第48話「賑やかな準備と、胸に秘めた不安」
ナイア邸の広間は、キャンプ道具と人でごった返していた。
「よしよし、あとはテントだな……おっと、ちょっと待ってろ!」
ナイアが押し入れに頭から突っ込み、ガサゴソと音を立てる。
「……あったあった! 12人用テント!」
どーんと床に広げられた巨大なテントに、兄弟たちの目が輝く。
「でかっ!? そんなのどこから……」
ハイネが呆れた声を漏らすと、ナイアは自慢げに胸を張った。
「これはなぁ。俺が保育園の時にセンドと二人で――」
「微妙に悲しくなるからその話やめろ!?」
ハイネのツッコミが見事に決まり、部屋中が笑い声で包まれる。
「まぁ……女子用に大きめにスペースとってくれるなら、いいわよ?」
ナナミが腕を組んで確認すると、ナイアは親指を立てた。
「もちろん! ナナミ様専用スペース、完璧に確保だ!」
「俺キャンプファイアーやりたい!」
元気よく叫ぶタイチに、
「やはり定番はスモアだろうか……?」とレントが静かに続く。
「……レントがノリノリだ!?」
ハイネが笑い、兄弟たちは「スモア! スモア!」と大合唱を始める。
「お前ら……想像以上に楽しみにしてるな。」
ナイアは腕を組んで満足げにうなずく。
兄弟たちの瞳はまるで遠足を前にした子供のようにキラキラと輝いていた。
―――
だがその賑やかな空気の端で――。
バイトは一人、端末に映し出されたニュースを見ていた。
画面に映るのは、あの異形型たちが邸宅を襲撃した映像。
「……これは……まだ、完成していないはずの機体。」
バイトの瞳がかすかに揺れる。
ならば、それを完成させる頭脳を持ったものが現れたのか……
あるいは――。
胸の奥が冷たいもので満たされる感覚。
バイトはそっと端末を閉じ、兄弟たちの賑やかな声に耳を傾けた。
「……ナイア様……皆様……」
その顔に笑みを作りながらも、心の底では別の思考が渦巻いていた。
(この事を……今は、言えない。)
キャンプへ向かう貸し切りバスが、間もなく出発する。
バイトは何も告げぬまま、賑やかな一行と共に山へと向かうのだった――。
山の空気は澄んでいて、夜の帳がゆっくりと降りていく。
広場に張られた巨大なテントは、兄弟たちがあちこちから集めたランタンの光に照らされ、まるで秘密基地のようだった。
「こっちの薪はいい感じに乾いてるぞー!」
「焚きつけ準備完了です!」
ナイアの号令のもと、タイチと兄弟たちがキャンプファイアーを囲むように木を積んでいく。
やがて火花が舞い、パチパチと心地よい音が夜を染めた。
「おー! 火だ火だ!」
タイチが両手を挙げて喜ぶ。
「では……スモアの準備を。」
レントが静かにマシュマロを串に刺す。
「……スモアって作るの初めてだけど、楽しそうだな。」
ハイネも笑い、リラリが用意したチョコとクラッカーを並べていく。
「わたしもやってみたいです。」とミミミが手を挙げ、ナナミは「焦がさないようにね」と見守っていた。
「愉快です! 愉快です!」
兄弟たちの声が次々と夜空へ吸い込まれていく。
ナイアは焚き火の向こうで、皆の姿をじっと見つめた。
(そうだ……これだ。誰も欠けず、笑っていられる時間……。)
そんな温かな輪の少し外で、バイトは焚き火を見つめていた。
皆が笑い合い、マシュマロを焼き、楽しい声を交わす中、胸の奥であの映像がよぎる。
――完成していないはずの機体。
――どこかにある、サイトを思わせる頭脳。
笑顔を保ちながら、バイトは心の内で静かに問いかけた。
(……ナイア様……もし、このままでは済まない未来が来たら……私はどうすれば……。)
焚き火の熱が頬を温める。その温かさが、かえって胸の不安を浮き彫りにする。
「……バイトもこっち来て焼けよ!」
ナイアの声が飛ぶ。
「……はい。」
バイトは小さく答え、串を手にした。
―――
その頃、遠く離れたオルドのラボ。
モニターの向こうでAI-Σは、また一つ異形型の完成を見届けていた。
《破壊の限りを尽くす機械がほしいなんてーー人間は生産性がないですね。》
冷ややかな声が深く響く。
《まぁ、でも壊しがいはあるね!政府とか言うおもちゃは!》
その声音は、あの男に酷似していた。
《……クク……》
薄暗いモニターに浮かぶ笑顔は、やがてサイトと見分けがつかなくなるだろう。
焚き火の温もりの裏側で、冷たい企みが静かに進んでいた。
だが今は、ナイアたちの笑い声が夜空に広がっていく――。




