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02_最果ての村

 朝七時前。

 勇治は目が覚めるとすぐに身支度をして、宿から出る。

 田舎村とあってか、朝からちらほら野良仕事に向かう人々の姿が見えるが、それに加えて明らかなよそ者たちも着々と出発に向けた準備を始めている。その中には通行止めと事前に説明されているにも関わらず、フーポック方面に向けた軽トラックの荷台に乗り込む者もいた。


「お、おい!ちょっと待ってくれっ!」


 人の流れに続こうとする勇治を、同じ部屋に泊まっていた父親が慌てたような声で呼び留める。


「どうしました?」

「き、昨日は悪かった……金は払うから、荷物運びを手伝ってくれないか?」


 そのまま男に連れられるように宿の部屋の中へ踵を返すと、車椅子に乗せられた娘とどこか顔色の悪い妻の姿があった。


「そういえば、奥さんも子宮がんだったんですよね?歩かせて大丈夫なんですか?」

「まだ良性だから手術はもう少し後でと考えていたんだが、この国に来てから付きっ切りで娘を看病していた無理が祟ったらしい……」

「ごめんなさい……こんな時に……」


 母親が申し訳なさそうに頭を下げると、勇治は返事をする前に彼女の分の荷物を持ち上げる。


「娘さんはお父さんが見てあげた方がいいでしょう。それでもきつくなったら代わります」

「すまない……」

「それと、お金はいりませんよ」


 改めて夫婦から礼を言われ、四人で宿を出る。

 幼い娘の車椅子に日よけが被せられ、父親が声をかけた。


「さあ行こう、ララ。ちょっときついかもしれないが、頑張るんだぞ」

「うん……パパ……」


 少女の声はか細くはあったが、確かな信頼がが感じられた。

 車椅子も悪路仕様になっているのか、通常の物よりも車輪がごつく、座る部分も厚いクッションが敷かれている。


「そういえば、君の名前をまだ聞いてなかったな」

「勇治です。ユージ・タケスギ」

「ユージか……私はトビーだ。妻がエマ、娘のララだ。よろしく頼む」

「こちらこそよろしく」


 勇治はトビーの態度が軟化したのが、妻の体調不良だけとは思えなかった。

 道行く人の中で、彼らと同じ治療目的だと思われる者は、確認できるだけで十組以上。

 さらに、どの組を見ても大袈裟までに屈強な『お手伝い』がいる。トビーらのように家族だけで来ている組は他に数組。これでは気後れもするというものだ。

 突貫で作られたような『車両通行止め』の看板を超えれば、そこからは先の見えない道。一行は先を行く人々の背中をひたすら追うように足を進める。


「広くはないけど、道の状態はよさそうですね。とても通行止めとは思えない」

「三日前に強い雨が降ったから、みんな道が乾くのを待っていたんだ。だから今日は前よりも人が多い」


 フーポックまでの道のりは舗装こそされていないが、極端な轍や穴ぼこもなく傾斜も緩やかなので、人がただ歩く分には特に障害はないし、車椅子でも問題はない。

 ただし両隣がジャングルなので、野生動物の心配は尽きない。反対側から来る人間もいないので、自然と道の真ん中を歩くことになる。影が多いのが幸いであった。

 出発して歩くこと一時間、ちょうどいい影となる岩場があったので、一行は小休止を取ることにした。健康な大人ならまだまだ行けるが、病気持ちを二人抱えているため無理はできない。

 ララも車椅子とはいえ、外の暑さにかなり堪えているようであった。


「大丈夫か?汗をかいたら、しっかり水を飲むんだぞ」

「うん……」


 トビーがタオルで汗を拭いてやりながら、必死にララを励ます。

 隣のエマは娘の様子を不安げに見つめるも、話す気力もないようであった。

 十五分ほど休み、再度出発。エマの体調に合わせ、ややペースを落として歩く。

 ほどなくすると、道の真ん中で立ち往生している車の列が目に入った。


「おおい!ちょっと手伝ってくれ!この間の雨で木が倒れてしまったんだ!」


 白人の恰幅のよい男が勇治たちの姿を見るやいなや、声をかけてくる。車体とそのタイヤは砂漠や密林も走破できそうなくらいに頑丈そうであったが、ちょうど道を塞ぐように倒れている大木を前にしてはどうにもならない。

 屈強な男たちが必死に大木を転がそうとしていたが、難航しているようだった。


「悪いがこっちだって急いでいるんだ。車で行くのは諦めて、ここから先、あんた達も歩くほかないんじゃないか?」


 トビーは息を切らしながら、白髪交じりの恰幅のよい男に言い放つ。

 徒歩で来ている者にとっては、大木は乗り越えるか、少しジャングルの脇を進めばよい話だ。車椅子でも何とか行けるだろう。


「何を言うっ!私の息子は重体なんだっ!車椅子も無理な話だ!だから、何としてもこいつをどかさないといかん!あんたたちは何の罪もない、助かる子供の命を見捨てるのか!?」


 立ち往生している男はすっかり立腹するが、それでも身勝手な提案だというのは誰の目にも明らか。

 とはいえ、このまま立ち塞がられても他の人を道連れにするだけなので、はた迷惑な話ではあるが、相手をしてやらないといけない。


「……仕方ないですね。トビーさん、ちょっと手伝いましょう」

「しかし、こんな大木、持ち上げようにも男数人程度じゃ無理だぞ……?」

「念のためでしたが、さっきの村で鋸と鉈を買ってます。こいつで切り分ければ動かせるようになるでしょう」

「う、ん……だけど小さい鋸だな。慎重にやらないと折れるだろうし、時間がかかりそうだな……」


 こうして勇治とトビー、そして屈強な使用人二人の四人交代で、大木を少しずつ切り分け、どうにかして車一台分が通るスペースを確保する。

 陽が徐々に昇り、うだるような暑さのなか、一時間ほどの作業であった。


「いやぁ、助かった!君たちは命の恩人だ!きっと神のご加護があるだろう!……それでは、我々は急がないといけないので失礼する!」


 作業を手伝いもしなかった恰幅のよい男は、言葉だけの調子のよい礼を述べ、全身汗だくで息を切らす勇治とトビーを置いて車を発進させる。その後ろ姿に一切の躊躇いは感じられなかった。


「くそ……せめて、娘くらいは乗せていっても……!子供に罪はなくとも、あいつはいつか地獄に落ちるぞ……!」


 トビーが汗をぬぐいながら呪詛の言葉を唱えるが、勇治の方は息を切らしながらも、倒れた大木の根元をじっと覗き込んでいた。


「……どうした、ユージ?」

「トビーさん、見てくださいこの木の根元。これ、人為的に倒したものかもしれません」

「そう……か?」


 その場から見た感じでは自然に折れたように思えるが、それは外側の話。ぱっと見では分からない、倒れた側の部分には鋭利な形の欠損が見られた。


「俺もそんなに詳しくはないですけど、木を切り倒す時は、まず倒す側に三角に切り込みを入れるでしょ?普通はそこから反対側もやるんですが、あえてそのままにして無理矢理倒している。こうすれば傍目には自然に倒れたように見えます」

「……分かった。それ以上言わなくていい。聞きたくもない……」


 トビーは勇治の説明を遮り、日陰に退避させていた家族の元に向かう。表情は疲れ以上に暗いものが込み上げていた。

 勇治も少し無神経だったと反省し、これ以上の確認は止め、再出発の準備を始めた。

 一行が再び歩み始めると、後ろから二台、三台と車が通りすがり、彼らを追い越して行った。歩いていく家族に声を掛ける者はいない。ただ、道を開けろとクラクションを鳴らすだけだ。

 折れそうになる心を必死に繋ぎ止めながら、歩くこともう三時間。

 太陽が赤みがかってきたところで、ようやく熱帯雨林に囲まれた集落の姿が見えてくる。


「つ、着いたぞ……!やっと着いた!」

「歩いた距離と時間からしても、あそこがフーポックで間違いないですね」

「エマ!ララ!大丈夫か!もう少しだ!」


 最後の気力を振り絞る一家をよそに、勇治は村の入口の手前に陣取る車両とテントの数々に目が行く。どれも先程自分たちを追い越していった車ばかりであったが、テントを持参しているということは、今夜の宿取りに苦労しそうだと肩を落とす。

 フーポックの集落内の住居は周囲の高い木々のおかげでどこも日陰になっているが、湿度が高いこともあってか、どれも地面から一段高くなっている平屋である。そうすると床面積は広くできないため、客人を泊めるスペースもあまりないのだろう。


「お前たちは何だ?」


 村の様子を確認しながら進んでいた一行に、現地の人間らしき浅黒い男が前に立ち塞がる。

 右手には警棒のようなものを持っており、顔の筋肉の具合からも、あまり歓迎されていないことは一目瞭然だ。


「こちらに、難病を治してくださる方がいらっしゃると聞き、伺ったのですが……」


 トビーの言葉に対して、男は忌々しい様子を隠しもせずに舌打ちする。


「病人は?その車椅子の娘か?」

「は、はい!では、その方に……」

「順番待ちだ。あと二組いる。付いてこい」


 そう言って男は、村の奥に進んで行った先にある家に案内する。建物は住居にしては小さく、何かの倉庫と言われた方が違和感がないように感じた。

 家の前には大きな木製のベンチがあり、道中で出会った人々が腰を下ろして祈っている。


「ここで順番を待て」

「あの、今日にでも治療を受けられるのでしょうか?」

「それはあの方次第だ。見捨てることはしないがな」

「だ、代金などは?」

「金は取らん。ただし、ここの事は誰にも話すな」


 話すな。

 その一言に、勇治は違和感を覚えた。

 誰かが情報を漏らさなければ、ここまでのよそ者は来ない。この釘さしは気休めにもなっていない。

 それでも聖母は人を治療するという。金も取らずに。

 どこかおかしな話であった。


「パパ!」


 見知らぬ少女の声で勇治は我に帰る。

 建物の玄関口から幼い少女が元気よく飛び出して来て、ベンチの先頭で待っていた男に飛びかかり、強く抱きしめられた。


「メアリー!もう大丈夫なんだな!」

「うん、すっごく体が軽いの!もう、お外で遊んでも大丈夫だって!」

「信じられない……世界中のどんな名医でも匙を投げたというのに、あっという間に……」


 その様子を見て、トビーが思わず椅子から立ち上がり目を丸くする。


「ほ、本当なんだ……聖母は本当に……」


 勇治は思った。

 早すぎる、と。

 治すのは怪我ではなく病気。

 外科手術の類いでないことは明らかだ。

 勿論、インチキという可能性はゼロではない。

 一時的に治った風に見せかけて、解放している、ということもある。

 だが、それならもっと悪い噂がたっていてもおかしくはない。


「次の患者、中へ」


 現地民のぶっきらぼうな声とは裏腹に、トビー一家は期待に溢れていた。

 既に自分たちの前で二組の患者が完治している。一組あたりおおよそ三十分もかかっていない。


「はい、娘をお願いします!それと、妻も初期の子宮がんで……」

「ならば二人入れ。お前たちは外で待っていろ」


 こうして無愛想な男に連れられて、エマとララが家の中に入っていく。連れ添いの男二人は待つことしかできない。

 ベンチに戻って座ると、トビーは手を合わせて祈り始めた。

 勇治もやることがないので、ベンチを離れて建物の外観を注視する。

 ざっと見たところ、入り口のある正面の両隣の面には窓のようなものはない。途中で見かけた他の住居にはちゃんとあったので、やはり扱いが異なるのであろう。

 しかし、仮にも人の治療を行うのなら、換気のため小窓の一つくらいあってもいいはずだと、建物の裏側に回ろうとするが、途中で案内の男に睨みつけられて足を止めた。


「何をしている」

「いや、俺も不安で落ち着かなくて……」


 勇治も流石に怒られるか、と身構えていた矢先、案内の男に後ろから声がかかる。

 声の主は、先程大木の前で立ち往生していた恰幅のいい男。随分と息を切らしている様子であった。


「せっ、聖母に合わせてくれ!」

「お前も病気か?」

「違う、お礼が言いたいんだ!」


 男の顔はよく見ると、目の下が真っ赤になっていた。元気そうな姿を見るに、治療した子供の体がよくなって、泣き腫らしたのだと想像できる。


「息子を救ってくれた礼を直接言わせてくれっ!」

「駄目だ。彼女の姿を外の人間に見せるわけにはいかない。用が終わったのなら早く帰れ」

「しかし……金も取らないというのに、このままでは私の気が収まらん……ぜひ会ってお礼を……」

「帰れ」


 案内の男の声がさらに一段下がり、調子のよい男も思わずたじろぐ。


「な、なら、私の方から寄付をさせてくれ!いくらでも出す!なんなら、この村までの道を整備してやろうか?診療所ももっと広くして、これでより多くの人が苦労せずに治療に来れ」

「余計なことをするなと言っているっ!」


 ついに男の声が怒号に変わり、辺りが一触即発の空気となった時、家の玄関が開けられた。


「あっ……パパッ!」

「あなた……」


 そこにいたのは、すっかり顔色がよくなったエマとララの姿。ララにいたっては、つい数分前まで車椅子だったというのに、しっかりと地に足を着けて立っている。


「二人とも!もう大丈夫なのか!?」

「ええ……信じられないくらいに、体が楽なの……息苦しさも取れて……」

「私もっ!」


 感激のあまり呆然自失としているトビーに向かって、ララが走り出して抱きついてくる。トビーの喉からは言葉にならない歓喜の声が溢れ、さらに駆け寄ってきたエマと共に家族三人で抱き合った。


「うぅ……よかったなぁ……他の家族も助けたいという気持ちは本当なんだ……そこは分かってくれ……」

「…………」


 ついさっきまで堂々と他人を踏み台にしていた人間と同じ存在とは思えないような言動を尻目に、勇治は感動を確かめ合う家族に、輪の外から尋ねる。


「あの……喜んでいる最中すいません。聖母ってどんな感じの人でしたか?」


 すぐに後ろから案内の男の視線を感じたが、また次の患者が来たらしく、その応対のため男はやむなくその場を離れていく。


「今のうちに……何をされたのか聞きたいんですけど」


 今度は体を少し屈ませ、気持ち小声で尋ねると、エマが涙を拭いながら答える。


「何をされたかは分かりません。中に入ったら蒸しタオルで目隠しをされて、少し歩いてベッドのような所に寝かされたんです」

「それだけ聞くと、なんだか物々しいですね」

「そのあと、若い女性の声で体の悪いところはどこかと尋ねられて……」

「その声の主が聖母?」

「おそらくは……それから、自分の体調がよい時のことをイメージして欲しいと言われ、体が少しずつ暖かくなって……気がついたら治療は終わっていたんです」

「すごかったんだよ!今までのお医者さんと違って、痛くないし、あったかいし!ずっと優しくお話してくれたんだ!」


 エマが説明している横で、ララが興奮を抑え切れないとばかりにはしゃいでいる。

 昨日までの弱々しい姿がまるで仮病であったかのように、その場で飛び跳ねていた。


「…………なるほど」


 今までにない、低く、冷たい声にトビーの肩が跳ねる。

 勇治の目は眼前の家族への興味を失ってしまったかのように細くなり、静かに建物を見つめていた。

 青年の様子の急変に気づいたトビーは慌てるように彼の視界に割り込む。


「ユージ……下手な詮索は止めておけ、ここの人だって……」

「そっとしておいた方が……って奴ですか?」

「そうだ、これ以上聖母さんやここの人達の迷惑にならないように……」

「……もう手遅れかもしれませんよ」

「なにが?」

「聞こえてきませんか?向こうの方から」


 勇治は元気が有り余っているララの口元に人差し指を立て、村の入口の方角……すっかり日が暮れた上空に顔を向ける。ほんの一瞬、わずかな静寂の後に、各々の耳に聞きなれない音が入ってきた。

 風を、切る音。

 それも力強く。

 少しずつ大きく、耳障りな感覚が肥大していく。

 ただの音はやがて事象に変わり、徐々に風の動きが周囲に現れ、空を覆う熱帯雨林の枝葉を激しく揺さぶりだす。


「へりこぷたーだーっ!」


 大人たちの反応とは対照的に、ララがごく普通の子供のような歓声を上げる。

 

「まさか……こんなところまで?」

「患者のお迎えではないんでしょうね。ここに来た人はみんな元気になってるんだから。……少し下がりましょう」


 風切り音の主はちょうど聖母のいる建物の上空で静止し、そこからロープが投下され、次々に人の影が下りてくる。

 まるで映画のワンシーンの様だと、病気から快復した子供たちの多くは指を差して興奮するが、姿を現した人間の装備を見て、大人たちは完全に固まってしまった。


「サブマシンガンを持ってる……みんな、ここから離れて」


 勇治は突然の出来事で腰を抜かした家族を、冷静に誘導する。

 他の住民やよそ者は皆、悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。

 ただ、もう一人、空から降りて来た人物に向かって行く姿があった。

 先程からの警棒を持った案内の男だ。

 その表情は怒りと焦りが混じり在っていた。


「お前たちも治療かっ!?物騒なものを構えるな!患者をまず出せ!」

「聖母はこの中だな?」


 指示を聞く気など毛頭ないとばかりに、武装した人物の一人が案内の男に銃口を向ける。


「止めろ……病人ならちゃんと治療する……だが、彼女を表に出すのは……」

「その患者がここまで来ることができないのだよ。だから我々が聖母を連れていく」

「それは……駄目だっ!」


 その瞬間、発砲音が村の中に鳴り響く。

 幸いにも威嚇射撃であったようだが、音に怯んだ案内の男は、サブマシンガンで顔を殴られ地面に倒れ込んだ。

 女性の悲鳴が大きくなり、いよいよよそ者たちは尻尾を巻いていた。


「ロブッ!何をしているっ!早く車を出さんかっ!もうこんなところに用はないっ!」


 先程の恰幅よい男は今度は怒号を飛ばしながら、エンジンがかかった車に飛び乗る。

 他の患者たちも、せっかく治った命を、とばかりに、一斉に村から逃げ出していく。

 ヘリコプターから降りて来た集団は再度威嚇するように銃口を周囲に向け、フーポックの村人たちをその場に釘づけにしていた。やがて、うち三人が聖母のいる建物に乗り込んでいく。


「ああ……これは、大変なことになった……!」

「聖母さまが……!」


 トビーはエマと共に震えながら物陰で縮こまりララの体を抱き寄せていた。当の護られている少女は状況を理解できておらず、目をぱちくりとさせている。


「み、みんな……私達も早く逃げよう……ユージも……」


 トビーの震え声交じりの提案に対して、リュックがどさり、と落とされる音が返された。


「ユージ……?」


 その横で勇治は肩を軽く回していた。

 右手にはボール球のようなものが握られている。


「自分達のせい、とは思いたくはないでしょうね。既に助かった人たちは」


 ため息交じりの皮肉を吐き出し終えると、青年はその場を駆け出した。 

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