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第27話 特別すぎる日常


城内を歩くと、光也は常に様々な視線に晒された。


豪華な絨毯が敷き詰められた廊下、陽光が降り注ぐ中庭、活気に満ちた食堂。


どこへ行っても、彼の存在は異質なものとして際立った。


まるで、透明なガラスケースの中に閉じ込められた珍しい標本のように、人々は彼を観察し、評価していた。



通り過ぎる使用人たちは、恭しく礼をする者もいれば、一瞬だけ、露骨な冷たさを帯びた視線を向けてくる者もいた。


その視線は、彼の肌をひりひりと刺した。ある日、光也は物陰に身を潜めていた。


近くの物資搬入口で、騎士団の若い衛兵たちが、ひそひそと話す声が耳に届いた。



「おい、聞いたか? スキル無しだとよ? あの子がなんで、あんな特別待遇なんだ?」


「まったくだ。俺たちだって、命を懸けてるってのに、あいつだけぬくぬくと……」



彼らの声は、光也の背中に突き刺さるような鋭さだった。


胸の奥がぎゅっと締め付けられた。


(僕がここにいるのが、そんなにおかしいことなのか? 僕だって、好きでここにいるわけじゃないのに……)


自分がこの城にとって完全な’’異物’’であるという感覚が募り、光也は人通りの多い場所を避けるようになった。


部屋の窓から、庭園の隅にある日陰のベンチを眺めることが、彼のささやかな楽しみとなっていった。



しかし、一方で、奇妙なほど行き届きすぎた配慮も存在した。



例えば、夜中に目を覚ますと、ベッドの位置がほんの少しだけ変わっていて、窓から吹き込む冷たい風が直接顔に当たらないようになっていた。


寝返りを打った時に無意識に動いたのだろうかと首を傾げたが、毎日同じように位置が修正されていることに気づいた。


毎晩用意される夜食も、不思議なほど彼の気分や体調に寄り添っていた。


ある日は甘さを控えめにした温かいスープ、別の日は温かいミルクと軽いクッキー。


彼がほんの少しでも食欲を示した翌日には、以前よりも少し豪華な夜食が用意された。



まるで、彼が何を求め、何を心地よく感じているのかを、誰かが常に観察しているかのようだった。



新しく用意される服のサイズも、毎日微妙に調整され、常に彼の身体にぴったりと合っていた。


(こんなに完璧すぎるなんて、逆に気持ち悪い……全部、"実験観察"の一部なんじゃないか? 僕の行動も、体調も、全部測られてる? まるで動物を飼育してるみたいだ。)





昼下がりの日差しが城の中庭を明るく照らしていた。


石畳の上では、若い転生者たちが剣を交わす金属音と魔力の光が弾ける音が響き渡る。


彼らの顔には真剣な眼差しと、自らの力を試す喜びが浮かんでいた。


訓練場の隅では、ローブをまとった魔導士たちが生徒たちに魔法陣の描き方を指導しており、時折、眩い光が閃いた。


そこには、生き生きとした生命の躍動があった。



中庭の一角に設けられた観覧スペースでは、フィオナ王女と文官たちが生徒たちの様子を視察していた。


光也は影になった場所に身を寄せ、彼らの訓練を食い入るように見つめていた。


無意識のうちに体が熱を帯び、手のひらに汗がにじむ。


この活気に満ちた光景から自分だけが切り離されているように感じ、胸が締め付けられた。



(僕も、あの中に入りたい。何か、できることがあるかもしれないのに……)



フィオナが文官たちと話しているのを見計らい、光也は意を決して近づいていった。



「あの……僕にも、できることがあるかもしれない。何か、役に立てるように――」



緊張で声が震えていた。


もしかしたら、自分にも何か役割が見つかるかもしれない。


このまま"飼育"されるだけなんて嫌だ。


せめて、少しでも彼らに近づきたい。役に立ちたい。



文官の一人、柔和な顔立ちをした老人が、光也に優しく、しかし断固とした口調で返答した。


まるで脆いものを扱うかのように細心の注意を払いながら、その声には光也を傷つけまいとする配慮と決して譲らない決意が混じっていた。



「光也様……この世界に、スキルを持たず生まれた者など、かつて一人も存在しませんでした。ですから、私たちは貴方を"守る責任"があります。……訓練場の魔力障害が、貴方に何をもたらすか、誰にも分からないのです」



その言葉は、光也の存在そのものがこの世界の常識から逸脱した「異物」だと宣告しているようだった。



胸に鉛のような重みが広がり、頭の中で言葉が反響した。


(つまり僕は、世界初の異物……。研究対象として隔離されているのか? "人間としての生活"ではなく、"サンプルとしての飼育"なのか? 僕が「問題」を起こさないよう、ずっとここに閉じ込めておくつもりなんだ……)


訓練の喧騒は、彼にとって自身の孤立を際立たせる音へと変わっていった。


剣と剣がぶつかる音、魔力の光が弾ける音、若者たちの歓声――それらすべてが、手の届かない遠い世界の出来事のように聞こえた。


自分の存在がこの世界にとって「不適合」であり「危険」だと烙印を押されたような感覚に陥り、光也はその場を立ち去るしかなかった。


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