第40話「学び、分かち合う愉快」
ナイア邸の広間には、今日もホワイトボードに時間割りがびっしりと書き込まれている。
「では今日の午前は《兵装整備基礎》、午後は《人と機械の応急手当比較論》、その後は自由参加の《サバゲー実践》だ!」
ナイアが軽やかに告げると、兄弟たちが一斉に顔を見合わせ、それぞれの個性を反映した選択をしていく。
「今日は俺は兵装整備に出る。」
「私は応急手当が気になります。」
「サバゲー……また出てみようかな。」
昨日とはまるで違う顔ぶれが授業に集まっていくのを、ハイネとリラリは感心して眺めていた。
「……しっかり個性、出てるな。」
「ええ。皆、違うんですね。」
リラリが静かに頷く。
―――
広間の隅、相談役となったバイトは今日も兄弟の声に耳を傾けていた。
「……実は、兵装とかあまり興味がなくて。」
バイトは首を横に振り、柔らかい声で答える。
「なら、家事全般を学びましょう。得意なことが、きっと役に立ちます。」
次に来た兄弟は、少し照れながら言った。
「……またサバゲーをしたくて。」
バイトは静かに微笑む。
「それなら、ナイア様に相談しましょう。次の実践で組み込んでくださるはずです。」
兄弟たちはそれぞれ頷き、少しだけ自信を取り戻したように見えた。
―――
ナイアの授業は、相変わらず実践的だ。
この日の午後は《応急手当比較論》。
「バイオロイドの応急手当はこう! こっちが人間の場合!」
ナイアは手元の模型を使いながら、弱点箇所の違いや痛覚の伝達について分かりやすく解説していく。
「例えばここ、バイオロイドだと電流が走るけど、人間だと出血で危険になる。覚えておけよー!」
兄弟たちは真剣にメモを取り、人間であるハイネやナナミも思わず前のめりで聞き入っていた。
「……人間と機械、違うところも多いけど、どっちも大事だ。」
ナイアがそう締めくくると、教室代わりの広間に小さな拍手が起こった。
ハイネはその光景を見つめながら、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
――守りたいものを守るため、学び、支え合う。
今日もまた、愉快な時間が流れていた。
―――
レントの屋敷。
和の趣が漂う書院で、タイチとレントは湯呑を前に地図を広げていた。
「……そろそろ、コレクションも底を尽きる頃だ。」
タイチが眉を寄せて呟く。
「ならば、攻め時か。」
レントが短く応じるが、すぐに言葉を重ねた。
「……ああ、でも慎重にだ。」
「分かってるさ。」
湯気が立ち昇る中、二人の視線が鋭く交わった。次に動くタイミングを見極める、その緊張が空気を引き締めていた。
―――
一方その頃、ナイア邸の広間。
ナナミとハイネは、なぜか教壇に立たされていた。
兄弟たちが一列に座り、期待の目を向けている。
「はい、今日の議題はこれだ!」
ナイアが黒板を叩く。
そこには大きく書かれていた。
『機械と人との付き合い方』
ナイアがにやりと笑って最初に口を開いた。
「俺はな、対等! 心があればどれもこれも人間だ! これが俺の答えだ!」
兄弟たちが「なるほど」と頷き合う。
続いてナナミが少し照れながら話し始めた。
「私は……友達、かな? 一緒にいたい存在。 そういう風に思える。」
兄弟たちの中に、優しい空気が流れた。
そして、ハイネに視線が集まる。
しばし黙考したあと、彼はゆっくりと口を開いた。
「俺にとっては……パートナーだ。なくてはならない存在。」
その言葉は簡潔だったが、どこか深い思いがこもっていた。
次の瞬間、広間いっぱいに拍手が湧き起こる。
兄弟たちが小さな手を叩きながら、互いに顔を見合わせて笑う。
ナイアはその様子を見て、にやにやしながら「よっしゃあ!」と親指を立てた。
ナナミは少し恥ずかしそうに微笑み、ハイネは拍手を浴びながらも、胸の奥がほんのり温かくなるのを感じていた。
――人と機械。
その距離を埋める答えは一つではない。
だが、この場所には確かに、互いを想う心が育っていた。




