アフタートーク:星空の下の宴
(エンディングの喧騒が嘘のように静まり返った後、あすかに導かれて一同がやってきたのは、暖炉に火が灯り、壁には古い絵画や書物が飾られた、温かく居心地の良い雰囲気の部屋だった。中央の大きな木製テーブルの上には、すでに湯気を立てる料理や、冷えた飲み物が豊富に並べられている。それは、先ほどのサロンとはまた違う、まるで誰かの私的な晩餐に招かれたかのような空間だった。)
あすか:「ささ、皆様、こちらへどうぞ。討論、本当にお疲れ様でございました。今宵のささやかな晩餐です。どうぞ、ごゆっくり。」(一同が席に着くのを笑顔で見守る)
ハイゼンベルク:(目の前の白ソーセージとプレッツェルを見て、目を輝かせ)「おお! これは…ヴァイスヴルストじゃないか! まるでミュンヘンにいるようだ!」
シュレーディンガー:(薄く叩かれたカツレツをナイフでつつきながら)「ふむ、ヴィーナーシュニッツェルか。ウィーンのカフェを思い出すな。それに、このザッハトルテも…完璧だ。」
ボーア:(色とりどりのオープンサンドを眺め)「スモーブローとは…懐かしい。コペンハーゲンの研究所で、議論の合間によく食べたものだよ。」
アインシュタイン:(素朴な見た目のマウルタッシェンを指し)「これは…シュヴァーベン地方の郷土料理だね。私の故郷ウルムの味だ。それに、このクッキーは…ヴァイオリンの形をしているのかね?」(少し嬉しそうに手に取る)
あすか:「皆様のお好みや、思い出の味をご用意できれば、と思いまして。」(にっこり微笑む)「よろしければ、皆様、ご自身の前の料理を少しご紹介いただけますか?」
ハイゼンベルク:「では僭越ながら私から。このヴァイスヴルストは、バイエルン地方、特にミュンヘンの名物でして、仔牛肉を使った白いソーセージです。伝統的には午前中に、この甘いマスタードとプレッツェル、そして白ビールと一緒にいただくのが作法でして…いやはや、最高です!」(早速ビールを一口飲む)
シュレーディンガー:「私の前のヴィーナーシュニッツェルは、ご存知の通りウィーンを代表する料理だね。仔牛肉を叩いて薄く伸ばし、パン粉をつけて揚げた、シンプルなものだが奥が深い。レモンを絞っていただくのが定番だよ。食後のザッハトルテとコーヒーも、ウィーンのカフェ文化の象徴だ。」
ボーア:「このスモーブローは、デンマークの国民食とも言えるオープンサンドイッチだ。ライ麦パンの上に、バターを塗って、ニシンの酢漬けやローストビーフ、エビ、レバーペーストなど、様々な具材を彩りよく乗せていただく。組み合わせは無限大でね、見た目も楽しいし、議論の合間のエネルギー補給にも最適だった。」
アインシュタイン:「このマウルタッシェンは、シュヴァーベン地方の、まあ、ラビオリのようなものだね。ひき肉や野菜をパスタ生地で包んで茹でたり焼いたりする。質素だが滋味深い家庭料理だよ。(ヴァイオリン型のクッキーを眺め)そして、このクッキーは…なかなか気が利いているね。音楽は私の良き友だからな。」
(和やかな雰囲気の中、一同は互いの料理を少しずつ味見したり、故郷の思い出や食文化について語り合ったりする。ハイゼンベルクとアインシュタインは、先ほどの音楽談義の続きを楽しんでいるようだ。ボーアとシュレーディンガーは、芸術や哲学について静かに意見を交わしている。あすかも時折会話に加わり、飲み物を勧めたり、料理の説明を補足したりしている。科学の難問から解放された天才たちの、人間味あふれる穏やかな時間が流れる。)
(しばらく歓談が続いた後、ふとアインシュタインが、考え込むようにワイングラスを置き、あすかに視線を向けた。)
アインシュタイン:「…ところで、あすか君。」(真剣な眼差しで)「先ほどから考えていたのだがね…。この状況は、一体どういうことなのだね? 我々は、異なる時代、異なる場所から、こうして一堂に会している。そして、まるで我々の心を読むかのように、思い出の料理まで用意されている。これは…尋常なことではない。」
シュレーディンガー:(アインシュタインの言葉に頷き)「確かにそうだ。まるで都合の良い夢を見ているかのようでもあるし、あるいは、非常に高度な…一種の思考実験の中に我々がいる、とでも言うべきなのかね? この部屋の存在自体が、物理法則を超えているように思える。」
ハイゼンベルク:「可能性としては…量子力学的に考えれば、我々の意識が、このクロノスという装置を通じて、何らかの形で接続され、共有された仮想空間を体験している…とか? あるいは、多世界解釈のように、我々が集まることが可能な『世界線』が選択された…とかでしょうか?」
ボーア:「あるいは、これもまた、我々の現在の認識や理解を超えた、未知の現実の一側面なのかもしれないな。量子力学が我々に示したように、理解できないからといって、その存在を頭から否定すべきではないのかもしれん。」
アインシュタイン:「いや、ボーア君、それは違うだろう。どんな現象にも、必ずそれを支配する物理法則、あるいはそれを可能にする技術があるはずだ! この不可思議な現象にも、必ず合理的な説明があるはずだ。(あすかとクロノスを交互に見ながら)このクロノスという装置が、時空を操作する鍵なのか…? あすか君、君は何者なんだね? この『歴史バトルロワイヤル』とは、一体…?」
(他のメンバーも、アインシュタインの問いかけに同意し、それぞれの視点から、この状況の謎を解き明かそうと、再び議論が白熱し始める気配を見せる。しかし…)
(あすかは、彼らの真剣な問いかけと考察に対し、一切答えることなく、ただ静かな、どこか全てを見透かしたような微笑みを浮かべている。そして、ゆっくりと、テーブルに置かれたクロノスに指を滑らせた。)
(その瞬間――部屋全体に、まるで星屑が降り注ぐようなキラキラとした優しい効果音が響き渡る。壁一面に輝いていた星々が、さらに強い光を放ち始め、柔らかな光の粒子が部屋を満たしていく。テーブルの上に並んでいた豪華な料理や飲み物が、淡い光と共にゆっくりと消え始める。)
アインシュタイン:「お、おい、あすか君! 」
あすか:「みなさま、たのしいじかんはあっというまにすぐさっていくものですね」
アインシュタイン:「何だね、その片言は?我々の質問には答えてくれんのかね!?」(突然の変化に驚き、立ち上がりかける)
シュレーディンガー:「む…! 料理が消えていくぞ! まるで手品のようだ…いや、それ以上か。」(唖然としてテーブルを見つめる)
ハイゼンベルク:「あ…ああ…! 体が…体が少し、軽くなってきたような…?」(自分の手を見つめ、体が微かに発光し始めていることに気づく)
ボーア:(周囲の光と音に包まれながら、静かに目を閉じ、そして開く。状況を悟ったように)「…どうやら、お開きの時間のようだね、諸君。」
あすか:(微笑みを絶やさず)「そのようですね、とてもざんねんです」
ハイゼンベルク:(慌てて立ち上がり、深く頭を下げる)「あ、ありがとうございました! アインシュタイン先生、ボーア先生、シュレーディンガー先生! そして、あすかさん! このような信じられない経験をさせていただき、本当に、本当に感謝いたします! この御恩は決して忘れません!」(体がさらに光を増していく)
シュレーディンガー:(ふっと息を吐き、少し皮肉っぽく笑いながら)「やれやれ、結局、謎は謎のままか。まあ、実に奇妙な会合だったが…(他の三人の顔を見渡し)…諸君との議論は、悪くはなかった。達者でな。」(彼の体もまた、光の粒子へと変わり始めている)
ボーア:(穏やかな表情で、隣のアインシュタインに向き直り)「アインシュタイン君、君との議論は、やはり尽きることがないな。次に会う時までに、また新しい難問を用意しておきたまえよ。」(微笑む)「達者で。」(ボーアの姿も、穏やかな光の中に溶けていく)
アインシュタイン:(名残惜しそうに、消えゆくボーアの姿を見つめ)「…ああ、ボーア君、君もな! 次こそは、君を完全に論破してみせるぞ!」(他のメンバーが消えた空間を見渡し、最後に残ったあすかに視線を向ける)「…結局、君の正体も、この仕組みも分からずじまいか。まあいいだろう。(少しだけ笑みを浮かべ)実に…実に、刺激的な一日だったよ。ありがとう、あすか君。そして、さらばだ!」
(アインシュタインの体もまた、強い光に包まれ、次の瞬間には他のメンバーと同様に、光の粒子となって静かに消え去った。)
(一瞬の静寂。部屋を満たしていた光と音はゆっくりと収まり、元の落ち着いた晩餐室の姿に戻る。しかし、そこにはもう誰もいない。ただ一人、あすかだけが、静かに佇んでいる。)
あすか:(誰もいなくなったテーブルを見つめ、手の中のクロノスにそっと触れる。そして、誰に言うともなく、小さな声で呟いた)「物語は、まだ終わらない…。声は、これからも響き続ける…。」
(あすかは静かに微笑むと、くるりと背を向け、部屋の奥へとゆっくりと歩き去っていく。その姿もまた、次第に揺らめき、静かに闇の中へと溶けていくようだった。)




