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6ページ目・英雄の話

翌朝、メイドのサーシャさんにお父様の話を聞きました。

彼女は私専属のメイドで、(宮原風音)が宿るより前からエリザのお世話係を任されていた人物です。非常におっとりとした人ですが、全く動かない私の世話という仕事だけを任されていたのでおっとりさに磨きがかかり、たまに他の仕事をするとミスを頻発するのです。しかし私の世話においては、食事や入浴、果ては排泄まで文句を言わずに働いてくださいました。―――私にとっては忘れたいですけれど。


けれど仕事は全て終わり時間ができると、私を人形に見立てて抱きしめたり、年季の入った人形とお茶会をしていたりするのを私は知っています。

これで五分ですかね。

え?負けてる?ま、まぁいいでしょう…。


さて、サーシャさんにお父様や私のことについて聞くと、「お嬢様の役に立てる」と誇らしげに話し始めました。



********


えぇ、有名な話ですから〜。私なんかでも知っておりますよぉ。ロウダ様から語るのは恥ずかしいのも頷けます、あの方のお話は英雄譚として王都でも有名なのですよ〜?

ふふふ、驚かれますよね〜。

『ロードランの英雄 もしくは悲劇の竜殺し』!私も一度、王都にいた頃に吟遊詩人さんの語りを聞いた事があります…。


世界には、魔素という、魔力の元みたいなのが澱む場所がいくつかあって、ロードランの西の森がそのひとつになります〜。それが溜まりに溜まると、大量の魔物だったり、強い魔物だったりが発生するんです。あぁ、大丈夫ですよぉ?周期があって、数十年だったり、数百年だったりするんです。ロードランではまだ100年は発生しないらしいですから〜。


さて、遡ること6年前。当時、ロウダ様は貴族という立場よりも見聞を広める事を大切になさっておりまして〜。冒険者として各地を放浪しておりました。ロウダ様のお父様、つまりお嬢様のおじい様に当たる先代領主様はその事には大変反対していました〜。危ないですもんね〜。ですがロウダ様は先代領主様の反対を押し切り、冒険者になりました〜。そうして世界を回り、仲間の一人と恋に落ちます〜!もちろんその女性の方は平民で、ロウダ様は貴族。決して結ばれない二人…ですがロウダ様の愛は貴族としての矜恃よりも強かったのです〜!その知らせが先代領主様の耳に入る頃にはもう、お嬢様を身篭っていらしたとか…。


しかし、ロードランは跡取りを巡って話をする余裕がありませんでした。あの魔物が、魔素の吹き溜まりから出てきたのです。そう、ロードランでは観測史上初めての竜種、グラウンドドラゴン…!他の魔物とは一線を画すその強大な魔物に、先代領主様は土地を捨てることも考えていたのだとか〜。

そこに、ロウダ様達が駆けつけたのです!ロウダ様は妻の話もろくにせず、そのまま戦地へ赴きました。ロウダ様の参上に兵士は奮い、ロードランの冒険者、王国中から精鋭の騎士が200人も集まったのです!

ロウダ様は身の丈程もある大剣を振るい、竜の猛攻を凌ぎ、エリザ様のお母上は竜の鱗を焼くほどの炎を出して応戦しました〜!


しかし竜、とりわけ「ドラゴン」の名のつく者ですから圧倒的で、集まった軍は半壊、お二人も満身創痍にして、漸くグラウンドドラゴンは倒れました〜。


その時です!彼の邪竜は死に際に奥方様に呪いをかけました。それは無我の呪い。受けた者は我を忘れ、人を忘れ、何者でも無くなってしまう恐ろしいものでした〜。奥方様は自分が消えてしまう前にと、その場でエリザ様を産み落とし、息絶えてしまいました……。



********


そこまで語ると、サーシャさんの語尾は萎んでゆきました。そして、震える声で続けました。



「ロードランの英雄はここで話が終わってしまうのです。王都では、奥方様と結ばれて終わる話もございますが、ロウダ様の真実はこうなのです〜…。そして、エリザ様にもその呪いがかかってしまっていたのです〜」


サーシャさんはそこまで言う頃には、涙を流し殆ど叫ぶような調子でその場に座り込みました。


「だがら゛、よがっだでずぅ〜!エリザざま゛が、こうして歩いで、はなじでぐれるようにな゛って〜!」


サーシャさんがあまりに突然泣き出すものですから、私は慌てて彼女に抱きつきました。

何となく普段の雰囲気から察していましたが、まさかこれほど涙脆い人だったとは…。


私は彼女の頭に手を置きながら、微笑みました。

きっと、私の存在は奇跡なのです。

そしてその奇跡はこうして私の事を想ってくれた人々に与えられた物だと感じたのです。だからこそ、この時私は自分が転生したことを誇らしく思ったのでした。


窓のからは初夏の風が吹き込み、ロードランの屋敷を暖かく包み込みました。

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