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39ページ目・アメリアちゃんと夢さんのこと

普通は一戦にマシュー君くらいかかると計算しても、あと1時間以上は私達の版は回ってこないはずです。

マシュー君とヘンリー君には謝ってから、再び西棟に歩いてきました。

魔法部門はもう二巡目のトーナメントに進んでおり、控え席ではアメリアちゃんが魔力を体全体に巡らせ、臨戦態勢で試合を眺めていました。


「どうしたんですか、そんな殺気立って」


声をかけるとアメリアちゃんがキッと振り向き、声をかけたのが私であると了解すると表情を若干和らげました。


「あぁ、エリザだったのね。本番だから、今日一日中気を引き締めておこうと思ってね」


「そうですか…あんまり、気を張りすぎて倒れないでくださいね。あ、そうそう。まずは一勝おめでとう」


「ふん、大丈夫よ。不安要素なんてほとんど無いわ。このまま優勝しちゃうんだから」


「ほとんど、なんですね。でもアメリアさんならきっと大丈夫だと思いますよ。気になる生徒とかいますか?」


「そうねぇ…」


アメリアちゃんは少し考えてから、斜め後ろを振り向きました。B組の生徒達が集まっている中に、先程試合に出ていた三人もいます。


「王子サマは正直どのくらいかは知らないけれど、雷の魔法は殺傷能力が高くて、試合以前に非常に危険ね。当たりたくはないわ。それと、あのルッツだったかしら?陣魔法を面白い使い方するわね。魔法自体は下手だけど、使い方はとても上手いわ。私も真似して見ようかしら」


アメリアちゃんが素直に人を褒めるのが珍しく、ついぽかんとした顔を出してしまいました。


「なによ、その顔」


「いえ、アメリアさんも他人を評価するんですね。びっくりです」


「別に事実を言っただけよ。私を脅かす程じゃないわ」


アメリアちゃんはあくまで毅然とした様子で言い切りました。

私達がそんな会話をしていると、いつも髪の毛の中に隠していた夢さんがひょこりと顔を出し、私の頭の上に座りました。

頭の上なので何をしているのか分かりませんが、試合の観戦でもしているのでしょうか。


寮はペット厳禁ですし、正直得体も知ることが出来ていないのであまり人前に出ないように言いつけていたのですが……今日くらいは大丈夫でしょうか。

どうせルームメイトには少なからず姿を見られていると思いますし。

それに…ペットとも言いきれませんしね。


「……前から気になってたのだけど、その小さな翼の生えたトカゲ、何?そんな魔物がいるなんて聞いたこともないわ」


ほら、すぐ食いつきますよね。この質問にどう答えるべきか分からないので、あんまり夢さんを外に出したく無いんですよ。

そんな私の考えを見抜いてか、駄々をこねるように夢さんが私の頭を踏み荒らしました。

いた…くはないですがちょっと痛いかも。

右手を頭の上に上げ、夢さんを掴んで捕まえます。


「触ってみる?」


「ぇ」


アメリアちゃんがあからさまに嫌な顔をします。分かる、トカゲって気持ち悪いと思いますよね。でもほら、見てくださいよ。あんまりトカゲっぽさはなくて可愛いですよ?

手のひらを開くと、夢さんが大人しくこちらを睨みました。

そんな目で見んでくれ。先に原因を作ったのはそっちですよ。


アメリアちゃんが恐る恐る人差し指を近づけ、ちょんと先だけ触れました。それから小首を傾げ、今度は指の腹で夢さんの身体をなぞりました。

夢さんはその感覚が存外気持ち良いらしく、目を細めて撫でられるに任せています。


「あら?まるで宝石みたいな触り心地ね。本当に生き物?」


「んー、私にもよく分かっていないんですよね。ある朝起きたら、居た。って感じです。ですが敵意もありませんし人の言葉が分かるくらい賢いですよ」


「本当?」


「ええ、何か言ってみてください」


「それじゃあ…飛ばない程度に翼をはばたかせてみてくれるかしら?」


アメリアちゃんがそう言うと、どことなく張り切った様子で、両翼をぱたぱたと私の手のひらに打ち付けました。


「右手と左足を同時に上げてみて」


夢さんは言われた通りにします。


「へぇ、凄いじゃない!なにこれ、あなたが動かしているとかでも無いわよね?」


「えぇ、完全に自我を持っている個体ですよ」


「へぇ……どういう原理で動いてるんだろ。気になる」


私も気になりますよ…というか、原理?生物に原理なんて言いませんよね。

興味津々に夢さんをじっくり眺めるアメリアちゃんと、恥ずかしげに顔を背ける夢さんを見ながら疑問が浮かびました。


「もしかしてアメリアさん、この子が魔道具だって分かってました?」


「あぁ、やっぱり魔道具だった?」


凄いですね。こんな一瞬で正体を見破れるなんて。恐るべし、アメリアちゃん。

どの辺に魔道具要素があったのか、私には全く分かりません。


「アメリアさん、どこを見て魔道具だと思ったのですか?」


「そうね…触った感触で、石系の魔道具によく使われる魔力を溜め込むタイプの石によく似ていたし、魔力の流れを見るに、他者の魔力で体を動かしているように見えたの。魔法陣を用いない魔道具は少ないけれど、これによく似た魔道具を持っているから、かしら」


パッと見ただけでそんな事が分かるんですか。圧巻です。

夢さんが私の腕を走り、肩に飛び乗り、再び私の頭までよじ登っていきます。


「驚きました、まさかこれ程物をよく見られるだなんて。というか、魔力の流れなんて見られるんですか?」


「……スキルよ。《鑑定》の少し勝手が違う版のようなスキルなの」


「へぇ…凄いですね、アメリアさんは」


そう言うと、アメリアちゃんは少し顔を赤らめ、ふん、と鼻を鳴らして試合会場の方を向きました。


その横顔は不機嫌そうな表情であるものの、口元はほんの少しだけ上を向いていました。



そのようなやり取りをしていると、C組の順番が回ってきました。トーナメント表を見るに、あのB組とあたるようです。


B組は順番を変えたようで、一戦目にルッツ君が出てきました。


試合開始の合図と同時にナンナちゃんは詠唱を開始しますが、ルッツ君は木札の魔法陣をつなげ、殆どノーモーションで魔法を使います。それを何とか避けながらようやく一発火球を飛ばしましたが、簡易版の魔法障壁の木札を使い防がれました。

このままではナンナちゃんの攻撃は届かないと判断したのか、即座に持続する魔法障壁を作り、高威力魔法の詠唱に入ります。ルッツ君の攻撃は魔法障壁で耐え、返しの一撃に全てを賭けて早期決着をつけるようです。


同時にルッツ君が早口で何かを唱え始めます。木札の陣を結ぶと光の直線が伸び、魔法障壁にヒビを入れます。ナンナちゃんよりも早く詠唱も終わり、木札の魔法と同じ光の直線が再び発動し、ナンナちゃんの魔法障壁が音を立てて砕けました。

あの魔法は…そう、シールドブレイク。対魔法障壁の魔法です。効果が限定的ですが、少しの魔力差なら覆して障壁を壊せるくらい効果は高いです。


しかし、ナンナちゃん本人にはダメージは入っておらず、一瞬遅れてナンナちゃんから水の激流が吹き出しました。広く、強く、足を取られれば流されて場外でしょう。

私含め皆がナンナちゃんの勝ちを確信したその時、激流が反転し、ナンナちゃんが吹き飛ばされました。


ルッツ君は他の木札よりも大きく、複雑な魔法陣が書かれた木札をかざしています。私は魔法陣や理論には詳しくありませんが、反魔と呼ばれる種類の魔法があると聞きます。魔法や呪詛をそのまま相手に返すという難度の高い魔法だそうです。

ルッツ君はあの歳でそんなものを身につけているのでしょう。アメリアちゃんは緑の瞳を爛々と光らせながらその様子を眺めていました。


「勝者、ルッツ」


審査員の教員が声を張りました。周囲から感嘆の歓声が湧き上がります。ルッツ君も自分が勝てたという事に戸惑いながらも嬉しそうに笑っていました。

ナンナちゃんは大丈夫でしょうか?観客席から身を乗り出すと、突然の出来事に対応できなかったようで大量に水を飲み、壁に背中を打ち付けて気を失っているのが見えました。


心配になりましたが、学校医が素早くナンナちゃんを運び出していきました。やはり魔法を使う時点で危ない大会だとは思っていましたが、打ちどころが悪かったらまずいことになっていたんじゃないでしょうか。最悪平民同士なら大丈夫なのでしょうけど、貴族が怪我をした、とかなら責任はどこへ行くんでしょうか?学校?皆その辺を了承した上での大会なのでしょうか。


ともかく、後でお見舞いにいきましょう。夢さんに頼み、ナンナちゃんの様子を見てきてもらうようにしました。夢さんはいつの間にか魔法が使えるようになっていたらしく、必要ならば回復魔法を使ってくださいと頼んでおきました。

本当にいつ覚えるのやら。


素早く観客達の足元を駆けていく夢さんを見ると踏まれないかと心配になりますが、頼もしくも思えました。


二番目にはアメリアちゃんが来ると知っていたからなのでしょうか、次の相手はあの王子様でした。2人は会場の中央で向かい合うと何やら言葉を交わします。


ところで、私の体はいやに視力や聴力が良く、この距離から王子とアメリアちゃんとの会話が聞こえるのですわ。


「いくら神童と言われていても、王族たる僕には敵わないだろう。なんてったって、王族は雷の魔法が使えるんだ。危険だし、死にたくなければ棄権してもいいんだよ?」


「ふん、誰が棄権なんてするもんですか。私は雷の魔法を使えなくってもあなたなんか目じゃありませんわ」



あ、雷魔法って使ってる人聞いた事無いなと思っていたら、王族専用なんですね。でも、どうなんでしょう?魔法は結構なんでもありなので、雷くらい簡単に起こせそうなんですけどね。

原理が未だ解明されておらず、王族だけに雷の加護があるんでしょうか?

ですが、雷を使えたからと言ってアメリアちゃんを打ち負かすことが出来るとは思えません。


アメリアちゃんは何やら面白いことを思いついたような不敵な笑みを浮かべています。

アメリアちゃんは満遍なく色んな魔法が使え、特に「無属性」と言われる火、風、水、地のどれにも属さない魔法と魔法陣を使う魔法を得意とします。

入学試験の時にカカシのような的を溶かしていた魔法もそうです。そんな事をはしないと思いますけど、むしろあの魔法を当てられたら命の危機があるのは王子の方ですよね?


王族だから粗相はされない、という考えでしょうか。


開始と同時に「風の精霊よ」と詠唱始めながら、魔力で魔法陣を宙に描きます。

アメリアちゃんが風魔法を使うのは珍しいですね。燃えるような赤色の髪のせいでしょうか、何となく火魔法を使うイメージを持っていました。それに、先程のような初手から火球を飛ばすような事はしませんでした。


詠唱よりも魔法陣が早く出来上がり、火球が連続して飛び出しました。王子から迸った雷がそれらをかき消し、アメリアちゃんに当たると思われたその瞬間、いつの間にか張られていた魔法障壁に阻まれました。


よく見ると地面の砂に少し不恰好ではありますが、魔法陣が描かれています。アメリアちゃんの左の靴の先が砂で少し汚れているのが見え、どうやら左足でも魔法陣を描いていたのが分かりました。

手と足で魔法陣描きながら詠唱とか、いったい脳みそいくつあるんでしょうか。ここまで来るともはや異質な器用さですね。


王子は雷を落としたり、地を走らせたりと様々な方法でアメリアちゃんを攻撃しますが、アメリアちゃんは避けたり魔法で相殺して守りを固めています。


そして、開始からしばらく経った頃合、ようやく口で詠唱していた魔法が唱え終わりました。果たして本当にそんな長い詠唱の魔法があるのか、アメリアちゃんオリジナルなのかは分かりません。ですが、私のようにイメージで「これをしたいあれをしたい」ではなく「詠唱」という型にはめた上でのアレンジってすごく難しそうに思えるんですよね。


会場に少し強い風が巻き起こり、砂塵が起こります。王子はただ事ではなさそうなその雰囲気に、流石に攻撃の手を止めて警戒しています。数十秒も経たないうちに風は止み、王子は「これだけなのか…?」と狼狽しています。

事実、風を吹かせるだけの魔法だったようです。しかし、観客席の皆はどよめきます。

会場にいる本人には気づかないでしょうが、上から見るとその地面に、大きな魔法陣が作られているのです。


地面の指定したところだけ砂を除ける、だなんて本当に風を吹かせるだけの魔法で出来るんでしょうか。


私がその風魔法に驚いていたのも束の間、地面に描かれた大きな魔法陣が青く光ります。

焦った王子は雷を出して攻撃しようとしますが、空間が歪み、王子が全身から出血しながら吹き飛びました。その際雷の魔法が暴発したようで、右腕が爛れています。

砂の地面には血の軌跡が伸び、王子が倒れ込みました。


え、何あれは…こわ……

じゃなくて、出血量は多くないとはいえ、一国の王子様にあんなことして大丈夫なんでしょうか!?


回りくどい魔法ですが、アメリアちゃんのドヤ顔を見るに、魅せプの一環でしょうか。アメリアちゃんの倫理観どないなってるんですか?


目を凝らすと、王子の出血は表面の皮膚が裂け、そこから出ているだけでした。しかしながら口からも少し血が垂れているので、内臓にもダメージがいってそうです。

若干青ざめながら学校医が駆けつけてきます。流石に可哀想なので、遠くからですがこっそりと私からも少しだけ自己治癒能力を向上させる魔法をかけておきました。


ここまでしなくても良かったんじゃないかと悲しい気持ちが湧いてきましたが、教師陣の何人かは目を輝かせながらアメリアちゃんの魔法陣について語り合っています。

この大会の真の目的は実践で戦える者の選別ではないでしょうか。西での魔帝国の進軍。それに伴ったこの大会の開催時期の早期化。ある意味過激になるのは承知の上なのでしょう。

あくまで妄想の域を出ない話ではありますが、私はその時どこかこの国へのおかしさを感じたのでした。


少し気分がくもりましたが、現在一勝一敗です。どちらが勝っても不思議ではありません。といったところで、今度はマシュー君が私を呼びに来ました。


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