35ページ目・学園の始まり
ナンナちゃんのコミュ力に脱帽。その言葉につきます。
あの後ナンナちゃんが間に入り、会話を促し、一日で皆柔らかい表情をするようになりました。
私が貴族であった事に驚きつつも、すぐに受け入れ「エリザちゃんで良かった」と笑を零してくれました。天使でしょうか?
自然な流れで自己紹介も促し、一人一人をよく観察しているようでした。実はナンナちゃん、とっても賢いのかもしれません。いや、三席取ってる時点でだいぶ賢いんでしょうけどね。
それに、ナンナちゃんは褒め上手です。それも、相手を褒めて取り入ろうとしている感じでは無く、嫌味の無い尊敬を向けます。そんな彼女の甲斐あって、私を含めた四人は貴族と平民というしこりはあれど、それなりに打ち解けることが出来たようです。
メリッサさんは王都出身なだけあり、オシャレな髪飾りをしており、アメリアちゃんも可愛らしい編み込みの髪で、なんのヘアアレンジもしていない私は同じく質素なナンナちゃんに親近感が湧いたのでした。
ですがナンナちゃんからは「動きもお上品だし、髪自体もとっても綺麗だし、古風な感じの可愛らしさがあって、私なんかと一緒にしちゃ悪いよ」と言われました。なんだか疎外感…。
そういえば私が自己紹介した時、ナンナちゃんがぼうっと私以外を見ていた気がしたので、あの時何を聞いていたの?と聞くと、驚いたことにアメリアちゃんを見ていたのだと言いました。
「アメリアさんって、その、気難しそうな感じだったから怖い子なのかな〜って思ってたんだけど、エリザちゃんが『アメリアさんの友達です』って言った時嬉しそうにしてたから、なんかだかそれがおかしくって」
そうナンナちゃんはいたずらげに笑いました。誰かに友達だと認められて嬉しいと思われるほど好意を持って貰ったことはなかったので、そんな話を聞くと年甲斐もなくにやけてしまい、とても恥ずかしい思いをしました…。ですが、アメリアちゃんがそう思っていてくれることがとても嬉しく思います。
その後、雑談をしながら、荷解きをし、部屋を私たちの私物でアレンジしました。
ご覧下さい。
部屋の東側一段目のベッド。ベッド自体にはものを置かず、枕元に小さな書き机を設置しました。一段目と二段目を繋いでいる支柱に荷物を吊るし、寝る前に枕元でものを書いたり読書をできるようにしました。
我ながら機能的であることに重きを置きすぎて、面白みがないなと思います。
とはいえ私のだらけた性分では、すこしちらけるとGが湧きそうなのでこのくらいで良いのです。
さて、私のベッドの上段。アメリアちゃんのベッドは、布団からして違いました。見るからにふわふわで、宿舎の備え付けではなく持参してきた物だとひと目で分かります。
本人がツンケンしてるのに、柄は明るい色の花で、穏やかで可愛らしいです。
そして枕元、重力を無視して小さな台が浮いています。その上に私物を置いてあるようですが、なんだその机は。私が自分のベッドで仰向けになると視界の上端の方にちらりとそれが映り込む配置で、若干気になります。
魔道具の類でしょうか。
ちゃぶ台を4人で囲めそうな幅の空間を挟み、反対側。
西側上段は備え付けの布団に枕ですが、壁に切り紙や鏡等が貼ってあり、物ではなく空間がメリッサちゃんカラーになっています。
メリッサちゃんは背が低いので、仕切りを立てて無理やり足元に空間を作り出し、そこに色んな持ち物を詰め込んでいました。
西側下段はナンナちゃんのベッド。壁に両親と思われる男女とナンナちゃんが写った写真を貼り、それ以外は予定表や暦等の実用的な物を貼っています。枕元にはちょっと台とランプがあり、その横置いてある教材はナンナちゃんの努力家っぷりの片鱗が垣間見えます。
……村と言っていましたが写真があるのが気になります。この世界の写真は正確には「写真」ではなく「念写」というのに近いです。
はい。そういうスキルです。
特別なスキルですし、あまり多い訳でもないので写真を撮るのは非常にお金がかかります。余程裕福な村の、村長の娘とかでしょうか。
本人自体も落ち着きがあり教養のありそうな雰囲気ですしね。
さて、北側には廊下へ続く扉が引っ付いており、南側には共有の大きな机が1つ、どかっと置いてあります。その右横にはゴミ箱が置かれ、左側には観葉植物が置かれています。どうやらナンナちゃんの私物らしいです。
各々が好きな空間を作り、その出来に満足しているようでした。
アメリアちゃんも最初こそ乗り気ではありませんでしたが、満足気に部屋を見渡しています。
月並みな表現ですが、沢山の出来事があって疲れた私達は、日が沈む頃には泥のように眠ってしまいました。
さて、翌朝のクラス分けです。A〜E組までがあり、どういう基準で分けているのかは分かりませんが、貴族と平民が五分五分の割合でいます。
朝、部屋ごとにクラス分けの紙が配られ、ルームメイトのみんなは、仲良く同じく組に割り振られるようでした。仲間はずれとかにならなくて良かったです。
私達はC組のようで、噂に聞くA組の方が偉いとかそういうのは無いように思いました。なんてったって、学年首席のアメリアちゃんがいるんですからね。
◇◆◇◆
校舎は木造で中学校を思い出します。歩くとギシギシなる廊下、昔の生徒が彫刻刀で掘った落書き、ともすれば雨漏りもしてきましたね。
私が親友に出会ったのも中学校でした。あぁ、懐かしい記憶が蘇ってきます。
忘れていた気持ちを、もう戻れなくなってから思い出すなんて皮肉ですね。
本来なら一緒に歩いている3人の話題に参加した方が良いのでしょうが、何となくそんな気力が湧きませんでした。
木製の引き戸を開けると、教室の喧騒が一気に溢れ出しました。
いろんな子達が何人かでグループをつくり、数人は一人で机に座っていたりします。
なんだか戻ってきたんだな、と思いました。
ふと前世の記憶が頭を過り、不安になります。教育機関とは得てして残酷なものです。「友達に会えるから学校はたのしー」って言う人もいますが、とんでもない。
何もかもが、将来に役立ちにくい知識を詰め込むために虚空に消えていく。それが教育機関だと私は思っています。
そもそも友達いなかったらそんな感想出ませんし。
あまり暇つぶしという言葉を友達に使いたくはありませんが、私は心ここに在らずで、アメリアちゃんとナンナちゃんとで喋って時間を潰していました。
しばらくして、A組の担任の先生が入ってきます。
金髪碧眼、整った顔立ちと高い身長のある男性です。まだ若く、穏やかに笑ったその顔は周りの女子生徒を湧きあがらせています。
てか、見覚えがあります。
以前私に王国剣術を教えてくださったマイヤーさんじゃあないですか!
……やはりモテるんですね。
アメリアちゃんは若干冷ややかな目でその様子を見ていましたが、メリッサちゃんとナンナちゃんは互いの手を握りながら「イケメン〜!」「ハンサム〜!」と言って飛び跳ねていました。
この世界の子供はおませさんしかいないようです。
学園の授業は読み書き、四則計算、魔法学総合、武術、歴史、一般教養etc……と言ったような異世界ならではな科目が混じっています。
マイヤーさんは武術の担当だそうです。
初日は先生と生徒の自己紹介、各教科のレクリエーションをして終わりました。アメリアちゃんはつまらなさそうにそれらを聞いていましたが、とりわけ魔法関係の授業だけは背筋を伸びして先生方の話を聞いていました。
メリッサちゃんは「学び」ということ自体に憧れているようでその瞳をめいっぱい輝かせていたものの、ナンナちゃんはひたすらに真剣な表情を浮かべていました。
翌朝、魔法と武術の授業で、早くも目標が提示されました。
クラス別対抗で魔法、武術、それぞれ3人1組でトーナメント式の試合をする、言わば運動会のような大会?が初夏頃にあるそうです。
それに優勝したチームは学校別の大会に出るそうで、そこで優勝した者は更に、一般の大会に先生付き添いの元参加するそうです。
それに向けて、座学はもちろん実技も多く取り入れられるそうです。
以前は1年生は座学寄りで、実技は2年から。大会なんて3年生以降じゃないと参加出来なかったそうなのですが、どうやら最近になって大会が繰り下がってしたそうです。
そもそも、大会も例年は秋頃に行うそうなのですが。
こうやって実技寄りで詰めた授業を行うのには理由があるはずです。
昨晩、収納袋からカンナさんの手紙が一通出てきました。
中には「今私は王国よりも随分と西に来たところにあるアウルランドという国にいる。ここのふたつ隣の国で、魔族が治める魔帝国との戦争が勃発したそうだ。長年外界の情報に触れていなかったが、どうやら数年前から魔帝国に下った人族の国がチラホラとあったそうだ。そう遠くない未来、この戦火はソルラヴィエにも飛び移るかもしれない。ひょっとするとそちらも既に動いているかもしれないが、まぁ、気を引き締めておいてくれ」といった内容の事が書かれていました。
随分と物騒な話――というか魔帝国なんてあるんですね――ですけど、恐らくこの為に学園の生徒を戦力にしようとしているような気がします。
真偽は定かではありませんが、マイヤーさんあたりにでも聞いてみたら分かるでしょうか。
ただ、目を輝かせながら授業に取り組むアメリアちゃんやメリッサちゃんを見ていると、こんな幼い時から軍人に調教しようとしている(かもしれない)学園に若干の嫌悪が湧いてきます。あ、王立学園ですし、実質王国の方針なのかもしれません。
とはいえ実技は好きです。なぜなら、皆が私に尊敬の目をもって見てくれるから。
前世では全くの無能と言っても良かった私です。体育の授業でも、野球は打てませんしサッカーもできませんでした。ドッジボールも中盤〜終盤になってようやく頭数を減らされるためだけに狙われ、呆気なく外野へ行くような人間でした。
高校ではテニスや卓球をしましたが、打つ相手がいなくて片隅でお山座りをしておりました。
ですから、若干力を振るって注目を浴びるのがなんとも心地よいのです。少し恥ずかしく、気疲れもしますが、なんだか鼻が高くなっていったものです。
「これから剣の授業をしばらくし、その次盾、その次に弓、そして最後に槍と斧をやっていきたい。剣と盾なら扱った者も多いだろうが、戦場では一方的に攻撃が出来て威力の高い弓、リーチに長けた槍、盾を砕く事ができる斧の方が、人によっては扱いやすい」
校庭でマイヤーさんが声を張り上げます。実技の授業は魔法、武術問わず危険なのでお外でやります。
てか今こいつ「戦場」って言いましたね?隠す気ないのかしら?
「――だが、1対1となると剣はやはり扱いやすい。それに、魔法や武術を使うと一概に武器種だけで有利不利は分からない。そうだな。見本として……エリザさん。前へ出なさい」
「は、はい!」
突然の名指しでビクリとし、声が上ずってしまいました。生徒達の間を駆け足で抜け、マイヤーさんの元へ着くと満足気に頷きました。
「諸君。今日は初めての武術の授業だということもある。よって、君達の目指す所を今から示そうと思う。私とエリザさんで1対1をする。あくまでこれは1対1だが、ここまでこなせるようになったら一対多もこなせるようになるだろう。君達には、願わくばこれを目指して欲しい」
皆の視線がマイヤーさんから私に集中するのを感じ、ぞくりとしました。
緊張感は当然ながら、得意げな満足もありました。
気の緩みは事故を起こすと叱責をし、両頬をぱんと叩きました。
一身上の都合で更新に空きが出来て申し訳ないです。これからもぼちぼち更新していきます。




