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33ページ目・スキルと竜と

教会までは先生達の引率により、列になって向かいます。


中には何人か列からはみ出ている者もいますが、ちゃんと列を成して動けるあたり、皆優秀なんでしょうね。これも5歳から続く英才教育の賜物でしょうか。


会場から10分ほど歩くと教会が見えてきます。スキルを教えられるのに教会?と思うこともありますが、この世界においてスキルとは神からの贈り物であり、祝福なのだそうです。

そうじゃなくても、ソルラヴィエ王国はどうやら宗教国家のような側面もありますから、必ず教会へは行くことになるでしょう。


教会の造りついて詳しくありませんが、石造りと言うのは珍しく感じます。天高く尖った頭がいくつもそびえ立ち、建物を囲うようにして4箇所から魔除の結界を張り、窓に描かれたステンドグラスからも魔除の魔力を感じます。


流石に王都の真ん中までは魔物も入って来ないので、雰囲気のために結界を張ってる感じでしょうね。


少し緊張しながら中へ入ると、冷たい石の空気が肌で感じられました。

後ろから太陽の絵のステンドグラスを通して、黄色い陽光が館内を照らし出します。


中学の時に修学旅行で訪れた教会はもっと小さかったので、遥か頭上高くに描かれた天井の絵を見ながらため息がでてしまいます。


列が止まり、先生が説明を始めます。

どうやらここのシスターがスキルを教えてくれるそうです。親切な事に、スキルの名前と、効果や使用方法までも教えてくれるとのこと。

なんだその親切設計。とても有能じゃないですか。


少し乱れていた列を並び直し、先頭の子からシスターの前へ向かいます。

シスターの目が青鈍に光ったと思うと、何やら紙に書き込んでそれを渡しているようです。


皆緊張しながらの待機になるので、シスターのペンの音がやけに大きく反響します。


よくゲームである、「調べる」みたいなスキルをシスターは持ってるんでしょうか。

そんな事を考えながらシスターの様子を見ているとらふと頭に知らない情報が流れ込んできました。


――スキル「鑑定」を所持――


――「鑑定」・・・物質や相手の能力を測ったり、正体を理解することが出来る――


言葉としてまとまってはいませんでしたが、そのような事を理解していました。同時に、どこか心がざわつくような気分になりました。

シスターの前にいる男の子に注目すると、同様に「剣術」というスキルを持っているらしい事が分かりました。いや、分かるというよりは、初めから知っていたような強烈な既視感を得ました。


……あ、これ、私も「鑑定」持ってるな…


私はそう考えました。

思ったより速い、驚きのネタバレ。

さっさと帰りたいものである。

というか、今まで全くそんな事無かったから気づきませんでした。

むしろ、なんで今になって気がついたんでしょう。

もしかすると、真新しいことばかりで、日々の中でそれに馴染んでいっているように思っていましたが、すぐに馴染めたのはこの「鑑定」のおかげだったんでしょうか。


どうせならもっと派手なものが良かったら等と脳内会議で愚痴を言っていると、しばらくして私の番になりました。



シスターの目元には大きな隈が出来ており、あまり若く無さそうなのによく働いている事が分かりました。


私を品定めするような目でじっくりと眺め、ペンだこだらけの指を動かそうとし―――眉を顰めました。

その視線は私は見つめながら、離そうとしません。


そうやって少し時間が経ち、首を傾げながら1枚紙を渡されました。


貰ったので、とりあえず教会の外に出、そこからは自由時間のはずだったのですが……紙に不穏な事が書いてありました。



スキル「竜呪」

効果・・・不明

後で話があります。スキルの鑑定を別の者に代わり次第呼びに行くので教会のすぐ外でお待ちください。



なんだ…!?これは!?

スキルが鑑定じゃなかった事もさることながら、呼び出しと言うのは心臓によくありません。心臓の振動が身体中に伝わります。


効果不明なのも怖いですが、竜呪、なんて名前が随分と穏やかじゃありませんね。

ふと、今までずっと私の横髪に隠れていた夢さんが這い出て来ました。


そういえば、父が倒した魔物も地竜だし、夢に出てきたのも竜だし、夢さんもなんか竜ですよね。

私がドラゴンかっけー!て思っていたから出てきたとかそんなんじゃない気がします。

もっと何か因果関係のある……いや、思い過ごしですかね。世の中、結構意味とかありませんし。


「ねぇ、夢さん〜。このスキル、何か知ってる?」


独り言まぎれに紙を広げたまま、何となく呟きました。

夢さんはこちらに向き直り、首を縦に振りました。


その瞬間。

何かの歯車がガタリと動き出した。そんな気がしました。


◇◆◇◆◇◆◇



その後いくつか問答を繰り返し、どうやら夢さんはこの「竜呪」というスキルを知っているどころか、何かの関係性があるらしい事までは分かりました。


しかし、肝心の具体的な話が分かりません。

痒いところ手が届かず、非常にむずむずします。


出てきた子はそのまま帰っていくのに、私だけずっとここで待っているのも寂しいものです。


どういう質問をすれば核心に近づくのか。私は頭が悪いのでなかなか思いつきません。


夢さんとにらめっこをしていると、先程のシスターがやって来ました。


「ちゃんと待っていてくれたのですね。えらいえらい。少し歩いてもらう事になりますが、裏手まで一緒に来てくださいな。もちろん、そのスキルの事についてです」


先程とは違い、穏やかに笑って見せたシスターさんですが、目元の隈のせいで社畜に見えてきます。こんなこと考えるのは失礼ですが、憐れを…誘いますね……。


シスターさんに手を引かれ、見たことの無い花の咲き乱れる中庭を通り、裏手から中に入ると小さい部屋に案内されました。


中には先に二人、服装からして司祭様のような人と教会の人ではなさそうな男の人がいました。


「あ、あの?」


不安になって声をかけると、シスターさんの方から説明が入ります。


「あのね。あなたのスキルは初めて見るものだし、効果も私じゃ分からなかったの。だから、学者様と司祭様にも、あなたを見てもらおうと思って。そうしたら、何かわかるかもしれないじゃない?」


「わ、分かりました…」


先程の鑑定もどき(?)をするような感じで二人を見つめます。

学者さんの方は「探求」という鑑定の亜種のようなスキルを持っていました。詳しくは分かりませんが、鑑定とは違いひとつの情報を細切りにして、一つ一つを解析していくことが出来るのだとか。


司祭様の方は火の加護という、どちらかと言えば戦闘向けなスキルを持っていました。多分、スキルではなく役職としてここに居るんでしょうね。


「なるほど。エリザ…さん…でしたよね?今までに何か、他の子と比べて変わった出来事とかありましたか?…例えば……なかなか治らない魔力過多とか、明らかに異常な病だとか」


「え、あ、はい。少し前に魔力過多になりました。その時は腕の良い先生に診てもらって大丈夫でしたが、多分、普通にしてたらなかなか治らなかったと思います」


「なるほど……」


そう呟くと、学者さんは手元の本を何枚か捲り、ふと顔を上げました。


「ん?エリザさん…ってあなた、ロードランのあの娘か!」


「えぇ…」


そうか、いや、なるほどそうかもしれん、と呟きながら手元の本に何かを書き殴り始めました。


司祭様が理解出来ていないようで、困惑した面持ちで学者さんを眺めています。

私も、どういうことか分かりかねます…。


学者さんがメモを書き終わったのを確認し、シスターさんが声をかけました。


「あの、何か分かりましたでしょうか」



可能性の話になりますが、これが本当なら前代未聞です、と言ってから言葉を始めます。


「ロードランの英雄の話は知ってますよね?俗世の話題に疎い私ですら、こうして知っているくらいですから」


二人とも頷きます。

やだ、私ってば有名人?なんか凄く気恥しいです。


「その話が全くの真実なら、これはスキルと言うより加護…というか、軛に近い。本来、別にスキルがあるはずだがこの『竜呪』というものに覆われ、見えていない状態だろう。スキル自体も封印されているかもしれない。だが、鑑定で表示される名は、神の名付けた真名だ。このスキルに名前がついている事から、イレギュラーではなくこういった事象があるのだろう」


仲間や王立図書館の閲覧禁止区域に掛け合ってみないと前例があるかは分からない、と付け加えて、学者さんは大きく息をついた。


「とはいえ、スキルとして見れた以上、何かしらの誓約や力があるはずだが、その効果が分からない。まぁ状況を考えるとこれは、ロードランに発生したグランドドラゴンの呪いだろう。娘の噂も聞いてはいたが、真実ならば相当重い物だとは思うが、何とかそれを打ち消した。それでもなおこうして完治していなかったと考えるのが妥当だろう。竜の呪いなど、受けて生きている者がいるなど驚きだ。呪いを受けて魔力過多になる者もいるが、よくその程度で済んだものだ」


後半になるにつれ声が速く、小さくなっていき、最後は何を言っているか分からない調子で更に言葉を続けていました。

ページをめくり、既に見開き2ページくらいは何かを書き込んでいたようです。



とはいえ、聞き逃せないところがありました。

彼の仮定が正しいなら、夢さんは竜呪との関連性があり、その竜呪はグランドドラゴンの呪いかもしれないとなると、夢さんとグランドドラゴンの関係性が疑われます。


可能性として、グランドドラゴンの霊体か呪いかが夢さんに取り憑いている…とか?

だとすれば、そのタイミングで呪いが解けた…わけないですよね。

何より夢さんは好意的ですし、おおよそ街を襲ったとは思えません。


私自身この世界のルールを知らないので、学者さんのように詳しい考察ができないのが悔しいですが、私の呪いが解けた?理由とは一体なんだったんでしょうか。


夢さんの事も言えば、何かわかるかもしれませんが正直なところ、そんな事よりも宿舎へ行きたいです。

相部屋の人とか、どんな部屋だとか、色々確認したいのです!

そう、気分は旅行先の宿。

得てして新しい環境はワクワクするのです。


「ふむ。つまり、呪いのせいで本来のスキルが分からぬという事か。とはいえ、竜の呪いとは初めて聞く上、解呪できる者などそうはいまい。申し訳ないが、しばらくはこのままでいいかな?」


司祭様が確認を取ります。まぁ、私としても別にスキル無くても…というか、多分竜呪の権能とかじゃない限り鑑定がスキルなので別に構いません。

こくりと頷くと、学者さんが言いました。


「この事は極力口外……いや、なるだけ他の人に漏らしてしまわないようにしてくれるかな。一応、こちらの方で研究をしてみる。わかり次第連絡するよ」


「分かりました。……あの、そろそろ宿舎を確認したいのですが、行ってもよろしいでしょうか」


「あ、あぁ。すまないね。私はもう大丈夫だよ」


「ええ、私達も構いません」


学者先生も頷いてくれています。

帰り道も、迷わないように教会の外までシスターさんが着いてきてくれました。


道中、「『鑑定』持ちの子、今年もいなかったわねぇ。疲れちゃうわ」と愚痴っていました。

「鑑定」は別に希少なわけではありませんがその特性から、教会で鑑定士になる事を勧められるそうです。

ですが多くは冒険者に憧れるので教会の鑑定士になる者が少なく、シスターさん達が激務を任せられるそうなのです。


「ひぇえ」


労働者が少ないのはよくありません。思わず声が漏れてしまいます。



教会から宿舎まで、将来について考えました。

このままここで暮らすのでしょうか。鑑定があるなら鑑定士なのか、それとも冒険者になるか、というかそもそも貴族なんですから家に戻るのか。

というかお父様は普段何の書類を見ていたのでしょう。

どんな仕事をしているのでしょう。

領主とかいう現代日本に無い職種など全く想像がつきません。


そういえばここの人の平均寿命ってどのくらいなのでしょうか。

のんべんだらりと毎日を暮らしていますが、何も目的もなく生きるというのも、なんだかゾッとする話です。

私は大人になったらどうなるのでしょうか。


春風が暖かに光る街並みを見ながら、私は思うのでした。


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