38ページ目・大会
試合会場は実技棟の西棟と東棟になります。
西が魔法部門で東が武術部門です。真ん中に中心となる建物があり、上から見ると三角形に配置されているので両棟の距離はなかなかにひらいています。
これが本当に学校かと疑いたくなる規模で、下手な三階建てのショッピングモールよりも広いんじゃないかと思うほどです。無論、この実技棟トライアングルの中央は広々としたグラウンドになっています。
でもまぁ、友人は魔法部門に集中していますし、他の子の様子を見なくてもいいなら、出番までずっと西棟にいるつもりです。
他の人の試合を観察するというのは、事前にその人の戦術を確認するという保険でもあります。それを怠るということはすなわち舐めプと言えるでしょう。
が、舐めプでなんとかなりそうですし勝ち負けに興味が無い以上どちらでも構いません。記念程度には勝ちたいですけど、結局のところアメリアちゃん達と喋っている方が面白いのでね。
友人の居ない学生活はとても寂しかったので、今の私はアメリアちゃんのひっつき虫が如くです。
マシュー君とヘンリー君には申し訳ないですが、私は出番まで東棟へは向かいません。
円形で、中央に戦闘できる大きなスペースが設けられた会場はあたかもコロッセオのような造りでした。屋根は取り付けられておらず、上を見上げるとそのまま太陽と雲が見えます。
本日は快晴なり。
ナンナちゃんはぼーっと辺りを見ており、メリッサちゃんはマルコ君と火花を飛ばしあっています。
そして、アメリアちゃんは目を閉じて精神統一していました。
「ほらほら、空を見てご覧なさいな。いい天気ですね〜」
後ろから突然声をかけられたせいで少し驚いたようでしたが、私の姿を確認するといういつものようなむっすり顔になりました。
「……もし、これで優勝出来たら今度私と手合わせしてくれない?」
「へっ?え、ええ。構いませんが…」
突然の申し出でしたが断る理由もなく、真意が分からぬまま許可を出してしまいました。
それでアメリアちゃんのやる気が何故か湧いているようなので良かったのかもしれませんが……。
「ええと…何故?」
「気にしなくていいの」
アメリアちゃんは取り付く島も見せずに、一回戦が始まり、辺りには空気が割れんばかりの歓声が広がりました。
三人一組、一対一の試合を三回し、勝ちの多かった方が勝ち上がります。
初戦はB組とE組でした。
B組には例の王子様と、実技試験の際に私の前にいたルッツ君がいます。ルッツ君とはあれから全く会う機会がなくて知りませんでしたが、実力をつけ、今や王子様に目をつけられるくらいには魔法陣の使い方が上手くなっているそうです。控え席で、居心地悪そうに制服の膝の辺りを握っていました。
B組に知っている人が集中している(と言っても二人だけですが)のでこの試合以外はほぼ他人がやってる試合の観戦になるんでしょうか。
まぁスポーツ観戦なんてそのようなものでしょう。
試合が始まりました。
B組の知らない子とE組の知らない子の勝負です。
中学三年間で、同じクラスになった人の名前も半分くらいしか覚えられませんでしたし、全校生徒といえば全く覚えられなかったものです。五年間もあるのですから、彼らの名前も覚えたいなぁとぼんやり考えていました。
魔法部門ということもあり、合図と同時に二人が詠唱を始めました。E組の子の方が若干早く唱え終え、火球が発現します。一息遅れてB組の子の風魔法が発動し、火球はかき消されました。風魔法は延長の詠唱ができるようで、続いてもう一度風魔法を使い火魔法の発動前に少し押し出す…というようなことを繰り返してB組の子が勝利しました。
想像するような血湧き肉躍る戦闘は行われませんでした。まぁ、魔法なんて直接当てては危険ですし、両者魔法使いなら動きが少ないのでしょう。
次はルッツ君ですが、事前にほぼ完成した魔法陣の描かれた木札を懐に隠しており、線を繋げて魔力を込めることにより威力は低いながらも擬似的な無詠唱で魔法を発動させていました。
木札は消耗品なのでストックがいくつあるのか気になるところですが、無詠唱なので発動も早く次になんの魔法が来るか分からないというのは厄介ですね。
ルッツ君が無事に勝利し、B組が2回勝ったので結局王子の実力は見られませんでした。
というかこれ、先の二人が勝ったら戦わずに済むし、先の二人が負けたら「俺は負けてない。2人が弱かったせいだ」とか言い訳できるのでは?王子がどんな人物か知りませんが、ちょっとずるい気がします。
しばらくして、C組とA組が呼ばれました。
アメリアちゃんに頑張って!とエールを送ると、普段通り鼻を鳴らして不敵に笑っていました。
その様子は自信が溢れており、しおらしさの微塵もありません。
実は昨日のアメリアちゃん、幻覚だとか言いませんよね?
A組は(当たり前ですが)見知った顔はありません。実力もどのくらいなのか分かりませんが、一番手はナンナちゃんに水魔法で場外まで押し流され、二番手は開始直後にアメリアちゃんの火球で抵抗も出来ずに飛ばされていました。
アメリアちゃんは素早く詠唱をすませると、ファイアボール一発で相手を吹き飛ばしていました。詠唱速度も去ることながら、威力がとても高いです。完全に舐めプとも言えるような圧勝をし、会場にざわめきが広がりました。本当に開始数秒で試合が終わるという前代未聞らしく、黄色い歓声が上がっている場所もあれば、静かになって恐ろしそうに会場を覗き込む者もいました。
確かにあそこまでの圧勝だと引きますよね。私は引きませんけどね!
本当ならアメリアちゃんが戻ってくるのを待っていたかったのですが、ヘンリー君が息を切らして走ってきたので急いで東棟に向かいました。
順番はマシュー君が一番手、私が二番手、ヘンリー君が三番手です。深い意味はありません。ただ、真ん中で確実に私が勝っておくと、マシュー君が負けていてもヘンリー君に繋げられますし、マシュー君が勝っていたら勝ちが確定します。
私が絶対に勝つという算段は甘すぎますかね?
ま、まぁ、負けても私は可愛いから許されるはず…はず…。
観客席ではなく控え席から会場を見ると、遠くから見ていたよりもずっと広く、周囲から浴びせられる歓声を聞くと体が強ばりそうです。陽の当たる場所とそうでない場所の明暗がくっきりとしています。会場の砂は太陽の光を浴びて黄金色に輝き、そこに足を踏み入れる行為を億劫にさせます。
試合が始まる前に二人を見ると、二人も緊張した面持ちをしており、なんだか失笑してしまいました。それにつられてか二人も少し頬を釣りあげ、場の空気がすこし和らぎました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マシュー君が中央で闘っているのを眺めながら、私の番をどうしようと考えます。
多分、私はかなり強いと思います。アメリアちゃんみたく圧勝するのは簡単そうですが、変に注目も集めたくないですし、ゆっくりと打ち合いながら端に誘導して場外が一番ですかね。
マシュー君は体格差を活かし、上方向から力強い振り下ろしを繰り出します。それを受け止めたお相手さんの剣にヒビが入り、相手が降参しました。
武器が折れたら降参…ではなく戦意がなくなれば降参なんですけどね。ですが、武器を持っていての技術に自信がある相手には有効かもしれません。こっそりと心のメモに書き留め、マシュー君と入れ違うようにして中央の円に入ります。
マシュー君に労いの言葉をかけたのですが、彼は頬を赤らめて小さく俯くと足早に控え席に戻っていきました。
さて、会場の中央に立つと周囲からぐるりと声が聞こえてきてうるさいくらいです。私が立ち止まった位置から十二、三メートル先で相手の男の子が慢心の笑みをこぼします。
私が彼を知らないように、彼もまた私の事知らないんですかね?女だから力押しにしたら勝てるとでも思っていそうです。
けれどもそれは私も同じで、子供だと舐めていて一本取られるかも…。そんなのは恥ずかしいので私も警戒しておきましょうか。
審査員の教員が「はじめ!」と叫び、同時に少年が切り込んで来ます。身体強化を自身に施し、半歩後ろに後ずさってから少年の剣を弾こうとしました。
思ったより剣が簡単に斬れてしまい、少年の剣は真っ二つになりました。少年は驚いたように目を見開き、私も驚いていましたがすぐさま少年の首元に剣を突きつけます。
周りからどうと歓声が湧き、少年が降参しました。
あれ…同じ質の剣を使ってるはずなんですけどね。観客は楽しそうな視線を私に向けますが、同時に他の生徒から警戒の目が重なります。会場の反応は奇しくも魔法部門で見たアメリアちゃんの試合を思わせます。
私は背に冷や汗を感じながらそそくさとその場を退散しました。
マシュー君とヘンリー君は喜ばしそうに「さすが、マイヤー先生を追い詰めただけある」と声をかけてくれましたが、苦笑いで受け流しました。
思ったよりも力を抜かないとまともな戦闘にはなりません。力を御せぬ者は未熟者じゃけぇ…
次の試合こそはと、私は拳を握り固めるのでした。




