ドクターは金儲けをスルーできませんでした。
「ふむ…」
ドクターは街について、すぐに異変に、気づきました。
それは、誰でも気づくでしょう。
街並みを歩く人々は、人族から亜人族、魔族までいるのです。
ここは、異世界でも数少ない、多種族が共存している街のようです。
気づかない方がおかしいと思うのが普通でしょう。
「ずいぶんと、多種多様な進化を遂げたな…」
「………」
私の気のせいでした。
ドクターは、進化の過程で亜人族や魔族が生まれたと結論づけたようです。
まぁ、いずれ分かる事なので、私は頷くだけに留めました。
街には、武器屋、防具屋、鍛冶屋、錬金屋、宿屋…異世界ではお馴染みの看板が並んでおります。
街並み全体は、中世の街を模したように感じます。
「おー!イノリ!ここは、変わった進化を遂げた割に、時代は逆行しているみたいだぞ?」
「と言いますと?」
「武器屋がある」
「そ、そうですね」
「反応が薄いなぁ…分からないか?」
「えと…何がでしょうか?」
私には、ドクターが何を言わんとしているか、検討がつきません。
「武器屋があるという事は、銃刀法がないって事だ!」
「あ、え?はい、そうですね」
そこかーい!と、ツッコミたくなった私は、順調に人格を形成しているのだと思います。
「銃刀法が無いという事は、殺人も許容されている…と言うこだろ?」
「いえ、それは流石に違うかと…」
「悪者なら、殺してもいいんじゃね?」
「え?まぁ…それはどうでしょう?」
ドクターの趣味は人体実験…ここは、私がしっかりしていないと、大変な事になりそうです。
「是非、生きた生物を解剖してみたい!俺以外の人間とは違った生体だ!これは興味を唆る!」
この発言から、死体で人体実験はした事がある。
生きた実験体は、ドクター本人。
となるのですが、どう言う意味でしょうか?
「あ!」
「どういたしました?」
「宿に泊まる金が、ねー!」
「確かに」
「くそー!!あの時代から、持ってきたら良かったわ!」
「えと、おそらく、ここでは紙幣をお金にしている事はないと思われますが…」
異世界では、大抵の場合、金貨、銀貨、銅貨が用いられているのは学習済みです。
「そこだよ!俺の財産は、すべて金塊にして保存してたんだ…裏金ってヤツだな…これも逮捕案件だな!ハッハッハ!」
「それはすごいですね」
「紙幣なんか、紙切れになる恐れがある。その点、金塊なら、どの時代でも使えると思ってな…」
「す、素晴らしい発想です」
それ以外、私に何をおっしゃれと?
ドクターは、先見の明があるようです。
☆☆☆
「ドクター、ここで少し待ってていただけますか?」
「どうした?」
「もしかしたら、お金を稼げるかもしれません。ちょっと心あたりを探してきます」
「わかった。俺も、所用でこの場を離れる」
「では1時間後、あの宿屋の前で…」
私は、目についた赤い屋根の宿屋を指差して、ドクターに提案しました。
「ふむ…」
ドクターは私を見ると、にこやかに笑いかけます。
少し照れてしまいます。
ドクターの容姿は端正で、俗に言うイケメンの部類に入ります。
そのドクターに見つめられると、照れてしまうのは、私の感情が豊かになってきた証拠でもあります。
「どうかされましたか?」
それでも尚、私は平然と答えるしかありません。
『見つめられて照れました』などとは、口にできないからです。
「いや、イノリが、自分で考え、自分で行動を起こすって事が新鮮で…そのうち、限りなく人間に近くなるんだろうな…と」
なるほど…ドクターは、私の成長を喜んでくださっているようです。
私は、ドクターと別れ、『とある場所』に向かいました。
ここが異世界なら、どこかにあるはずなのです。
冒険者ギルドが…。
ドクターの腕なら、素材に傷ひとつ付けないで、解体はできるはずです。
しかも、大気中の粒子…正確には『元素』なのですが、それすら見分けて切り取れる技術があります。
これなら、すぐにでもお金を稼ぐ事ができるのではないかと思うのです。
しばらく街を探索していると『冒険者ギルド』という看板を見つけました。
地球では使われていない言語ですが、問題なく読めます。
(ドクターは、これも『進化』だと思っているんでしょうね…)
想像すると笑いが込み上げてきます。
ガチャ…。
「失礼します」
私は冒険者ギルドの扉を開け、一礼をすると、いきなり大笑いされました。
何故でしょう…?
☆☆☆
「失礼しますだってよ!」
「どこの田舎もんだよ!」
「ねーちゃん!いい体してんじゃねーか!」
様々な罵倒が私に向けられております。
体が熱くなります。
これは、なんでしょう?
私は、罵倒を無視し、受付に向かいます。
「失礼します。ここで仕事はできますでしょうか?」
「はい。仕事をするには、登録をしていただかないといけませんが、大丈夫ですか?」
受付のお姉さんは、礼儀正しく接客をしてくれます。
「あ、はい。私は、少し情報が欲しくて聞きに来ただけなのですが、後ほど、ドクターと一緒に来たいと思います」
「そうですか…先程は、ギルドメンバーが失礼いたしました。あそこにいる連中は、底辺ですので、お気になさらず…」
「ありがとうございます。まぁ、だいたいは、そんな感じではないかと思っておりました」
受付嬢は、名前をルリと言い、受付の責任者をされているとの事でした。
「先程、ドクターとおっしゃっていましたが、貴女は、ドクターの助手みたいな方ですか?あまり見かけない服装ですが…」
確かに、ナース服は異世界には無い服装だと思います。
おそらく、この世界でのナースは、神官のような服装ではないかと推測しました。
「これは、ドクターからいただいた大切な衣類なのです。ドクターは、白衣を着ております」
「そうですか…それでは、次に来られる時は、そのドクター様とご一緒という事ですね?」
「はい、そうなります」
「失礼ですが、民間診療所とかで働かれた方が良いと思うのですが…」
「普通に考えたら、そうなりますが、神殿の診療所で、民間の医療期間は料金が高いと聞きました」
「………」
私がそう言うと、ルリさんは、しばらく目を細め、考え込んでしまいました。
神殿の診療所、民間の診療所…いったい何があるのでしょうか…。
「ありがとうございます。では、後ほど…」
「はい。お待ちしております」
受付嬢のルリさんからは、他に、ここが『守衛都市 エアリス』という街である事、ここが王都を魔物から守る要の場所である事、魔物から王都を守るために、このギルドは大陸で1番大きな冒険者ギルド本部である事を教えていただきました。
だから、冒険者にもいろいろな種族、いろいろな性格の者がいると…。
☆☆☆
私は冒険者ギルドを後にし、ドクターと合流しました。
「え?」
「え?何?」
ドクターと合流した私は、その光景に言葉を失ったのです。
何故なら、ドクターは、大量の金塊と、大量の魔石を持って、待っていたからです。
私は気を取り直し、冒険者ギルドの情報をドクターに伝えました。
ドクターは、金塊は現代地球に帰り、持ってきたと言います。
(え?行き帰り自由??)
魔石は、暇つぶしに魔粒子…つまり、魔素を切り取って集めていたら、勝手に結晶化し、ゴロゴロ出てきたとの事。
(この人って、一体何者?)
私を作ってくれた御方なのは、重々分かっております。
が、またひとつ、ドクターの謎が深まったように感じます。
「魔石は、結構な値段で取り引きされているようですよ?でも、それだけ金塊があれば、売る必要もありませんね」
ドクター、申し訳ありません。
今のは、私の勝手な想像です。
異世界では、よくある話をしただけです。
「んじゃ、売ってきて…」
「え?」
「高く売れるんだよね?」
「は、はい…」
「じゃあ、お願い」
困りました。
今更、出まかせだとは言えません。
どこで取り引きしているのかもわかりません。
私は、仕方なく、魔石を持って冒険者ギルドに向かいました。
幸いにも、受付嬢のルリさんは、先程、冒険者が失礼をした…という理由で、心よく買い取りをしてくださいました。
魔石50個、金貨50枚。
金貨の相場が、地球換算で10万という感じですので、おおよそ500万になった事になります。
金塊を大量に持っていながら、更に暇つぶしで作った魔石で金儲けをするドクターは、何を考えているのか、私に理解する事ができませんでした。