30ページ目・入学試験
楽しい時間はすぐに過ぎると言いますが、まさにその通りで。
あっという間に王都に着きました。
一般枠の人達は元旦の2週間に試験を受け、1週間前には合否通知を受け取り次第王都へ向かうそうです。
対して貴族は必ず合格するので、元旦の3日前程度に試験を受け、元旦に入学式とスキル鑑定をするそうです。
じゃあ試験して何を決めるんだって聞きたくなりますけど……とりあえず入学式の翌日までは、カンナさんも一緒に居てくれるそうです。
今生の別れでは無いとはいえ、第二の親友と離れ離れになるというのも、悲しいものです。
試験は筆記テストと実技テストの2つがあるそうです。
実技は正直自信ありますし、筆記も読み書き計算が出来るので恐るるに足らず!
そう思っていました。
筆記が午前中、実技が午後です。
さて、筆記テストなんですけど、魔法陣の製作や詠唱を書け等がほとんどで「詠唱?ダサいぜ!」て笑っていたカンナさんと自分を殴り飛ばしたいです。
それに、歴史などは苦手であまり頭に入っていなかったのもあります。建国記や神話の話なども全然で、入学してからはちゃんと勉強しようと決意し、
ファイアライトの詠唱だけ何となくうろ覚えで書いた答案用紙を伏せました。
これ、私が平民なら確実に落ちてましたね。
ちらっとアメリアちゃんの方を見ると、結構スラスラ解答しています。
そう言えば魔道具とか好きでしたからね。魔法はとても上手そうですよね。
さて、午後に実技を入れるという事はつまり……鬱憤を晴らせということじゃな?
とは言え恐らく、慢心でなければ私は魔法面において人並外れた能力があるはずです。
出来れば魔法が得意そうな人より少し強いくらいにして、筆記の点数分取り戻したいなと思います。
ま、いずれにせよ通るんですけどね。
実技テストは、筆記テストを受けた場所から結構離れ、障害物のない屋外で行われました。
四肢のないマネキンのような的まとが等間隔おきに立ち並んでいます。
さては、あの的を攻撃しろてきなやつですかね?
何人かは集まって「さっきのテストどうだった?」とお互いの出来を話し合っている子達もいます。
いいなぁ、私もアメリアちゃんに絡みに行こうかしら。
流石は異世界、青やら緑やら桃色やらと、地球では考えられないような髪色の子達が沢山いて少し目がチカチカします。
しかしながら、アメリアちゃんほど濃い赤色は珍しく、程なくして目標を発見することが出来ました。
私が近づいてくるのに気付くと、アメリアちゃんはドレスをつまみ小さくお辞儀をしました。
私も会釈を返し、微笑みました。
「アメリアさん、先程の筆記テスト、どうでしたか?」
「あんなの簡単すぎます。それに、どうせ受かるんだからあまり関係無いでしょ?」
「まぁ……そうですけどね。ちなみに先程の筆記テスト、恥ずかしながら私は―」
「負けませんから」
「あら?」
「筆記も、実技も、絶対に負けないんですから!」
アメリアちゃんがキッと鋭い緑の目で私を睨んできます。
何が、あったんでしょうね。
彼女の中の変化なのか、誰かに吹き込まれたか。
前者であって欲しいですね。それにしても、私なんかに勝って何がしたいんでしょう?
というか、負けませんからって…アメリアちゃんの中の私って、もしかして魔法の詠唱や魔法陣にも詳しいんですかね?いや、いつもアメリアちゃんのお話に相づちを打っていたからそう勘違いされちゃったのかもしれませんが……。
その後少しだけお喋りをしていると、金髪の可愛らしい容姿の少年が話しかけてまいりました。
「やぁ、アメリア。君の噂はよく聞いているよ。君の噂が本当かは知らないけど、僕も魔法に関しては自信があるからね。お互い頑張ろう」
そう言って握手を求めるように手をつきだしている彼は、恐らくこの国の王子だったと思います。
元より名前を覚えるのが苦手な身。顔と肩書きを一致させることでやっとです。
私は半歩引き、会話に混ざらない意志を示しました。
柔和な表情の王子に対してアメリアちゃんはその手を取らず、深々と頭を下げました。
「私には……いえ、私はあなたより高みを目指します」
一瞬でしたが、アメリアちゃんが不機嫌そうに顔を歪めたのが見えました。
言葉も、相手をライバル視していそうでしていない絶妙な選び方です。
アメリアちゃんは彼が嫌いなんでしょうか?
王子はそうかい、と笑ってその場を後にしました。
「あの、噂って?」
「まぁ!私の事、眼中にすらないって事!?ふん!いいわ、私の取っておきの魔法で吠え面かかせてやりますわ!」
「え?あの、」
どうしてそうなった、と聞こうと思った瞬間教員が集合をかけました。
まぁ、また今度じっくり話せばいいでしょう。とりあえず今は試験です。
まとの前に並び、教員の話を聞きます。
的は、表面の硬度は低いものの内部は非常に丈夫という特殊な金属で作られた魔道具で、衝撃や受けた魔法の魔力濃度等を計測できる、言わば計測器in的です。
私達は、これを好きなように攻撃して良く、技術や的のダメージから点数を弾き出すそうです。
もちろん、武技での攻撃も可能との事なのですが、教員が念入りに「とても、頑丈だ」と言っているあれを壊そうものなら、自身の武器も壊れるんじゃ無いかって思いますよね。貴族ですし武器くらい変えはあるんでしょうけど、勿体なくないですかね。
いよいよ始まりました。どういう順番なのかは分かりませんが、アメリアちゃんと私は結構離れてしまい自分の番が来るまで暇です。
みんなどうせ受かると知っているからか、攻撃の手がだいぶゆるいです。中には表面を歪める程強めの魔法を使う子や、刀身の横幅を半分ほどくい込ませる子もいましたが、まぁ……少々盛り上がりに欠けますね。
先程の王子が呼ばれ、自信満々に「いきます!」と叫んでいます。
入念に詠唱し、王子から的に向かって雷が発生しました。会場が轟音と光に包まれます。
的を見ると、僅かではありますが貫通しています。
とても派手ですし威力も申し分ないですね。
自信があるわけです。
周りの子達も感嘆の声を漏らしています。得意げに手を振り返す王子の姿を見ていると、彼がライバル視している(?)アメリアちゃんの事が気になります。
アメリアちゃんって、もしかして私が知らないだけで何かしらの有名人なのでしょうか。
どうせアメリアちゃんの番か私の番まで暇なので、隣に座っていた少年に尋ねることにしました。
「あの、すみません、少し質問よろしいですか?」
「へっ?は、はい、い、いいよ!」
何故か少し緊張したように、上擦った声で返事が返ってきます。
……私の家の方が彼の家より階級が高いとかでしょうか?いや、でも、私そんなに顔バレしていないはずですし……私も有名人!?
「ありがとうございます。あの、アメリアちゃんの事知ってますか?」
「うん、ハルメア子爵のとこの人でしょ」
「はい、その子です。有名人だったりします?私、噂とかには疎くて…」
「え!知らないの?仲良さそうだったからてっきり知ってると思ってたんだけど……アメリアさんは、魔法が凄く上手くて神童だって皆から言われてるんだ」
「先程の、王子様もなかなかの使い手とお見受けしますが?」
「むぅ……確かにあの人も、僕じゃ足元にも届かないくらい凄いけど…アメリアさんはもっと凄いってお父さんが言ってた!」
「なるほど〜、それはそれは……気になりますね。ありがとうございます」
微笑みながらお礼を言うと、顔を伏せながら「うん」と返事しました。
「……ところで、もしかしてあなた、私の事知ってますよね?」
「え、あ、うん」
「申し訳ないのですが…私はあなたのこと知らないんですよ。どこかでお会いしましたか?それとも、知らないだけで私の変な噂とか流れていますか?」
しばらく間を置いてから向けられた少年の顔はほんのり赤く、居心地の悪そうな笑みを浮かべていました。
「新年の誕生パーティで、大きな木の下の机にいつもいたろ?僕がね、一方的に見てただけなんだ。君、ロードランのとこの人でしょ?」
「はい」
「でも、変に噂とかたってないはずだよ。皆が知ってるって程じゃないし。でも綺麗だなってみんな言ってて……」
「はい?」
最後の方が口ごもっていて上手く聞き取れませんでした。
が、何となくですが……容姿で結構注目を集めているんですかね?私。
以前の自分なら絶対にそんな事ないと思えましたが、現在私は美人さんですからね〜、悪い気はしませんね。
面白い様子が見られてニヤニヤしていると、少年が会場の中心を指さしました。
「あ、ほら、アメリアさんの番だよ」
アメリアちゃんは、何やら詠唱しながら指で空を切っています。
何かを描いているのでしょうか。
「ーー!解け!メルト!」
詠唱が終わると、先程指でなぞっていた空中に薄青い魔法陣が浮かび上がります。
「んー!んぐぐ!」
アメリアちゃんは顔を真っ赤にしながら魔法陣にも魔力を注ぎ込みます。
一瞬遅れて、びちゃ、という音が聞こえました。
まとに視線を戻すと、上半分が完全に溶けきって辺りに散漫していました。
子供達だけでなく、審査をしている教員達からもざわめきが起こります。
どちらかと言うと、子供達より教員側からの声が大きかったくらいです。
「まさか貫くだけではなく完全にダメにしてしまうとは…」
「魔法陣と詠唱による並列魔法ですか……この歳でそれを完成するとは素晴らしい」
「聞きしに優る腕前だな」
うわ、べた褒めじゃないですか。
確かに、王子が使っていた魔法と比べると派手さは無いのですが、如何せん金属を溶かすとか効果がえげつないですね。
隣の少年なんか興奮通り越して引きつった顔してますよ。
的が壊れてしまったので、次の順番の子からは別の的になりました。
自分の番が終わったアメリアちゃんは、汗を拭いながら不敵な笑みを浮かべ、ずんずんと歩いてきます。
横にいる少年が小さく「ひっ…」と声を漏らしました。
「あの、大丈夫ですか?」
「ふん!大丈夫よ!あなたに私を越えられるかしら?」
……困った事になりましたね。アメリアちゃんの手前、彼女以上の結果を出したいですけどそれをやっちゃうと多分注目を浴びますよね。
んー、でも……見た感じ彼女の最も評価された点は技術にあるようですので、物量で押し切れば凄さが軽減されるのでは無いでしょうか。や、そもそも武技の方で破壊を試みたら良いのでは無いでしょうか。完全な魔法じゃ無いので派手さや凄さが分かりにくいですし、同じ土俵で比べられません。
それに、今まで見ていた様子だと皆詠唱しています。私だけ詠唱せずに魔法を使えば変に見えるかもしれません。
よし、大丈夫でしょう。武技でいきますか。
「さぁ?どうでしょう」
こちらもニヤリと返してやると、 アメリアちゃんは不機嫌そうに鼻を鳴らして立ち去って行きました。
しばらくしてから、少年が口を開きました。
「あの、君ってアメリアさんより魔法上手なの?」
どこか怯えるような面持ちで私の顔を覗き込んでいます。
「ん〜、そうですね。緻密さは遠く及ばないと思いますが、総合的に見たら私に分があると思います」
まぁ、魔法は使わないんですけどね。
「そうなんだ」と言った少年の目に若干の陰りが映った気がします。
ですが、ようやく順番が回ってきてしまいました。
「ルッツ・ミルドルドさん。前へ出なさい」
教員が名前を呼ぶと、少年はあたふたとしたながら走っていきました。
ルッツって名前なんですね。
正直、王子より気に入ったのでまた後で声をかけようかな、等と上から目線な思考をしている自分にふと嫌気がさしました。
さて、彼は詠唱をせず、魔法陣から魔法を出していました。
アメリアちゃんもやっていましたが、詠唱せずに使える分、術自体の難易度は低いのでしょうか?
比較的速い射速で火球が飛んでいき、的にぶつかった瞬間大きく爆発しました。
威力も射速も申し分ないのですが、上位層にはギリギリ届かないくらいでしょうか。それに、魔法陣の描く速度が遅いです。詠唱の方が早いですし、そこが少し残念ですね。
結局、魔法陣タイプの魔法を使ったのは彼とアメリアちゃんのみでした。
少年の番が終わり、次は私です。
呼ばれる前から立ち上がり、スタンバイしておきます。
「エリザ・フォン・ロードランさん。前へ」
はい、と短く返事をし的を見据えます。カンナさんから貰った刀は…丈夫とはいえ欠けたら嫌なので魔力剣を使いましょうか。
右手を突き出し、無言で魔力を集め、少し刀のような反りのある剣の形に圧縮していきます。完成した魔力剣をぐっと握り、素振りを2回しました。
魔力剣は冒険者ギルドの人にも褒められていたので、得意な意識があります。教員側も目を細め、私の剣を見ていました。
今回、標的が金属ですし分が悪そうな武技を使う人は少なかったので教員の私を見る目も少し鋭くなった気もします。
さて、改めて的に視線を戻します。
あえて武技を使わなくても切れそうですけど、念には念を入れて、剣と身体能力に強化を施します。
剣を左の腰まで回してその上に左手をかざし、腰を低く落とし、意識を集中させます。
的との距離は10メートル程なので、教員の方も少し訝しんでいますが私の準備が出来たのを見て合図をしました。
「では、はじめ!」
声が通るや否や、体の重心を前に倒し、地面を蹴ります。
ぐんと的との距離が縮まり、そのまま刀を抜いて一文字に振り抜きます。
すっと刃が金属の表面に入り込み、大した抵抗もなくその体を抜けました。
的を通り抜けると左の足で地面を踏みしめ急ブレーキをかけます。
魔法剣を一振し魔法を解くと、小さく息を吐きました。
自分でも驚いた事に切った的は未だに上と下が繋がっていました。踏み込んだ時も、思っていた以上に想像通りの動きが出来、自分でも動きが洗練されていたと思い返せます。
周りをみると教員含め皆きょとんとした顔で頭上にはてなを浮かべております。
どうしてそんな顔するのか分からず私もはてなと首を傾げていると、教員の方が声をかけてくれました。
「あの、エリザさん?はじめてください」
「え……」
気まずい数秒が流れます。状況を理解しようと頭をぐりぐりと稼働させていると或いは数分程にも感じられました。
そして、私の明瞭な頭脳がある程度悟りました。もしかして、魔法が多かった分振り抜く速度に目がついていかなかったのでは無いでしょうか。そして、未だ繋がっているのでまだ切られたと気づいていないのでは無いでしょうか。
ですが、そんな事ことあるでしょうか?仮にも王国一の学園と言われるの場所の教員ですよ?気づかないなんて事あるでしょうか。
いや、たまたま彼が反射神経が鈍いだけかもしれません。
……よく思い返せば、カンナさんがロードラン家に来た時、父との模擬戦で見せたあの一閃。
今なら見える気もしますが、当時は何が起きたか分からないほどでした。
もしかすると、今、そういう状態なのかもしれません。
「えっと、切りましたよ?」
的の上半分を人差し指でぐっと押すと、切れ目からずれ落ち、地面に倒れました。
「なっ!?」
辺りからざわめきが聞こえます。どうやら私の仮定は当たっていたようです。
本当に誰も気が付かなかったのか気になりましたが、これで入学早々なめられるなんて事は防げたでしょうかね。
教員達はしばらく困惑したように話し合っていたので「では、失礼します」と言って待機場所へ戻りました。
ルッツ君を探しましたが見当たらず、代わりにアメリアちゃんが突っかかって来ました。
先程からどうしたんでしょ、この子。
「何よあれ」
「何よって言われましても……ただ刀で切っただけですよ?それよりも、アメリアさんのあの魔法も凄かったですね!2つの魔法を出力できるだけの魔力量に加え、それを操る技術。口を使った詠唱と指先での魔法陣精製。とても器用でしたし、思わず見惚れちゃいましたよ」
そう言うと一瞬だけ満足そうに顔を綻ばせかけましたが、はっとしたようにすぐにいつものむすっとした顔に戻りました。
「いや、そんなことってなによ。あの的がどれだけ硬いか知ってる?あんなのジークだったら…切れるかもしれないけど…そもそも切るにしてもあんなに綺麗に切れないでしょ!」
「そうは言われましても……」
この子は私に張り合っているつもりなのでしょうか。でも十分、彼女の魔法技術は優れています。それに、逆に追いつかれてはこちらの立つ瀬がないじゃないですか。
先程のを見た感じでは、かなり技術はついていますし気を抜けば追いついてくる気もしますが、何とか追従させないようにしたいものです。
とはいえそれはこちらのプライドの話なので、こうして子供を見守るような目でみるとそれもまた可愛いところではあります。
ニコニコとアメリアちゃんを受け流しているとジークさんがやって来まして、会釈をしてそのままアメリアちゃんを連れてゆきました。
私も、特に話しかける相手が居ないので王都の仮住まいへ帰ります。
……よく考えたら主人を1人で帰せらせるとかカンナさん、護衛失格じゃないですか。
後で文句を言ってやりましょう。
そう考えながら道を歩きます。
日はまだ高く、春風か暖かかったのがやけに記憶に残っておりました。
評価ポイントもじわじわ増え、とても嬉しいです。励みになります。極力毎日投稿を心がけますが、投稿できない日もあるかもしれません。その時は気長に待っていただけると幸いです。




