40ページ目・キョウの少年
マシュー君が負けてヘンリー君まで試合が伸びましたが、とくに盛り上がることもなく勝てたので二戦目の話は飛ばしましょう。
元々のクラス数が少ないので二回も勝てばすぐに三戦目が回ってきました。
学年別なので、一年生の決勝戦になります。
A組が相手なのですが、これといって因縁のある人は居ないので盛り上がりにかけますね。まぁ、学校行事でそんなドラマチックな展開、見たことないんですけどね。
A組にはすごく強い子がいるらしく、ヘンリー君が不安げな顔をしてました。A組を見やると黒髪赤目、(子供なので分かりにくいですが)若干童顔の少年がいます。キョウ人のような特徴ですから、その顔は記憶に残っていました。入学式でナンナちゃんとアメリアちゃんに挟まれていた、席次の子です!
留学生の類でしょうか、それとも日系外国人ならぬキョウ系ソルラヴィエ人(?)でしょうか。
外見は本当に日本人の子供にそっくりで、見ていると懐かしさが湧いてきます。
一戦目。マシュー君は苦戦を強いられましたが、武器をただ振り回すのではなくフェイントを織り交ぜるという事を実践していました。
相手の子はマシュー君と同じく体躯が良く力押しで勝ち抜いてきたらしいのですが、しばらく打ち合っていると相手の剣が弾かれてしまい、そこで降参。マシュー君の勝利に終わりました。思うに、マシュー君の方が同じパワータイプといえども技術が少し先をいっていたのでしょう。その僅差で剣に負荷がかかって先に相手の剣が折れたのでしょう。
二戦目、私が場内に入ると、あの黒髪の子がやって来ました。強いのであればここで私を倒せそうな最高戦力を持ってくると言うのは当然でしょう。腰に自前の刀を下げているのを確認し、やはりキョウの人なのかなと考えていると、話しかけられました。
「エリザ……様。あなたの様子を見ていました。あなたはとても強い。しかし、あなたはこの国の侯爵令嬢だと聞いていたのですが、何故刀の使い方をしているのですか」
少し硬い発音なのは、国が違うからなのか緊張からなのか分かりませんでしたが、どこか好戦的な鋭い視線で私の返事を待っています。
「えぇ、友人から教えてもらったのが刀だったので。やはり支給された長剣で刀の動きを真似るのは勝手が違いますよね」
そう言うと、ならば本物の抜刀術でも見せてやる、と言わんばかりの剣幕で鞘に手を置きました。姿勢を低くし、左足を軽く引くと、少年の纏う空気が変わりました。
美しさすら覚えるその構えは、少年の誇りがやどっていました。
私は半端さを恥じました。通用するからと形の合わない武器で代用のような使い方をしていたこと、構えずに適当に子供として相手をしていたこと、それらは私が戦うということを軽んじていたことの表れです。
そこで私は初めて、構えました。その構えはマイヤーさんから教わった王宮剣術。対人、対魔物に磨かれたその守りの剣は、どのような攻撃にも対応できるようにと編み出されたものです。それがせめてもの礼儀であったと、この子に思い出さされました。
開始の合図が発せられる瞬間、少年は弾かれたように距離を詰めす。抜かれた刀を私の剣で弾きましたが、再び刀を合わせられます。
10歳の少年とは思えぬ重い剣戟は、恐らく身体強化を使って底上げしているものでしょう。三回、四回と刀を弾いていると、痺れを切らしたのか少年が叫びました。
「八刀一閃!」
その言葉に呼応して刃がきらりと光ると、八つの斬撃が飛んできます。どういう物理法則なのかと聞きたくなりますが、さすがファンタジーの世界です。初めて見るものですが、これは武技の類ですね。
内三つ程をいなしながら後方に飛んで避けます。そこから飛燕斬を飛ばし、その間に私から切り込みます。
「スラッシュ」
くるりと回りながら、当たった物を切り裂かんばかりの勢いで刀を薙ぎ払います。
相手はまともに受けようとはせず、しのぎを削って受け流し、そのまま反撃しに来ます。
「二刀斬鉄」
二つの刃が横凪に空を斬ります。何とか躱しましたが、私の剣の端がそれに触れたようで、小さな破片を散らしました。
武器をへし折れるだけの威力があるようで、冷や汗が背中を流れました。
少年はその隙を逃がさず、貪欲に攻撃を続けます。それも、がむしゃらではなくいつだって反撃に対処できる際どい判断で。
あまり戦闘経験がない私でも、私の扱う刀術よりも技量があるとハッキリ分かります。
マイヤーさんよりも強いかと言われると、少し技に奢っている感じがしてそうでも無いように思いますが、それでもやはり厄介です。
しかし王宮剣術の基本は防御からの崩し。相手の刀を見極め、体幹を崩すタイミングを狙って攻撃を仕掛けます。本来は左手にバックラーがあるのですが、今はありません。かくなる上は、剣戟を掻い潜って素手の左手で刀を捉えるか、剣で刀を弾いて素手の攻撃を少年にかますか。
いくら身体強化があるとはいえ、前者は怖すぎます。剣で刀を弾くにせよ、そのためにはより丁寧に対応する必要がありました。
動きを読むために少年の瞳に視線を合わせると、ちょうど少年も私の目を見ていたらしく、互いの目線が重なりました。途端、少年の動きが一瞬止まりました。
その隙を見逃しては面倒だと判断した私は咄嗟に刀に重撃を加え、体制を崩したその肩に掌底を打ち込みました。私が身体強化をしていたこともあり、その衝撃に刀を取り落としてしまいます。
少年はその2連撃を何とか踏ん張り体勢を戻し耐え切りましたが、片足は境界の線を踏んでいました。
互いにまともな試合をせずにここまで来たようで、観客席からは大きな拍手と歓声が飛んできました。それは両者の健闘を讃える祝福の言葉ばかりでした。しかし、押し出された子は納得のいかなそうに私を睨んでいました。
かくしてこちらは優勝が決しましたが、アメリアちゃんの方はあの後最後の一戦を落としてしまったそうです。
アメリアちゃんは悔しそうにも何かに怯えるようにも見える表情でした。
「でも最善は尽くしましたし、アメリアさんは一回も負けてないでしょう。」
そう言いましたが、アメリアちゃんは珍しく苦笑いを浮かべました。
そして、夏休みに一緒に来て欲しい所があると言い、表彰式も早退してその日は早々とベッドへ潜り込んでいきました。
あからさまに様子弱ったアメリアちゃんに私は心配になり、その晩はずっとベッドの上を眺めていました。
私は二段ベッドの一階で、時折上のベッドのアメリアちゃんが寝返りを打つのを見ながら、彼女の事情について思い馳せるのでした。
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