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バイオロイドサーヴァント  作者:


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第29話「新たな道と、新たな影」

決戦の翌日。

戦場跡の片隅で、バイトはひとり座り込んでいた。

胸の奥がずっとざわついている。

――機械の心臓を持たないはずなのに。

「……あの時……私は、なぜ止まった……?」

彼の手は無意識に胸元を押さえる。

そこには何もない。

ただ人型のフレームと、最低限の駆動機構。

それなのに、戦闘の最中、確かに「痛い」と思った。

「……これが……心……?」

バイトは答えを出せずにいた。


そこへ足音が近づく。

「よぉ、元気そうじゃん。」

ナイアだった。

腕を組み、笑みを浮かべている。

「……私を……処分しないのですか?」

「処分? なんでだよ。」

ナイアは肩をすくめる。

「お前、戦えるだろ? それに面白いじゃん。」

バイトは首をかしげる。

「……面白い、とは?」

「ま、言ってみれば……うちの研究室で雇ってやろうかなって話。」

「……雇う?」

ナイアはにやりと笑った。

「バイトだけに。なんてね。」

隣でリラリが小さく吹き出し、ハイネが呆れ顔をする。

「……ナイア、おまえなぁ……。」

「ははっ、まぁ本気だよ。バイト、お前はこれから“学ぶ”べきだ。戦うだけじゃなく、自分の心ってやつを。」

「……心……」

バイトはゆっくりと頷いた。

「……分かりました。私を……バイトとして、雇ってください。」

ナイアは親指を立てた。

「よし、決まりだな。」


―――


一方その頃、政府中枢では別の会議が行われていた。

「……ユグドラシルの守護者が戦争を禁じるとはな。」

重苦しい会議室で、老人たちが眉間に皺を寄せている。

「バイオロイド同士の戦闘を禁止されては、我々の力の均衡が崩れる。」

「ええ。すでに各国が不満を抱いています。ですが……妙案があります。」

「妙案?」

「……新たな組織を立ち上げましょう。人間同士の争いを抑止するという名目で、ユグドラシルの守護者をその中枢に招くのです。」

「ほう……」

「表向きは平和維持、実態は代理戦争の代替組織です。そこで“合法的に”バイオロイド同士を戦わせる。」

「なるほど……ユグドラシルの守護者に拒否権を与えることで、彼らを取り込むか。」

「はい。世界はバイオロイドの力を必要としている。……ならば、道を作るまでです。」


その決定の瞬間、ハイネたちが守ったはずの未来に、新たな影が落ちていた。

リラリは夕焼けを見上げ、そっと呟く。

「……また、戦わなくてはならないのでしょうか……?」

ハイネがその横で笑う。

「でも、今度は……俺たちが決める。誰も、お前を道具になんてさせない。」

「……はい、ハイネ様。」

新たな風が、彼らの頬を撫でていった。


―――


数日後。

ナイアの研究室では、いつもの騒がしい朝が始まっていた。

「おーい、バイト! その工具取ってくれ!」

「……はい、ナイア様。」

バイトは無表情のままレンチを手渡す。

しかし、その動きはどこかぎこちなく、そして――ほんの一瞬、彼の口元が緩んだようにも見えた。

「おいおい、今笑っただろ?」

「……笑う、という定義が分かりません。」

「分かってなくてもいいさ。今のがきっとそうだ。」

ナイアが肩を叩くと、バイトはほんの少しだけ首を傾げた。


リラリが机の上でケトルを動かしながら、ハイネに話しかける。

「バイト様は……少しずつ、変わっているように見えます。」

「そうだな……機械の心臓がなくても、心ってのは芽生えるもんなんだろう。」

ハイネはそう言って、工具の油で汚れた手を拭った。

「……それにしても、本当に雇っちまったな。」

「バイトだけに、だってさ。」

ナイアがにやりと笑い、リラリがまた小さく吹き出した。

「……またですか、ナイア様……。」

「これぐらいの冗談がなきゃ、やってらんねぇよ。」


―――


その頃、世界は新たなニュースに沸いていた。

政府公式チャンネルが世界配信で宣言を行う。

『――この度、人類の平和維持を目的とした新組織「オルド・ガーディアンズ」を設立することを決定しました。』

画面には、ユグドラシルの守護者の代表が政府高官と握手を交わす映像が映し出される。

『この組織は各国の紛争を抑止するために設けられ、バイオロイドと人間が共に働く理想を体現する場となるでしょう。』


だが、ナイアはニュースを見ながら顔をしかめた。

「……どうせ裏があると思ってたけどな。」

「……どういうことですか?」

リラリが問いかける。

「抑止? 笑わせんなよ。あれは代理戦争の焼き直しだ。表向きは平和維持でも、結局バイオロイド同士を戦わせるんだろうさ。」

「また……戦わされるのか?」

ハイネが拳を握りしめる。

「かもしれねぇ。でもよ――」

ナイアはセンドと目を合わせ、薄く笑った。

「――今度は俺たちが決める。誰かの駒じゃねぇってことを、奴らに見せつけてやろうぜ。」


リラリが静かにハイネの隣に立ち、胸に手を当てる。

「……はい。私たちは、私たちの“心”のために。」

「……ああ、そうだな。」

ハイネは力強く頷いた。


その横で、バイトがふと呟く。

「……心……私にも……あるのでしょうか。」

ナイアはその肩を軽く叩き、笑った。

「あるさ。これから一緒に探していけばいい。」

バイトは小さく頷く。

「……分かりました。では、今日も“バイト”を続けます。」

その言葉に、研究室の空気がふっと柔らかくなる。


窓の外では、ユグドラシルが夕陽を浴びて黄金色に輝いていた。

新たな戦いの予感を胸に抱きながらも、彼らは笑い合い、共に歩き出すのだった。

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