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バイオロイドサーヴァント  作者:


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第24話「交わらぬ対話」

レントの手術は無事に終わった。

包帯の巻かれた腕を軽く動かしながら、彼はまだ戦線に立てぬ悔しさを滲ませている。

「……すまないな。俺が抜けた穴を、お前たちに埋めさせた。」

「いや、あれは誰がやられてもおかしくなかった。」

タイチが言い、ナナミも頷く。

「それよりハイネ、あんた……この間の囮、すごかったじゃない。」

「すごい、じゃ済ませられないけどな。」

ハイネは苦笑を返し、ナイアが肩をすくめた。

「まぁ、囮の適性があるってのは間違いないな。度胸もあるし、敵を引きつける才能だ。」

「それ、褒めてんのか?」

「もちろんだろ。」

ナイアは笑い、場を和ませたが、ハイネの胸にはまだ重たい思いが残っていた。


その日の夕刻。

ひとりで訓練場の外を歩くハイネ。

その後ろにリラリが静かに寄り添う。

二人は言葉を交わさず、夕焼けの差す通路を歩いていた。


ふと、角を曲がった先に、見慣れぬ長身の影が立っていた。

無表情でこちらを見ている――バイトだ。


思わず、ハイネは足を止めた。

「……おまえ……」

リラリも微かに身構える。

バイトは微動だにせず、ただ視線を向けている。


ハイネの胸に、前の戦いの記憶が蘇る。

サイトに従い、冷ややかに人間を撃ち抜いたその指示の先に、このバイトがいるのだ。

込み上げる言葉を抑えきれず、ハイネは声を張った。

「なぁ、なんでおまえは……サイトなんかに従ってるんだ?」


バイトはしばらく黙っていたが、やがて首をかしげるように言った。

「……何故?」

その問い返しがあまりにも素っ気なく、ハイネは眉をひそめる。

「おまえ……自分の考えとか、ないのかよ。」

バイトは目を瞬かせることもせず、淡々とした口調で答えた。

「ありません。サイト様に従うのみ。そのようにプログラミングされています。」


ハイネが言葉を失ったその隣で、リラリがそっと息を呑む。

「……心は……無いのでしょうか?」

思わず口に出した問いかけ。


バイトは微動だにせず、ただゆっくりと首を傾げた。

「……心?」

その顔には感情らしきものは一切浮かばない。

純粋な疑問、もしくはそれすらも模倣しただけの動作。

その不気味さに、リラリはわずかに後ずさった。


「……そう、ですか。」

リラリは胸の機械の心臓にそっと手を当てる。

ハイネは歯を食いしばり、何か言いかけたが、結局言葉を飲み込んだ。


バイトは一歩だけこちらに近づき、感情のない声で続ける。

「……サイト様は、あなた方の戦いを楽しみにしています。」

 そして踵を返すと、夕焼けの奥へとゆっくり歩き去っていった。


残された二人は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

「……話が、通じない相手だな。」

「……はい。けれど……」

リラリは小さく首を振る。

「何かを、感じるような気がしました。」

「……そう、か。」

ハイネは深く息を吐き、彼女の手を強く握った。

「俺たちは……俺たちの戦いを貫こう。どんな相手が来たってな。」

「……はい、ハイネ様。」


夕焼けの光が二人の影を長く伸ばす。

その先に待つのは、また新たな戦場――だが、彼らの歩みは止まらなかった。


―――


――夜、薄暗い研究棟の一室。

バイトは静かにサイトの前に立っていた。

「……サイト様、ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか。」

「ん? どうした、バイト。」

サイトは工具を回しながら振り返る。

その顔には常と変わらぬ薄い笑み。


「……心とは、何ですか?」

一瞬、サイトは工具の手を止め、そしてふっと笑った。

「心? はは……珍しい質問だねぇ。」

椅子をくるりと回し、バイトを見据える。

「心っていうのはさ、人間に搭載された“考え”、行動するための“プログラム”だよ。バイオロイドみたいな機械にはあまり馴染みがないものだね。」

バイトは無言で聴き続ける。


「例えば!」サイトは指を立てた。

「あの子たちが見せた“悔しい”って感情や、“憎い”って顔。あれも心から来るものさ。たのしい、うれしい、つらい……全部、心が生み出すんだ。」

そこでサイトは笑みを深め、声を低くする。

「でもね、心は人間を強くもするし、機械を弱くもする。」

「……弱く。」

「そうさ、バイト。だから君には心は不要さ!」

サイトは椅子の背もたれを軽く叩き、満足そうに言い放った。


バイトはしばらく黙した後、目を伏せ、ゆっくりと一礼する。

「……はい、サイト様のお心のままに。」

その瞳には、光も影も映らなかった。


―――


翌朝、学園の訓練棟。

ナイアが作戦会議の資料をモニターに映し出すと、緊張した空気が部屋を包んだ。

「……今回の相手も、サイトの息がかかってる。」

ナナミが息を呑む。

「また、あいつが……?」

「ああ。」

ナイアは頷き、資料を切り替えた。

映し出されたのは、見たこともない特殊装備を施されたバイオロイドたちの映像だった。

「しかも、このバイオロイド改良計画は……サイト肝いりの計画だそうだ。」

レントが低く呻く。

「……つまり、あの狂人の“お気に入り”ってわけか。」

タイチが苦笑する。

「そういうことだな。俺たち、また命懸けか。」


ナイアは立ち上がり、皆を見渡した。

「これに勝ったら……決勝だ。」

控室の空気が一層張り詰める。

「決勝の相手は……そう、サイトだ。」

誰もが息を飲む。

ミミミがナナミの手を強く握った。


「……その覚悟はあるかい?」

ナイアの問いかけに、誰もすぐには答えられなかった。

だが、ハイネがゆっくりと顔を上げ、静かに言った。

「……あるさ。俺はリラリと、みんなと戦うって決めた。」

リラリがすぐに応じる。

「私も……ハイネ様と共に。」


ナナミは唇を噛み、そして強く頷いた。

「当然よ……あたしのパートナーを、あんなやつに好き勝手させない!」

「ナナミさん……はい、私も。」

ミミミも続く。


タイチが肩に乗るユウロを撫で、レントが片腕を見下ろしながら拳を握る。

「……無論だ。」

「俺もさ。」


ナイアはその決意の顔を見て、ニヤリと笑った。

「よし。なら次は、絶対に負けられない戦いだ。全力で準備するぞ。」

チームの視線がひとつに集まる。


そのとき――誰も気づかない場所で、バイトが次の戦場のデータを静かに整理していた。

「……心……必要ない。」

そう呟き、彼はサイトにデータを送信する。


その夜、サイトは上機嫌に笑っていた。

「いいねぇ……いい表情するようになってきたじゃないか。じゃあ、最高の遊び場を用意してあげないとね。」


嵐の前の静けさの中、ハイネたちは決戦への覚悟を胸に刻むのだった――。

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