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第114話 ルミナリスの合流


ティナは枝をかわし、泥に足を取られながらも必死に前へと進む。


背後からの追手の気配はもう消えていたが、油断すれば即座に危険に飲み込まれるような緊張が胸を締めつけていた。


ようやく視界の先に小さな石造りの建物が現れる。


仲間たちの拠点だ。


扉を押し開けると、鼻をつく血と土の匂いが漂い、そして――すでに先に戻っていたマリス、グレンナ、エルメラの姿があった。



「……ティナ!」


エルメラが立ち上がり駆け寄ろうとするが、マリスが手で制した。


室内の隅には縄で縛られた男たちが横たわっていた。


封律兵だ。鎧は泥にまみれ、顔には擦り傷が残り、ぐったりと気を失っていた。



「封律兵を捕らえた」


マリスが淡々と説明する。


低い声には疲労の色が混じっていた。


「何か大きな争いがあったようだ。……奴らが目覚めたら事情を聞くつもりだ」



その横で、腕を組んだグレンナが鼻を鳴らした。


「ったく……エルメラがあんなことするから。やりすぎなんだよ。」



「な、なによそれ!」


エルメラがむっと顔を赤らめる。


二人の小競り合いを見て、ティナは思わず小さく息をついた。


この空気—疲弊の中にありながらも、確かに"仲間の拠点"に帰ってきたのだと、ようやく実感できた。



かすかなうめき声と共に、床に横たわっていた封律兵の一人が瞼を開いた。


次の瞬間、彼は荒々しく体を起こそうとする。


「……っ、ここは……離せ!」


声はかすれているが、まだ戦う意志が残っていた。



マリスは一歩近づき、冷ややかに言葉を投げた。


「落ち着け。ここで騒いでも逃げ道はない。私たちはただ、聞きたいことがあるだけだ」



「答える義理など——!」


兵士が言い切る前に、グレンナが後ろから蹴りつけた。


「義理がどうした。お前らは光也を殺そうとしたんだろう」


低く唸るような声。


兵士の顔から血の気が引いていく。



エルメラは眉を寄せながらも、静かにその場を見守っていた。


ティナは壁際に立ち、兵士から視線を逸らさず鋭く観察し続けた。



短い沈黙の後、兵士の唇が震え始めた。


「……そうだ。我らの標的は――光也、という名の男だ」



その名を聞いた瞬間、部屋の空気が凍りついた。


ティナは思わず拳を強く握りしめる。



「やはり……」


マリスが小さく息を吐いた。


「なぜ彼を?」



兵士は首を振り、唇を噛みしめた。


だがグレンナが腕を掴んで捻ると、呻き声と共に言葉がこぼれ出た。


「……理由までは知らされていない。だが……我らの部隊は……たった一人の男に……返り討ちにされた」


その告白に、場に静寂が広がった。


残ったのは、炎がぱちぱちと爆ぜる音と、それぞれの胸に芽生えた焦燥感だけだった。



捕らえた兵士の呻き声が再び沈黙に沈むと、場の視線は自然とティナに集まった。


壁際で身を支えていた彼女は、深く息を整え、静かに口を開いた。


「……見たわ。奴らの指揮官――ヴェスタンと呼ばれていた男よ。重々しい声で命令を下していたの」


その名を口にした途端、マリスがわずかに眉を寄せた。


ティナは続ける。


「第一目標は……光也。はっきりとそう言っていた。彼を確実に仕留めるために部隊を動かしているわ」



部屋の空気が重く沈む。エルメラは小さく息を呑み、グレンナは舌打ちした。



「それだけじゃないわ」


ティナは唇を噛んだ。


「第二目標は――ディアル領域結界の核。さらに、副次目標として"魂柱"の回収も掲げていた。……村そのものを狙っているのよ」



「魂柱……?」


マリスが小さく繰り返した。


深く考え込む表情には、ただならぬ意味を察している様子が窺えた。



ティナの脳裏に、もう一人の姿がよぎる。


「ヴェスタンの隣には女がいたわ。ティセルと呼ばれていた。黒衣に身を包み、冷たい目をしていて……。彼女は作戦の隙を一つ残らず埋めていた。まるで、兵の動きを完璧に制御しているようだった」


言葉を切った瞬間、ティナの身体がわずかに震えた。


思い出すだけで、あの双眸に射抜かれた感覚が蘇る。


「……私、気づかれたの。完璧に隠密していたはずなのに。あの女、ただ者じゃないわ」



しばしの沈黙。


火の粉がぱちりと弾ける音が、拠点の空気をさらに張り詰めさせた。


マリスが静かに、しかし重みのある声で言った。


「……ヴェスタン、ティセル、そして議会の標的。間違いなく、最大の危機が迫っている。光也を守らねばならない」



ティナは静かに頷いた。


「……あいつ、危なっかしいにも程があるな」


グレンナが苦笑を浮かべながら言葉を吐き出す。


だが、その目は心配を隠しきれていなかった。



「光也くんを一人にしてはいけません。絶対に」


エルメラが強く言い切る。


小さな拳を胸元でぎゅっと握りしめ、その瞳は真っすぐに前を見据えていた。



重苦しい空気の中、マリスが全員を見渡した。


「ここで迷っている場合ではない。議会に先んじて光也と合流する。それが私たちにできる唯一の道だ」



その言葉に、全員の視線が交差し、静かな決意が共有された。


ティナもうなずき、短く力強い言葉を添えた。


「……必ず、守る」


やがて四人の想いは一つに結ばれた。


ルミナリスは光也のもとへと歩み出すことを選んだのだった。



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