その婚約破棄は有効です!
短編2作目、王道を書いてみたくなりサクっとな。
それは貴族学院の大広間での出来事。
「ヴァレンシア、君との婚約を破棄する!」
勇ましい声が響いた。
その日は年に3回ある学期末の交流会の催しが開催されていた。
貴族学院は10-12歳が通う初等部、13-15歳が通う中等部、そして16-18才が通う高等部に分かれている。
さらに研究者を目指すものは上級学院へと進みそこでさらに2年、専門を学ぶ。
交流会の催しは初等部から高等部までの交流を兼ねて学院の主催で開催される。
しかし、おしなべて貴族の子であるため、来賓として王家の誰かが1名は出席している。
この日の来賓は現王アウグストの弟、ルートリスが出席していた。
学院長の長い話にへきえきしながらも、明日から始まる休みに向けて生徒たちの顔は輝いており、和やかな雰囲気で始まったはずの交流会。
そして冒頭のシーンへと移行する。
呼びかけられたヴァレンシアは顔をことりと傾け、不思議そうな顔をする。
現王アウグストには4男3女の子供がいる。
上は18才から下は10才まで、末の子である第3王女以外には婚約者がいた。
貴族家のバランスを考えて、年の近い子供を王位継承権を持つ上から4人目までの子供には侯爵家から。
それ以外の子供には伯爵家以上から。
初等部での成績を加味して13-14才に婚約者を決めている。
決めて打診するのは王家だが、承諾するかしないかは各家に委ねられる。
そうして強制ではなく婚約者を決めるのだ。
もっとも王子王女の婚約者となれるのは名誉なことなので、基本的に断ることはないのだが。
婚約においては王家と貴族家において契約を交わす。
どちらに有利でもなく不利でもなく、いたって平等な取り決めだ。
唯一、王家の守秘義務に係る内容だけは特別な扱いとなるが。
そしてさきほど婚約破棄を突き付けられたのは第2皇子であるヴァレンシアだった。
ヴァレンシアは驚いていた。
あれ?婚約って一方的に破棄できたっけ?
その辺りの契約事項についてはしっかりと目を通している。
しかし、やむを得ない事情により双方ともに承諾したときのみ、婚約解消は出来る。
が、破棄なんて条項あっただろうか?
そう思って首を傾げた。
しかしさきほど婚約破棄を叫んだピラリスは何をもって婚約破棄と言ったのだろうか?
婚約が決まった14才の頃からあまりいい印象が無い。
いや、むしろ悪い印象しかないだろうか。
王家の者には決まった色がある。
金髪に青目。濃淡はあれど基本的にこれが王家の色だ。
例え王の伴侶が違う色であったとしても、子供はこの色を引き継ぐ。
基本的には。
物事には必ず例外がある。
そしてヴァレンシアがまさにその例外だった。
7人の子供の中で唯一、茶髪に茶目だったのだ。
しかし、間違いなく王と王の伴侶との子供である。
この国には200-300年に1人、王家の色を持たない子供が生まれる。
ヴァレンシアの前は234年であるからまさにそろそろ、という頃にヴァレンシアが産まれた。
この王家の色を持たない子はとても大切にされる。
もちろん、理由はある。
そして婚約者となった者たちには教育がされ、その中で王家の秘密として教えられる。
そう、だから王家の色を持たない事は何も恥ずかしいことではないと知っている筈なのだ。
とはいえ、まったく知らない国民からは地味だとか目立たないとか言われてしまうのだが。
だとしても婚約者であるピラリスは当然知っているべきなのだ。
なのに、だ。
地味だの目立たないだと私だけ外れを引いただのと散々言われてきた。
エスコートが必要なパーティでは装飾品を送る。
その時に自分の目の色のものを選ぶのが基本だ。
が、茶色というのはなかなか装飾品では使いにくい。
なので宝飾店と相談して婚約者の色と合わせたり工夫としていたのだが、気に入らなかったようだ。
王家の色を持たない私のことも、その理由も知っているはずだよね?
だから不思議そうな顔をしていたのだ。
そこで声を上げたのは王弟のルートリア殿下。
私からすると叔父にあたる。
最も父王は39才で、叔父は歳の離れた弟でまだ28才だ。
「アナフィラー嬢、今の婚約破棄は誠か?」
その問いに勢い込んで
「ルートリア殿下、もちろんにございます。私にはそこの地味な者は似合いませんわ。このレノアールこそ私に相応しい。殿下、そう思いませんか?」
臆さずそう応えるピナリス・アナフィラー。彼女はこの国に8家ある侯爵家の令嬢だ。
濃い金色の髪の毛に緑の目、キツく吊り上がった目はその性格を現すようだ。
もっとも、一般的な基準からすれば充分に美人だ。そして名前の上がったレノアールは濃い金髪でグレーの目をしたキリリと引き締まった美男子だ。
彼はピナリス・アナフィラーの護衛騎士だ。色を見れば確かに茶髪茶目のヴァレンシアより目立つ。
周りの生徒たちは戸惑っていた。その内心はほぼ
「何言ってんだあのお嬢様は…」
だったが、何をどう誤解したのか。周りは味方だと言わんばかりにピナリスが捲し立てる。
「だっておかしいではありませんか!私のような美女にあんな地味な色なんて。贈られる装飾品の地味なこと。何をどうしたらよろしいのかしら?ねぇ?レノアール?」
「その通りですよ、お嬢。茶色の宝石など見たこともありません」
「そうですのよ!私がどれだけ恥ずかしい思いをしたと思いますの?皆さま?」
生徒たちはまた思った。
「いや、何言ってんのこの人。自分で美人って言ったけど、そこまででも無いよな。それに茶髪茶目なんてごく普通に貴族にいるだろ」
と。そう、茶髪も茶目もごく一般的な色なのだ。
そういう人たちは自分の色と相手の色を上手く織り交ぜて装飾品を送っている。何も全て茶色である必要は無いのだ。
当然ながらヴァレンシアも彼女の色である金や緑を取り入れたりしていた。
ヴァレンシアは思う。もしかして、贈ったものを見たことすらないのかな?と。
実際その通りだったのだが。
突然、パンパンと音が響く。
「あい分かった。アナフィラー嬢。我が甥との婚約をやめたいということに相違ないな?」
「間違い有りませんわ、ルートリア殿下」
「であるならば、私、ルートリア・クグロフの命を持って我が甥であるヴァレンシア・クグロフとピナリス・アナフィラー嬢の婚約は取りやめとする。契約事項の履行と破棄については追って連絡しよう」
その宣言を聞いてピナリスとレノアールは喜び、ヴァレンシアは頬を染め、学院長はため息をつき、周りの生徒たちは複雑な顔をしていた。
その中で行動を起こしたのはルートリア。颯爽と来賓席から降りるとヴァレンシアの前に歩いていく。そして徐に跪く。
「ヴァレンシア…ヴァレンシア、長い時を待った甲斐があった。私と結婚してくれ。幼い頃よりずっと心に想っていた。私の番は其方だ」
そこで生徒たちからはため息が出た。過去に婚約者はいたものの、円満に解消となって以降は独身のルートリア殿下。
淡い金髪で薄い青目は虹彩が美しく、男性ながら女性にも同性にも圧倒的な人気のある美しい殿下だ。
この国では同性でも異性でも婚姻が可能で、妖精の秘薬を飲めば子供も作れる。だから密かにルートリア殿下を狙っていた高位貴族の男子女子が多かったのだ。
その憧れの殿下の想い人がヴァレンシア皇子であることが分かり、万に一つのは可能性も消え失せて残念に思ったのだ。
震える手でそっとヴァレンシアの手を取り見上げるルートリア。その顔にはいつもの余裕はなく、ひたすらに恋焦がれる1人の青年の姿があった。
ヴァレンシアも震える手でルートリアの重ねた手に自らの手を重ね
「叔父様、夢のようです。もちろんお受けします」
ヴァレンシアの頬はバラ色に染まり、ほんのりと赤くなった目元は涙で潤んでいた。
「叔父様では無く、ルイと…ヴィニー」
「ルイ…」
あぁ、ヴィニーと呼んでくれるんですね。そう、あれはまだ私が僕、と言っていた幼い頃の話。
「叔父様、僕は将来結婚する人にヴィニーって愛称で呼んで貰うのが夢です!」
「おや、そうかい。ならば私はルイと呼んで貰おうかな?」
まだふくふくとした真っ赤なほっぺで目をキラキラさせて言っていたヴァレンシア。なんて可愛いんだろう。
そう、君が生まれる前から私は君に運命を感じていたんだよ?
王家の者には稀に吸い寄せられるかの如く、誰かを想うことがある。これは王家の番と呼ばれる。番を感じることが出来るものはごく稀で、ルートリアがそうだった。例え番に出会えなくても、明確に
「この人だ」もしくは「この人では無い」
と分かってしまう。だからルートリアは婚約を解消した。
出会えるかも分からないが、心が求めるのだ。そして、兄王の2人目の子供が出来た時に悟った。私の番だと。
しかし、その気持ちは秘めた。なぜなら王の子は国内の貴族家から婚約者を決める決まりがあるから。たとえ王家の番であってもだ。だからルートリアは諦めた。ただ、番であるヴァレンシアが幸せになることだけを願って誰にも言わず。それでいいと思っていたのだ。
しかし、運命はルートリアを見捨てなかった。あのポンコツ婚約者がやってくれたのだ。
もちろん、大切なヴァレンシアを散々地味だのなんだなと言う口はすぐにでも塞ぎたかったが、少しの我慢だ。
そしてようやく17年越しの想いを打ち明けられた。そして受け入れて貰えた。今日は人生で最高に素敵な日だ。
ルートリアは立ち上がるとその手をヴァレンシアの頬に添え、そっとその唇にキスをした。すると2人を包み込むように柔かかな光が溢れた。
そしてその光がおさまった後には、本来の色を取り戻したヴァレンシアがいた。
王家の色を持たない子は賢王と呼ばれ、その色も持ってして
「賢王の呪い」
と言われている。それは王家の色を持たないが故であるが、その子は賢王として後々世に語り継がれている。
賢王の呪いは想い会う人と結ばれること、お互いに相手を唯一として触れ合うことで解ける。
そして今、ヴァレンシアの呪いは解けた。そう、幼い頃から慕っていた叔父の気持ちが自分と同じであったから、そのキスで呪いは解けたのだ。
賢王はその色が輝く銀髪に淡い紫の目だ。とても美しいその色と、何より賢王はその見目から別名美王とも呼ばれる。
ピナリスは地味だなんだと散々言っていたが、ヴァレンシアは大変整った顔をしていた。
目尻へスッと流れる切れ長の目。作り物のような美しい二重。細くて絶妙な高さの鼻と完璧な配置の唇。その眉毛は凛々しく、まつ毛は目尻に向かって濃く長く、その美しさを際立てている。
呪いの状態ですらとてつもなく美しかったヴァレンシアが本来の色を取り戻した今、美王の名に相応しい唯一無二の圧倒的な凛々しさと美しさを醸し出す。
「ヴィニーなんて美しい、あぁ…私のヴィニー、やっと私の手に…」
感極まったルートリアはその頬をこれ以上ないくらい愛おしく撫でるとふわりとヴァレンシアを抱きしめる。
ヴァレンシアも遠慮がちにその手をルートリアの背中に回す。
耳元で
「ヴィニーは私の、王家の番だよ。長かった…」
ヴァレンシアは驚いた。自分には分からない。分からないが、湧き上がるこの気持ちは何だろう?
あぁ、そうか…喜びだ。
自分が番であること、その喜びなんだ。
幼い頃から身近にいて、何かと声をかけてくれた人。地味だからと使用人や婚約者に言われて、傷付かない訳ではなかった。そんな時はいつでも叔父が味方になってくれた。
「ヴァレンシア、君の色が何であっても…それは君のものだ。誇りに思って。私の1番好きな色はね…それはヴァレンシアの色だよ?ヴァレンシアが金でも茶色でも…僕はヴァレンシアの纏う色ならそれが1番好きだ」
そう茶目っ気たっぷりに行ってくれた大好きな叔父。
「それって好きな色じゃ無いよ…」
ぷくっと頬を膨らませてヴァレンシアは言ったものだ。だってそれは、僕のことが大好きって言ってるのと同じだから。
文句を言いながら頬を染め唇を尖らすが、実はとても嬉しかった。思えばあの婚約者と4年も付き合えたのはこの大好きな叔父がいたからだ。
その頃、本来の色を取り戻したヴァレンシアを見てピナリスは唖然としていた。
(えっ?何よこれ…凄く素敵じゃない。これならヴァレンシアでもいいわ!)
「う、おほん。ヴァレンシア、今なら無かったことにしてあげてもいいわよ?今のあなたなら私に相応しいわ」
周りの生徒はまた思った。
「何言っちゃってんだ、この人。頭大丈夫か?」と。
それに気が付かず、少し前まで腕を絡めていたレノアールが横で唖然とするのも知らず厚かましく続ける。
「思えば私も少し、ほんの少し至らなかったかもしれませんわ。えぇ、今なら私の婚約者として認めてあげましょう」
ヴァレンシアは困惑した。どうしよう。言葉は分かるのに全く理解出来ない。困った顔でルイを見る。すると優しく、限りなく優しく微笑んで
「婚約解消の手続きをしに王宮に帰ろう」
ヴァレンシアはパァッと微笑んで頷く。そうだ、訳のわからないことを言ってる人は置いておけばいい。大事なのはこれからのことだ。
まずは2人の父上に報告して、それから兄弟妹にも報告しよう。
楽しみだなぁ。
喜びに頬を緩ませてルイを見る。自分より背の高い大好きな人は何の心配も要らないよと微笑む。
そして2人は手に手を取り合って交流会の会場を後にする。
「私はヴァレンシアとの結婚に向けて準備があるので、失礼するよ。皆は楽しみたまえ」
会場を出る直前にそう言って。
その言葉に生徒たちは拍手で2人を送り出した。
ピナリスとレノアールが何か言ってたようだが誰も何も聞いていない。
ただひたすらおめでたい、そう生徒や教員は思った。
そう、王子や王女と婚約すると王家の秘密に関しても勉強する。そして、当然ながら賢王の呪いと色についても学ぶ。
王家の色を持たない子が大切にされる理由も教わる。もちろん、ピナリスだって教わった筈だった。
なのに…だ。だから自業自得なのだった。
そもそも王家の色を持たない子は革新的な技術を思いつくと言われる。そして国を導く。だからこその賢王なのだ。それは、何故か?
そう、彼らは日本からの転生者だから。茶髪や黒髪は元の自分の色。そして、想う人に出会えるとこの世界に定着して本来の色を取り戻す。
当たり前だが、日本の技術を持ってすれば賢王になれるわけで、ヴァレンシアももちろん転生者だ。
それに気が付かなかった元婚約者やそれに同調した者たちは粛清させる。それも教育の中で触れられているのに。
その1年後、ヴァレンシアとルートリアは長年の想いを実らせ婚姻した。その後、ヴァレンシアは立太子して時期国王となる。現王が50才で引退すればヴァレンシアが国王、そしてルートリアは王配として共に手を携えて国を栄えさせるだろう。
そして元婚約者のピナリスは領地に幽閉され、誰とも婚姻することなく一生を終える。王家の秘密を口外させないために魔法による記憶の消去が行われるのだ。一部の記憶のみに干渉するこの魔法はともすれば大きな代償を必要とする。稀に廃人となってしまうのだ。
しかしそれもすべて婚約という契約の中に記載されている。よって自業自得だ。レノアールがどうなったのかは誰も知らない。
ピナリスがどうなったのか、それは歴史の表舞台では語られることはなかった。
語られたのは思慮深く愛情深いルートリアと賢王と名高いヴァレンシアの愛の物語だけ。
生成AIで作成
婚約破棄の逆転版です。
すっきりしてもらえたら嬉しいです。