幕間:休憩の語らい
(あすかに促され、四人の物理学者はスタジオの喧騒から離れ、静かな空間へと足を踏み入れる。そこは壁一面がまるで宇宙空間のように星々が瞬く、落ち着いた雰囲気のサロンだった。部屋の中央には大きな丸いテーブルがあり、ゆったりとした椅子が置かれている。一同がそれぞれの椅子に腰を下ろすと、ふわりと柔らかな光が灯る。)
あすか:「皆様、お疲れ様でした。ここは『失われた星々のサロン』。しばし、ごゆっくりおくつろぎください。」(あすかがクロノスを操作すると、それぞれの前に、まるで個人の好みを読み取ったかのように飲み物と軽食が静かに現れる。アインシュタインの前には温かい紅茶とビスケット、ボーアには香り高いコーヒーとデニッシュ、シュレーディンガーにはグラスに注がれた白ワインと数種のチーズ、ハイゼンベルクには冷えたビールジョッキとプレッツェル。)
ハイゼンベルク:(ビールを一口飲み、ほっと息をつきながら)「はぁ…いやはや、先生方の議論の迫力には圧倒されました。特にアインシュタイン先生とボーア先生の応酬は…まるで伝説の戦いを目の当たりにしているようでした。」(少し恐縮したように)「大変、勉強になりました。」
シュレーディンガー:(ワイングラスをゆっくりと回しながら、ため息混じりに)「ふぅ…全く、今日は随分とエネルギーを使ったものだ。特に最後の量子もつれの話は、何度考えても頭が混乱してくる。」(アインシュタインを見て)「博士の言う『不気味さ』は、言い得て妙だよ。」
アインシュタイン:(紅茶を静かに飲み、少し疲れたような、しかし満足そうな表情でボーアを見て)「ボーア君、君のその…なんというか、粘り強さにはいつも感服させられるよ。正直、君の考えは今でもさっぱり理解できん部分が多いのだがね。」(少しだけ口角を上げる)「だが、その探求心には敬意を表するよ。」
ボーア:(コーヒーカップを手に、穏やかに微笑み返し)「ありがとう、アインシュタイン君。私も君の思考実験の鋭さ、そしてその…失礼ながら、ある種の『執念深さ』には、いつも驚かされているのだよ。」(笑みを深める)「君のような相手がいるからこそ、私も考えを深めることができるのだから。」
アインシュタイン:「ふん、執念深い、か。まあ、否定はせんがね。」(ビスケットを一つ手に取る)
あすか:(にこやかに相槌を打ちながら)「本当に、素晴らしい議論でした。お互いを深く尊敬されているのが伝わってきます。」
シュレーディンガー:「まあ、意見は違えど、我々は皆、この世界の真理を知りたいという点では同じだからな。」
ハイゼンベルク:「そうですね。ところでアインシュタイン先生、先生はヴァイオリンを嗜まれると伺いました。私も…その、ピアノを少々弾くのですが、音楽は気分転換になりますね。」
アインシュタイン:(少し驚いたように、そして嬉しそうに)「ほう、ハイゼンベルク君、君も音楽をやるのかね?それは素晴らしい!そうだ、音楽は良い。特にモーツァルトは…宇宙の調和を感じさせてくれるようでね。」
ハイゼンベルク:「モーツァルト、私も好きです!バッハもよく弾きますが。」
アインシュタイン:「おお、バッハ!彼の対位法は、まるで精密な物理法則のようだと思わんかね?」
(アインシュタインとハイゼンベルクが音楽談義に花を咲かせ始める。ボーアはそれを微笑ましそうに眺め、シュレーディンガーはチーズを摘みながら、遠い目をして星空を眺めている。あすかは静かに彼らの様子を見守っている。)
ボーア:(アインシュタインたちの会話を聞きながら、ふと呟くように)「音楽も、物理学も、結局は世界の根源にある調和を探る営みなのかもしれないな…。」
シュレーディンガー:「調和、かね…。量子力学が示す世界は、どうにも不協和音に満ちているように思えるがね。」(ワインを一口飲む)
(しばし、和やかな時間が流れる。激しい議論を戦わせた後とは思えないほど、穏やかな空気がサロンを満たしている。)
あすか:(頃合いを見て、静かに声をかける)「皆様、名残惜しいのですが、そろそろ休憩時間は終わりとなります。スタジオでは、議論をご覧になっていた方々からの質問が届いているようです。」
アインシュタイン:「ほう、質問かね?それはまた、面白い。」
ボーア:「どんな問いが来るか、楽しみだね。」
シュレーディンガー:「やれやれ、まだ頭を使わねばならんか。」
ハイゼンベルク:「はい、承知いたしました。」
(一同はゆっくりと立ち上がり、再びスタジオへと向かう準備を始める。サロンの星空に見送られながら、彼らは短い休息を終え、再び知の闘技場へと戻っていく。)