第44話「心臓なき者たちの前線」
学園近くの市街地。
穏やかな午後を裂くように、轟音と閃光が走った。
「来たぞ! オルドの連中だ!」
悲鳴と共に爆発が起き、通りにいた人々が四散する。
最初に気づいたのは、パトロールをしていたミミミだった。
「ナナミさん! あれ……!」
そこには、見慣れぬ兵装を備えた黒服と、無機質な目を光らせたバイオロイドたちが迫っていた。
放たれた光弾が、近くにいたバイオロイドを撃ち抜く。
「機械の心臓……が、焼き切れた……!」
倒れ込む声が響く。
「やめろおお!」
ハイネが駆けつけ、即座に応戦する。だが敵の兵器は見たこともない威力を誇っていた。
そこへ、全力で駆け込んできた二つの影。
「ソイツらの兵器は――機械の心臓を壊すためのものだ!」
タイチの怒鳴り声が響く。
「全員、バイオロイドを引かせろ!」
レントも叫び、銃を構えた。
ナイアが即座に指示を飛ばす。
「ハートシールド、全員撤退! 兄弟たちはバイオロイドを後方へ! 急げ!」
混乱する現場に撤退の号令が響きわたった。
だが――前線にいたバイトと兄弟たちは、一歩も引かなかった。
「なにやってんだ! 早く下がれ!」
ナイアが声を荒げる。
しかし、バイトは静かに前を向いたまま答える。
「……いいえ。我々には、機械の心臓はありません。」
その瞬間、ナイアの目が見開かれる。
「……まさか……!」
バイトは短く頷いた。
「我々なら、この戦場でまだ戦える。」
次の瞬間、バイトが一歩踏み出し、兄弟たちが背を預けて並んだ。
「いっけー! バイトー!」
ナイアの叫びに呼応するように、バイトが一直線に駆ける。
高出力の刃が腕から展開され、敵のバイオロイドたちの兵装を斬り伏せる。
後方で兄弟たちが援護射撃を送り、確実に敵の足を奪っていく。
圧倒される敵陣。
バイトはついに敵陣を突破し、後退しようとするお偉いさんの目の前に立ちふさがった。
その刃を突きつけ、低く告げる。
「次に私の大切なものを傷つけようとしたら……容赦はしない。」
その言葉に、お偉いさんの背筋が凍りつく。
刃先の光が彼の喉元で冷たく光り、周囲の兄弟たちの視線が鋭く集まった。
――心臓を持たぬ者たちが、確かな“心”で戦場を支配していた。
―――
戦場の火は次第に鎮火し、オルドの部隊は散り散りに撤退していった。
煙の向こうから戻ってくるバイトと兄弟たち。
ナイアは駆け寄り、バイトの肩を力強く叩く。
「やったな、バイト! 愉快だったな!」
バイトは少し首をかしげて、しかし穏やかに笑った。
「……はい。皆が守られ、そして誰も傷つかなかった。それは、愉快です。」
兄弟たちも次々と戻り、互いの無事を確かめ合う。
その輪の中で、ハイネはリラリと視線を交わし、小さく頷いた。
その場には歓声が響き、ほんのひとときの安堵と達成感があった。
―――
だが――夜が深まり、ナイア邸の研究室。
誰もいない静寂の中で、ナイアはひとり机に向かっていた。
そこには、戦場から回収されたバイオロイドたちのパーツと、黒く焼け焦げた機械の心臓がいくつも並んでいる。
工具を手に取り、何度も何度も組み直そうとする。
だが、その心臓はすでに取り返しのつかない損傷を負っていた。
「……ちくしょう……」
呟きが漏れ、工具が震える。
さっきまでの明るい笑顔はそこになく、ナイアは肩を落とす。
「守れなかった……こんな……まだ、まだ足りないのかよ……」
ぽたり、と作業台に雫が落ちる。
ナイアは誰にともなく問いかけるように、握ったままの心臓を見つめていた。
外では兄弟たちが楽しげに片付けをしている声が微かに聞こえる。
その声を聞きながら、ナイアはただ、壊れた心臓に一粒、涙をこぼした――。




