みちゅらん日和
「と、いうことでつ。最高のおもてなしをするでつ。みんな頑張るでつよ!」
「「「ニュオ〜ッ!」」」
今日は9月99日の太曜日。待ちに待った『みちゅらん』調査員の訪問日だ。
「じゃ、ポク帰るでつ!」
「「「オッチャンデス!!( ᐛ )」」」
二日酔いのため早退した店長の無念を晴らすべく、残りの従業員が一丸となって取り掛かる。
30分後。
店内はてりやきソースのいい匂いに包まれていた。緊張したアルクとカケルとトマリとムーンウォークがそれぞれ酒、砂糖、醤油、みりんを床にぶちまけ、それらが床暖房により煮詰められたのだ。
カランカラン
ドアベルの音が鳴り響く。本日初の来客だ。
「おい、金を出せ!」
入ってくるやいなや包丁を取り出して叫ぶ目出し帽の大男。
厨房はこのイレギュラーな事態に騒然となっていた。
「確かみちゅらんの調査員って覆面って話だよなヒソヒソ」
「てことは、あの人が!!!! ヒソヒソ」
「この店にある1番いい物を出そう! ゲルベヒョカーッペ!」
緊張のあまり床に伏せて会話するシェフ達。てりやきソースの過剰摂取により、粘ついた痰がとめどなく溢れ出ている。
「おい! 金はまだか!」
待ちきれない様子の大男。
「あいつ金出せって言ってるぞ」
「星つけてやる代わりに金よこせってことか?」
「そんな不正、店長は絶対に許さないだろ」
「もしかして俺たちのこと試してるんじゃないか?」
「だとして、どう対処すればいいんだ?」
「オレが出よう」
「お前は⋯⋯!」
名乗りを上げたのは⋯⋯誰だこいつ。
「オレか、オレは通りすがりの宇宙人だ。よろピコ」
名乗りを上げたのは、通りすがりの宇宙人だった。
「頼んだぞ、宇宙人!」
「任せておけ」
宇宙人はそう言うと厨房の冷蔵庫からギターを取り出し、大男のもとへ向かった。
「あ? なんだお前? 金持ってんのか?」
「まぁ落ち着け。そしてこれを見ろ」
宇宙人がギターを掲げてそう言った。
「金の代わりになるとでも?」
「あワン、あツー、あワン、トゥー、thリー、フォ」
「弾くつもりか?」
「えっ」
「えっ?」
「せっかく弾こうと思ったのに、なんかそうやって予想されるとやる気なくなるなぁ」
「悪かった、まさかこのタイミングで弾き始めるとは思わなくてな」
「あーあもうほんと最悪。もう弾かん。略してモヒカン」
「まぁまぁそう言わずに、1曲だけでも弾いてくれよ、な?」
「いや弾かん。絶対弾かん。完全に溝に入った。もうお前がいる空間では一生弾かん」
「そこをなんとか!」
「ダメ! 弾かないったら弾かない!」
「どうしてもですか!」
「どうしてもです!」
「絶対にですか!」
「絶対にです!」
「ダメですか!」
「ダメです!」
「100万円払うって言ってもダメですか!」
「えっ全然いいよ」
「⋯⋯合格です」
「ということはやはり貴方が!」
「その通り、みちゅらんガイド調査員のコクワガタと申します」
目出し帽を脱いだコクワガタの顔は桃太郎と鬼とメロスとセリヌンティウスを足して400万で割ってアンミカを足したような見た目をしていた。
「私の味覚は200種類あんねん」
なんと、コクワガタ(以降、コクワ)は200種類の食べ物を判別する舌を持っているというのだ。
「どうぞこちらへ」
宇宙人がコクワを席へ誘導する。
「では失礼して⋯⋯」
ブッ
コクワの放屁により、店内の空気が凍った。
「今のは屁です」
「え!? あ、え、あ、あ、はい! ではごゆっくりどうぞォ!」
宇宙人は動揺しながらスタスタと店を出ていった。もともと部外者だからね。
カチ カチ カチ カチ カチ
静寂の中、秒針の音だけが響いていた。
「お待たせいたしました、デスビビンバです」
「えっ」
皿に乗った緑色の物体を見て驚きを隠せない様子のコクワ。
「あの、これ⋯⋯」
「あ、これですか? これは裏に生えてた草です」
なんと、皿に乗っていたのは店の裏に生えていた草であった。
「じゃあデスビビンバっていうのは⋯⋯」
「あ、それは僕の名前です。田中デスビビンバって言います」
「えーっ!?」
「?」
「下の名前名乗るシェフいます!?」
「いや、田中ですって言っても何も印象に残んないでしょ」
「それはそう。いつも店出る頃には忘れてるわ」
「そうでしょうそうでしょう。分かったら早くこの草をお食べ」
「それでは、いただきますムシャムシャ」
そう言ってフォークに手を伸ばすコクワ。
「まずは香りから」
フォークに乗せた草を鼻に近づける。目を閉じて、感覚を鼻に集中させているようだ。
「イヌのしょんべんのニオイがします」
「この街イヌいませんよ」
「チッ」
「舌打ちしても事実は変わりませんよ」
「間違えました、ネコのおしっこでした」
「ネコもいませんよ」
「そうだ、人間の尿だ!」
「人間もいませんよ」
「じゃああなた達なんなんですか」
「妖精です」
「アンパンマンみたいな街ですねムシャムシャ」
「アンパンマンはジャムおじさんとかいるじゃないですか」
「人間じゃないらしいですよ」
「なにそれ怖」
「それでは、いただきますね」
「はいどうぞ」
「はむっ、クッチャクッチャクッチャクッチャ」
「クチャラーかよ」
「電車みたいな味がして非常に美味しいです。お店で出せるレベルですよこれ」
「電車ってなんですか?」
「電車は電車ですよ、人間が乗るやつ」
「馬の別名ですか?」
「まあそんなところです。次の料理はまだですか」
「今作っているところです。ちょっと見てきますね」
デスビビンバが厨房に戻ると、シェフ達があたふたしていた。
「どうした? なにか探してるの?」
「ないんです!」
「ぶち殺すぞてめえ」
「意訳すると『主語を言え主語を。毎回毎回イライラするんだよそれ。次言ったらぶち殺すぞてめえ』ですね」
「なら最初から言えよ」
「冷蔵庫に入れておいたギターがないんです!」
「なんだって!? 今日のメインディッシュじゃないか!」
「どうしましょう田中さん! 冷蔵庫にはもう本マグロと黒毛和牛とマンガリッツァ豚とゲームボーイしかありません!」
「⋯⋯最終手段だ。奴を呼ぼう」
「な⋯⋯! 奴を!?」
「こんな時なんだ、仕方がないだろ」
「そ、そうですね⋯⋯しかし奴がこの店に⋯⋯」
10分後。
「どうも、藤井善治123号です。オラッ」
「グハァ!」
この男は最強戦士3人を黒魔術で混ぜ混ぜして作った超最強の戦士で、常に誰かを殴っている。今の一撃でアルクが死亡した。
「メス」
手を横に出し、声をかける123号。その眼差しは真剣そのものだった。
「はい、どうぞ」
しかし、店内にメスなどある訳もなく、アルク(霊体)は食器棚からこんにゃくを取り出して手渡した。
「汗」
「はい」
しいたけで汗を吸い取るアルク(霊体)。
「電気メス」
「どうぞ」
ポン酢を手渡すアルク(霊体)。
「フーッ⋯⋯」
息を切らしながらも、寸分の狂いもなく手術を進める123号。
「あとはここを繋げば⋯⋯よし!」
「先生!」
「成功です。それでは⋯⋯オラッ!」
「ぐほぁ! ありがとうございます!」
机の上には、本マグロの大トロに鉛筆を40本刺したものが置かれていた。鉛筆は6面にそれぞれ運勢が書かれているもので、全ての鉛筆の大凶以外が塗りつぶされていた。
「お待たせいたしました。メインディッシュの『ギターソロ』でございます」
「いただきマッスル( 'ω')」
鉛筆を全て抜き、マグロに醤油をかけてかぶりつくコクワ。
「酸っぱ」
「お口に合いますでしょうか」
「はい。みちゅらん6つ星を差し上げます」
「わーい(^q^)ありまとー」
「どういたちまちてー(^q^)」
こうして無事にみちゅらんの星を獲得することの出来た一同は、その日の営業をほったらかしてウキウキ気分で帰宅した。店長は二日酔いでそのままこの世を去った。