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27ページ目・病

光陰矢の如しと申しまして、歳を重ねると年々その過ぎ去る速度は増していきます。

1年目こそ真新しい事が多く濃密に感じましたが、2年、3年とこの世界に慣れてくると、時間の流れも加速するようでした。

かといってそれはつまらないだとか、何もしなかったのではなく日々楽しく、幸せな日々であったのです。


カンナさんと打ち合いをしたり、固有魔の研究のしたり、たまには料理長と一緒に日本食を作ったりもしました。寝る前等には王都で買った竜に変形する石等をいじくったりして、満足していました。


ですが目的もなくそのような生活が続くと、なにか目標を見つけなくてはという焦燥感に駆られました。こんな温い生活の中で、私はこの幸福に溶けきってしまい元の形が無くなってしまうのでは無いか。そんな嫌な気配を感じます。


何故か年に一度の誕生祭で合うアメリアちゃんは年々よそよそしくなっていき、不安は募るし焦燥も湧きます。



齢は9になりました。


その秋、私は高熱を出してしまいました。


嘔吐が止まらず、お腹の中に何かが溜まりこんでいるような異物感。


自分で回復系の魔法や状態異常解除系の魔法を試してみましたが効果もありません。カンナさんのも効きません。


体の中を何かが這いずり回っているような不快感と、全身の寒気が何週間も続きました。

お父様が大慌てで王都や他国から医者を呼んできましたが、皆腕をこまねくばかり。


私も随分と参ってしまい、ほとんどベッドの上で過ごす日々を送りました。

こちらへ来てからこの健康体は1度も風邪をひかなかったものですから、風邪がこんなに辛かったとは思いませんでした。

息も上手くできず、ひゅーひゅーという音が鳴ってしまいます。

いや、ただの風邪かは怪しいのですが……


移しちゃうと悪いからと人との面会も減らして貰っているので、なんだか気分を落ち込みます。




私が謎の高熱にうなされている間、ずっと同じ夢を見ていました。


大きな茶色い竜がこちらをじっと見つめているのです。その傍らには私と同じ容姿の少女が立っています。と言っても、それは真っ黒に塗りつぶされているというか、そこだけ光を切り抜いた様なというか、ともかくシルエットしか分からないのです。ただ、私はそれが私であるなと感じるのです。彼女もまた私をじっくりと観察しているようでありました。

しかし、全くの敵意もなければ何かしようという気配もありません。

ただひたすら私をじっと見つめているのです。




日に日に悶えるような気持ち悪さが強まり、それに伴い夢の中の竜と少女の目の光もしだいに強くなっている様な気がしました。


正直、気持ち悪すぎてそのような夢について考えることもできませんでしたが、お父様やカンナさん含め屋敷の皆様がいつも以上に優しくしてくれ嬉しいです。

確か、病によって得られるメリットに名前があるって知った時は驚いたなぁ、などと考えながら咳き込んでいると、カンナさんが心当たりがあるかも、と言いました。


「もしかして……いや、詳しい事はわかんないからぬか喜びさせちゃうかもだけどさ……病気じゃなくて魔力過多ってやつかもしれない」


「うぷっ……ええと、なんですか?それ」


「いや、事例が少なすぎて詳しい事はよく分からないし、たまたま昔聞いただけだから私には治せないと思うんだけど……魔力が多すぎて人の体が持たなくなって、最悪の場合……文字通りはち切れるって聞いた……いや、よく考えたら上級魔法連発しても魔力切れ起こさなかったし、魔力量は成長すると増えるから疑っておくべきだった。本当に申し訳ない」


「なんですか!?それ!めっちゃやばいやつですやん!?というか、異世界人補正の範疇かと思ってましたよ?!?」


驚きのあまり咳が込み上げた私の背を擦りながらカンナが続けます。


「うん。私はともかく、君の体は現地民だからね?そんな補正ないからね?それはさておきちょっと猶予がどんくらいかも分からないから、早く専門家の人呼んでこなきゃだね。ロウダさんには私の方から言っておくね」


「はい、ありがとうございます……あの、つまり風船の中の空気が多すぎるって話ですよね?常に消費し続けたり、大魔法とかぶっぱしたら何とかなりません?」


「ん……」


カンナさんは右手を顎にあて、少しの間考え込みました。


「……かもしれないね。試すだけなら無料ただだし、やってみるだけやってみる?一応専門家は呼んでおくべきだけどね」


「そうですね、ありがとうございます」


だいぶ希望的な観測ですが、私の体も持ちません。溺れる者は藁をも掴むといった感じで、魔力を消費しまくることにしました。



やることは簡単。

カンナさんの作った結界内に私も結界をはり、その中に去年習得できた最上位魔法を片っ端から打ち込んでいきます。あえて詠唱を省いてその代償分を魔力で埋め、消費魔力を増やします。

特に結界の方へはありったけの魔力をつぎ込んで作ったのでまず割れないでしょうと高を括っていました。


結論から言います。5発目でヒビが入り、8発目で私の結界が砕けました。

18発打った時点でカンナさんの結界にもヒビが入ったので、その日は打ち止めになりましたが体も少し楽になったようです。

気持ち悪さも多少和らぎ、吐き気もしなくなりました。布団に入って寝ようとすると、息は相変わらずひゅーひゅーという音が鳴っていましたが。


後から聞いたのですが、最上位魔法の中でも私が使った爆風の魔法は、一流の魔道士が複数人集まって使うような大魔法だったそうで、それを何発も打てるくらいって魔力がどれほど溜まってるのか底が見えず自分でも恐ろしく思いました。


こんなに消費してまだ魔力が溜まってるということで、流石にカンナさんも苦笑いでしたが、それを10発耐え抜いたカンナさんの結界って一体……?


間もなくして、ソルラヴィエ学園で教師をやっているという男の先生が訪ねて来てくれました。

名前を聞きそびれたのでここへは書けませんが、その先生は大急ぎで来てくださったようで、屋敷に着いた時ですら息を切らしていました。



彼は目線を私に合わせるようにしゃがみ、優しく微笑みかけてから幾つかの質問をしました。

食欲はあるかとか、どんな気持ち悪さかとか、変な夢は見ないかなど数十項目程受け答えをすると、なるほど、と呟きカンナさんとお父様に状況説明をしました。


「そちらの女人の言う通り、魔力過多ですね。どうやらまだ命に支障をきたす程ではありませんので今の所は猶予があります。これなら何とかなりそうです。対処方としましては魔力を出し切る事が最も有効なので……大量に魔力を使う魔道具を使うか、もし使えるならば中級以上の魔法を使い過度に消費するか、になります」


それを聞いてお父様はなんとか安心したような顔をしていましたが、私とカンナさんは顔を顰めました。


違うんや、兄ちゃん。最上位魔法毎日使ってこれなんよ……。


しかし、私の魔力量が異常に多い事には気づいたようで言葉を続けます。


「しかし……御息女様は魔力量が相当多いようです。さっき言った程度ではもしかすると役不足かもしれませんね……。魔力を常に外に排出し続ける魔法陣を描くのも1つの手です。ですが、その……」


「ん?なんだ?手段があるなら勿体ぶらずに使えば良いのではないか?」


「いえ…そのですね。魔力過多は何らかの原因で魔力が偏ってしまった状態なので、何とか乗り切ればしだいに正常になるはずです。それまで魔法陣でやり過ごす事もあるのですが……体から直接排出することになるので、肌に魔法陣を描かねばなりません。魔法陣自体も長くは持ちませんので、2週間に1度描き直さねばなりませんし……エリザ様だとまだ小さいので、表面積の広い背中に描くことになりますが、恥ずかしかったり、体に魔法陣を刻むこと自体あまり好しとされませんからね」


申し訳なさそうに肩を竦めながら問いかけました。


「どう……なさいますか?」



それを聞くと、お父様は黙り込んでしまいました。

娘の肌を人前に晒したくないとかあるんでしょうか?いや、私はまだ9歳なのでそれは無いか……

とすると、世間体的に体に魔法陣を描くのはそんなにも良くない事なんでしょうか?


「でも、背中ですし普段見えなく無いですか?」


そう尋ねるとカンナさんも頷いて賛同します。


「エリザ…様の魔力量は多分皆が思っているよりも相当多いです。魔法を使い続けるのも良いですけど、決定打に欠けます。一生残るものでも無いですし、私は良いと思いますよ」


「……確かにそうだな…。2週間くらい、しかも背中全体など誰も見ないだろうしな。頼む」


「分かりましたが、一応リスクもあります。魔力を排出し続ける特性故に、魔力が自然回復しません。魔力切れに陥ったらその時は無理やり陣を消さないと非常に危険です。それでも大丈夫ですか?」


「む?」


あー、もう。どうしてややこしくするかな。

かなり気持ち悪い気分な私からすると、さっさと直して欲しいです。

どのくらい排出するか分かりませんが、慢心とかではなくこんなにもあればそう魔力切れにはならないでしょう。


喋る気力もあまりないのでカンナさんを見やると、わかったというようにうなづいてくれました。


「多分ですが、そこも大丈夫です。エリザはそう魔力切れにならないでしょうし、私も魔法には心得があるので教えて頂ければ様子見くらいはできますよ?エリザ…様は今随分と苦しんでいるようですし、早いに越したことはありません」


それでもお父様は悩んでいましたが、私が全力で頷いているのを見て、許可してくださいました。


「では、早速作業に取り掛からせて貰いますね」


そう言い、彼は大きな旅行カバンのようなものから何枚かの紙と、青鈍色の棒とインクを取り出しました。

棒をインクの瓶につけると、先端に球状になったインク液の塊が浮いていました。どうやら毛がなくてもインクをそのまま筆先として使えるようです。

朦朧とする頭でその筆の様子を眺めていると、お父様が先生に呼びかけました。


「おい」


「はい?」


「変なことするなよ?」


「はっ?」


「お父様!」


すまんすまんと笑うお父様。私の苦しみを紛らわせようとした彼なりのユーモアなのでしょうか?

ですが、今は本当にそういうのは結構なんで。

先生も苦笑いですし……


とは言え人前で肌を露出するなど小学校のプール以来……いや、普通に病院に行った際聴診器を当てるために脱ぎますね。

それでも現在は花も恥じらう乙女ですから羞恥心は無きにしも非ず。

結論も出せないくらい思考が濁り、そもそも何を考えていたかよく分からなくなってきた時点で思考を辞めました。


背中ということなので、先生には背中を向けたまま上の服を脱ぎ、ベッドにうつ伏せになります。


少しばかり緊張しながら待っていると、ふと背中に冷たい線が引かれました。直接ものが触れている訳ではなく液体を垂らされるような感覚が背筋を伝い、くすぐったくてついつい身を捩りそうになります。

相当複雑な魔法陣でも描いているのか、はたまた私が緊張し過ぎているのか、だいぶ長い間そうしていたように思いました。


「……出来ました。これで大丈夫だと思います」


服を着てから、ありがとうございましたとお礼を言うと「また2週間後に様子を聞かせてね」と返されました。


確かにこれで解決って訳じゃありませんからね。

原因は不明ですが、どのくらいで治るのか不安です。2週間に1度で何回も様子を見るとなると、数ヶ月かかるのでしょうか。


もしそうなら、早い内に魔力を出し切ってしまって、後はこの魔法陣を再現出来たら完璧なのでは無いでしょうか。


幸いにもお父様は忙しく、私の魔法の練習風景を見る余裕はありません。

どんなに変な魔法を使っててもバレないでしょう。

とりあえず2週間で魔力を出し切ることと、魔法陣の再現。


小さな、本当に小さな目標が2つ出来ました。

最近更新日時がまばらになってきまして、申し訳ありません。これからこう言う時もままありますが、どうぞ生暖かい目で見守ってくださいませ…

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