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第127話 すべてを拒絶する


石段をひたすら下り続けた先、空気は一気に冷え込み、湿り気が肌にまとわりついた。


長い通路を抜けた瞬間、一行の視界に広がったのは、圧倒的な空間だった。


そこはまるで地中に隠された大聖堂。


天井は果てしなく高く、光晶石が星空のように瞬き、闇に散らばる銀河を思わせた。


その中央に、唯一無二の存在が鎮座していた。



漆黒の供物台。



高さは人の背丈ほど。


磨き抜かれた黒い石は光を吸い込み、表面を走る淡い脈動だけが「生きている」ことを告げていた。


周囲の石床には円環状に古代文字が刻まれ、幾重もの模様が台座を守るように取り巻いている。




言葉にできない拒絶。


呼吸が重くなり、心臓が握り潰されるような感覚。


ただ立っているだけで、存在そのものを否定されるような圧迫感。



グレンナが歯を食いしばる。


「……なんだ、この……圧……!」



マリスでさえ額に汗を浮かべ、眉をひそめた。


ティナは思わず後ろへ下がり、エルメラが口元を押さえる。



誰もが理解した。


ここは、ただの祭壇ではない。


すべてを拒絶する結界の根源――その中心部。


踏み込んだ瞬間から、この場そのものが「お前たちは不要だ」と告げていた。



重苦しい沈黙の中、最初に足を踏み出したのはグレンナだった。


「チッ、こんなもん力づくで押し通ってやる!」


唸るように叫び、肩をいからせて供物台へ駆け寄る。


だが、あと数歩というところで――。


バチン、と空気がはじけた。


次の瞬間、無形の壁に弾かれるようにして、グレンナの体が後方へ吹き飛ばされる。


分厚い石床に叩きつけられた衝撃で、彼女は呻き声を上げた。


「……っ、クソッ……何だってんだ……!」



「やっぱり……」


マリスが険しい表情で一歩前に出る。


両手に魔法陣を展開し、結界の流れを測るように慎重に歩を進める。


だが、数歩と進まぬうちに圧力が全身を押し潰すようにのしかかり、足が動かなくなった。


額に汗を浮かべ、マリスは小さく首を振る。


「……駄目。これ以上は……歩けない」



その隙を狙うように、ティナが音もなく影のごとく走り出した。


風のようにしなやかに滑り込み、壁をすり抜けるかに見えた。


だが、結界の中心に近づいた瞬間、何かに背中を掴まれたかのように急激に押し戻される。


足は地を離れ、軽い体が宙を舞った。



「……っ!」


ティナは咄嗟に受け身を取ったが、悔しげに奥歯を噛む。


「影すら拒む……ってことね」



最後にイルセが震える手で護符を取り出した。


祈るように胸の前で掲げ、静かに供物台へと歩を進める。


古びた護符は確かに反応し、彼女の足を一歩だけ押し進めた。



しかし――それ以上は無理だった。


護符が光を放ちながらも、結界の拒絶は揺るがない。


イルセは立ち止まり、皆を見回した。


「……護符をもってしても……これが限界なのです」



誰もが理解した。


この場は人を選ばない。


むしろ――すべてを拒絶する。


彼らはただ、その圧倒的な拒絶の前に立ち尽くすしかなかった。



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