表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/51

side・カンナの手記6

賢者ウルヴァンは、今回の一件に限って賢者で在れないかもしれないと言った。それは彼女の実績からすれば随分と謙虚な物言いだった。


彼女はただ、竜に話があると言う。私が異界渡りをした時に発生する時空の裂け目から天満竜シャイナを引きずり出す事が使命だと言った。それがいつ、誰から与えられたものなのか、賢者ウルヴァンは多くを語ろうとしたなかった。


さも冷静に、いつもと変わらぬ様子で彼女は告白を続けた。


「私は久しぶりに迷いの中にいるのだよ。竜を引き戻せば、世界が滅ぶやもしれん。そうならず、全て丸く収まるのかもしれん。やろうと思えば、機会はあった。けれども我らが愛したこの世界、危機には瀕させまいと勝手をしていたのだ。それも正しい行いなのか、分からぬままだ。しかし向こうからこうも接近されたのであれば、もはや使命を果たすしかあるまい。あぁ、竜は我らに何を思うだろうか。その真意が恐ろしい」


それは独り言のように、目を瞑った賢者の唇から紡がれた。なにやら凄まじい話をしているものの、私はその発音の美しさや旋律の綺麗さに聞き惚れていた。


「竜の子を殺しても良い」


その言葉にギョッとして現実に引き戻された。


「すみません、その『竜の子』というのは?」


「竜の子は竜の器となる子だ。子というのは、人の子らの事を指す。時が来たのだ。運命の子よ、その片割れよ…。竜の子が現れた以上、我らは使命を果たさねばならぬ」


そこまで言うと、賢者ウルヴァンは目を開き私の顔をまじまじと見つめた。少し思案し、目を開いたまま、相変わらず表情のない顔で言った。


「運命…か。そやつに任せるも良い」



表情は変わらないまま、しかしどこか合点がいったように彼女は私に問いかけた。


「時にカンナよ。知恵は運命や信念を超えるものと思うか」


咄嗟のことで驚いたが、そう尋ねるからには何か大切な事を聞かれているのだと確信があった。慎重に言葉を選び、思考を丁寧にまとめ私は言った。


「知恵は信念を正しく導き、信念は運命を貫くと信じたいです」


知恵や信念、運命といった言葉が何かのメタファーであるかもしれなかった。けれども、賢者ウルヴァンが言葉をそう伝えた以上、私はそれに従って意見を述べた。それが正しかったか分からなかったが、賢者ウルヴァンは静かに頷いた。


「それもまた答えか。決心しよう。お前に真実を話そう。異邦人たる運命の子よ、お前の帰還を手伝う代わりに、お前の運命に結末を託させてもらう」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




私は、賢者ウルヴァンからの言伝を持って、北のアッシュローズ王国を目指していた。

アッシュローズはエレド大山脈を超えた先にある小国である。万年灰色の雪が降り、そんな中でも寒冷な気候に適応した特産物の薔薇が広く分布しているという。

つまりそこに帰還魔法の詠唱の言葉を知る者がいるのだと言う。その者こそ力の巨人イグレッタというらしい。その名前に聞き馴染みが無かったが北方では有名らしく、探せば見つかると賢者ウルヴァンはそう言うのみであった。


賢者ウルヴァンから語られたのはこの世界の創世記。それも、ソルラヴィエで語り継がれる太陽神の神話でも、魔族に崇められる竜神の神話でもない。強いていえば世界各地でまばらに信仰されている巨神神話が最も近かった。


世界は始まりの巨神が創った。その者、初めに火を創り、それでは熱いので大地を創り、まだまだ熱いので海を創った。次に巨神は自分の頭ほどの高さに空を創ると風が運ばれ、世界の礎が完成した。

最後に巨神は生命を創った。

その後巨神が竜神を世界の頂点として創ると、竜神は巨神を真似て不完全な生命を創った。それが魔物であり、嘆いた巨神が竜神を6つに分けて封印した。

巨神は姿を隠し、遺された世界を見守るべく三体の巨人が生み出された。


そんな話がよく聞く神話だった。ソルラヴィエで信仰される太陽神は、三体の巨人のうちの一体であるとされていた。


しかし真実は違うのだと賢者ウルヴァンは言った。

竜神は、巨神に創られたのではなく産み落とされたのだと云う。そして、本来であればこの世界の主神は竜神になるはずだったのだと。

竜神が魔物を創ったのは確かだが、巨神はその過ちを許していた。けれども、この地に先に生まれていた人間が、それを許さなかった。人間は竜神を騙すとその身体を6つに引き裂き二度と復活しないように肉体を世界各地に封印したのだ。

残された魂ばかりが形を得て、現在世界に存在する6体の竜になったらしい。


そういった話を聞いている時、私の心は壮大なファンタジーに胸を打たれワクワクしていた。このような世界だからこそ、賢者から語られたその神話は本当に存在したのだと思えたのだ。


ともかく、その竜の魂を繋ぎ合わせることが賢者ウルヴァンの指名なのだと語った。

そして、最初のピースこそ竜の器に天満竜シャイナの祝福が宿ることなのだ。


竜の器というのは、どうやらエリザのことらしい。思えば地竜の呪いだとか、魔力過多の時の竜の夢だとか、夢さんと名付けられた石の魔道具だとか、エリザの周りには竜に関する不思議な出来事が多くあった。


天満竜はこの世界と異界との狭間に居るので、そこを魂だけの存在が渡った時に初めて接触が可能らしい。

エリザは向こう(地球)で死に、こちらに来ている。その間の事を覚えておらずとも、そこに出来た縁を辿ることでシャイナをこの世界に顕在させる作戦だ。シャイナを呼び出しさえすれば、後は賢者ウルヴァンが全ていい感じにしてくれるらしい。

私はシャイナが顕在したついでに、その穴から地球に帰れるのだ。


今までこうも求めたものが、ここに来ていっぺんに現実味を帯びてきた。

その事にむしろ現実味を感じないという不思議な感覚に陥りもしたが、ともかく私は北の国へと歩みを進めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ