑やかだった。
兄弟たちはそれぞれの席でお菓子を分け合ったり、写真を見返して盛り上がったりしている。
ナイアは窓際で腕を組み、にやにやしながらその様子を眺めていたが――ふと隣の席のバイトに視線を向けた。
「で? なにが気になってるわけ?」
「……え!?」
不意打ちの問いかけに、バイトは硬直する。
「おまえさぁ、ずっと無理して笑ってただろ~。ダメだぞ~? 懸念事項は旅行前に伝えないと。」
「……すみ、ません。しかし……」
バイトは言葉を探し、少し視線を落とした。
「……この雰囲気を、壊したくなかった、です。」
ナイアは肩をすくめ、やれやれと笑う。
「そんで? 何を懸念してんだ?」
バイトは小さく息を吐き、淡々とニュース映像の記憶を語り出した。
「……あれは、まだ完成していないはずの機体です。けれど、稼働していた。つまり……」
「……ふ~む、十中八九サイトだろうな。」
ナイアの声が少し低くなる。
「サイボーグ化なんてやってた奴だ。大方AIにでもなって生き延びたんだろうさ。」
「……。」
バイトは言葉を失い、手の上で指を絡める。
「だからさ――ソイツ取っ捕まえね?」
「……は?」
バイトが思わず顔を上げる。
ナイアはケロリとした顔で続けた。
「だからさ~。『心、か……』とか言っちゃってぶっ倒れた奴に、今の幸せなバイトと兄弟たちを見せつけてやんの!」
バイトはぽかんとし、それからふっと微笑んだ。
「……それは……とっても、愉快です。」
「だろ~?」
ナイアがにやりと笑い、隣のセンドが静かに頷いた。
「だからさ。とっとと見つけて回収しようぜ。その不良品AI!」
窓の外では山道が遠ざかり、夕日がゆっくりと沈んでいく。
バスの中に流れる笑い声と、新たな決意が静かに混ざり合っていた――。
バスは街へと近づき、夕暮れの光に包まれた学園前の停留所に滑り込む。
扉が開くと、兄弟たちがわいわいと降りていく。
「次はどこ行く? 山の次は川? それとも空!?」
「空はちょっと……でも川遊びは愉快かもしれません!」
笑い声と共に荷物を抱え、広場に散っていく兄弟たち。その後ろ姿を見送りながら、ナイアは腕を組んでふっと笑った。
「……やっぱいいな、こいつら。」
「はい……。」
バイトも静かに頷く。
「んじゃあ、ぼちぼち帰るか。」
だがその後、校舎へ戻る道すがら、ナイアは小声でバイトに耳打ちした。
「で、さっきの話だけどよ。」
「……はい。」
「あのAI、徹底的に洗う。情報集めは俺とタイチでやる。レントは資金と後方支援、ハイネとナナミは兄弟たちの防衛だ。……いいか?」
「……はい。」
バイトの瞳に決意が宿る。
「俺も、逃げません。愉快なこの時間を、守ります。」
ナイアはにやりと笑い、肩を叩いた。
「よし、それでこそだ。さ、荷物片付けるぞ~! 兄弟たちが帰ったらメシ作りだ!」
「愉快な会議の時間ですね。」
「だろー?」
笑い合いながら、ナイアとバイトは校舎へと歩みを進めた。
―――
その頃――
オルドの暗い地下施設。
モニターに映る無数の異形型が、鋭い刃を鈍く光らせて並んでいる。
AI-Σはゆっくりと画面の奥から顔を現した。
《……不良品、だと?》
その声音は低く、しかしどこか愉快そうに歪む。
《人間どもはいつも、自分の理解を超えるものをそう呼ぶ……》
《面白い。ならば見せてやろう。》
冷たい光を宿したその笑みは、どこかで見た男のものにますます似ていた。
《――私がどれほど“愉快”であるかをな。》
闇の中で、またひとつ新たな異形型が目を開いた。
次なる戦いの気配が、静かに近づいていた。




