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20ページ目・アメリアとの邂逅

そう言われて、初めて彼女の顔が見覚えのあるものだと気づきました。


赤いさらさらとしたロングヘアとエメラルド色の目がギラギラと光っています。


誕生会の時、隅に座らされていた私を、精巧な人形と勘違いしておままごとをやっていた少女です。

別段私はそれについて不快に思っていませんでしたが(といっても当時の私に感情は無かったんですけどね)記憶として思い出すと不思議な子だと思っていました。


子爵というと、確かうちより爵位は下でしたでしょうか。騎士達は顔を真っ青にしながら頭を下げます


「申し訳ございません!まさかロードラン侯爵令嬢とは思いもよらず、無礼を重ねてしまいました!皆、このような状況では警戒するしかなったのです。どうかその寛容なお心でお許しください」


「あ、いえ、大丈夫ですよ。むしろ警戒を疎かにしない姿は尊敬に値します。素晴らしいと思います」


そう聞くと、顔の表情を緩めましたが、すぐに申し訳なさそうに顔を顰めました。


「あの、一応確認のため、その紋章を近くで見せてもらってもよろしいでしょうか」


「ああ、そうですよね、偽物かも知れませんよね。どうぞ」


騎士達が3人とも近づいて、私の胸に下がっているロードランの紋章を見つめます。

視線が集まり、少し恥ずかしい気分になり「もうよろしいでしょうか」と聞くと、納得したように離れてくれました。


「ところで、あの、エリザ様はどうしてこんな所におひとりで?護衛や馬車も近くには見受けられませんが」


「はい、向こうに私の馬車が止めてあります。ここで馬車がトラブルを起こしているように見えたので、走ってまりました。私の護衛もそちらにいますので……」


先方の馬車を見やると御者は逃げ出し、車輪も壊れています。これでは動かすことは難しそうです。


「旅は道連れ世は情けと言いますし、私の乗ってきた馬車に乗っていきませんか?」


「よろしいのですか!願ってもない。誠に感謝申し上げます。アメリア様もそれで宜しいですか?」


アメリアと呼ばれた少女はふん!と鼻を鳴らし、私のお人形さんだもの当たり前でしょ、と言いました。



去り際、私は賊たちが気になりました。


「この方々は、縛ってどうするんですか?」


尋ねると、背の高い騎士が事も無げに言いました。


「えぇ、アレでしたら運ぶ余裕もございませんし放って起きます。直に魔物が集まり、アレらを処分してくれますよ」


ゾッとしました。まさに「犬の餌にでも…」ってやつですね。彼らは食うに困り盗賊等に身をやつしたのでは無いでしょうか。例えそうで無かったとしても、目の届く範囲で命が失われるのは苦しくなります。まして、スリープで直ぐに昏倒した人達です。その苦労は想像を絶するでしょう。私は彼らを木陰に引きづり、結界と少量の食料と手紙を起きました。果たして彼らに字が読めるかは分かりませんが…。手紙には「もしこれ以上罪を犯さずロードランの扉を叩いたならば傭兵として雇う」という旨を書きました。

それは、人の善性を信じたかっただけかもしれません。彼らに触った時、ざらついた肌とマメだらけの掌が彼らの生活を想像させました。貧しい者が心まで貧しくなるのは当然です。この事実がどうしようもなく悲しく感じるのです。

ハルメアの騎士達は私の行動を呆れた様な表情でしたが、手は出さずに見守ってくれていました。



◇◆◇◆


リーダーと思しき騎士さんは随分とお喋りでしたが、終始自嘲気味でした。

そりゃ貴族の護衛なのに、他の貴族の、しかも6歳の少女に助けられたとあっては面目丸潰れですからね。

普通は6歳って言ったら目の前のハルメア令嬢のような幼い言動を取りますし、ましてスリープの成功は信じられませんよね。

少し気味悪がられそうなので、次からは普通を装うことにしますかね。

ハルメア令嬢の言動を真似てみましょうか。


さて、私とその騎士が話している間、彼女はずっとムスッとしていました。

なにか機嫌を悪くするようなことを言ったでしょうか。笑いかけてあげると、いっそう眉を歪めます。

一体どうしたのでしょう。


ともかく、1人は気を失ったままですが他の騎士に背負われ、6人で元の馬車の所まで戻ってくると、申し訳なさそうな顔をしたサーシャさんの隣にカンナさんが仁王立ちしていました。


「あのねぇ、勝手に動かないでくれる?せめて私を起こしてからにしなさいよ。もしエリザに何かあって大目玉食らうのは私と、サーシャさんなんだからね」


「うぅ…ごめんなさい。気持ちよさそうに寝てましたし、急ぎでしたし、いち早く確認しに行きたかったので…」


さすがに、私もなんで1人で動いてしまったのかと反省します。

何を血迷ったかと言うような変な行動を取ってしまうのは前世からの癖です。死んでも治らなかったので大目に見て欲しいものです。正義感というよりは、好奇心が勝ったんです。許してください…。

ついてきた騎士達は、侯爵の娘たる私が一護衛に説教されているという光景に困惑しつつもフォローを入れてくれました。


「お話の途中失礼します。私達は盗賊団に襲われている最中、エリザ様に助けていただいた、ハルメア子爵の御息女とその護衛でございます。エリザ様は私達を助けたい一心で駆けつけてくださいました。どうかあまり叱ってやらないでください」


騎士さんナイスです!心の中でグッジョブとハンドサインを送ります。

カンナさんもそこまでは怒っていなかったのか、すぐ矛を収めてくれました。


「―――なるほど。大体は分かりました。つまり、王都まであなた達も一緒になるという事ですか。幸い、こちらは私とエリザ――様だけですので広さは何とかなると思います。御者さん、あなたもそれで大丈夫ですか?」


「はぁ…まぁ追加で料金を頂けるならそれでも構いません」


「分かった。払いましょう。お願いします」


騎士さんの方からカンナさんに先程のことを説明してもらいました。これまで彼らを乗せてきた御者さんには少し悪いですが、支払いはこちらの御者さんにされるそうです。

話している間、もしかしてと思い微動だにしていなかったら、ハルメア令嬢が寄ってきて私をつついてきました。


「あなた、人形なの?人形じゃないの?わたしのお人形のくせにあんなこと出来るなんて聞いてないわ。それに喋るなんて…なんなのよ!前まではなんにも喋らなかったのに!」


ジークというのは騎士4人のうちの誰かだろうか。

というか、やはり私の事を人形だと思っていたようで、それが実はちゃんと人間だったのが不服だったんでしょう。

誕生会は人が沢山いますが、そんな中会場の隅の私のところまで来るということはあまり人付き合いが苦手なのかもしれないと見当をつけたのです。


当たらずとも遠からずじゃないでしょうか。


不機嫌だった理由が分かれば少し安心します。

そういえば私はまだ彼女の名前を知りません。これを機に聞いてました。


「貴方のお名前は?」


突然話しかけられて驚いたのか、少女はビクッと肩を震わせて少し離れました。


「……アメリアよ」


「私はエリザです。よろしくね、アメリアさん」


にっこりと微笑みながら私も名乗り返すと、アメリアと名乗った少女は顔を赤くしながらも不機嫌そうに、ふん!と鼻を鳴らしました。



いつの間にか騎士さん達とカンナさんの方は話がついていたようで、微笑ましげにアメリアを見ていました。


「や、そういえばまだ名乗ってませんでしたね。私はジーク。この4人の代表です」


私とも話していたお喋りな騎士はジークと言い、アメリアの言葉から察するにこの中で1番腕がたつようです。


「俺はハロルドという。ジークに何かあった時の、副代表だ。」


「俺はシオンって言います。あ、後こいつはルートって言って、この中で唯一魔法を使えます。まぁ、真っ先に狙われちゃってなんにも出来ませんでしたけどね」


シオンという騎士が説明をしたのは、先程気を失っていた騎士のことでした。

まだ意識が戻らず、眠ったままですが、その息は安定しています。


「私はカンナという。一日だけだが、よろしく頼む。出来れば今晩の夜の番はそちらに頼めないだろうか」


流石に1週間も1人で夜の番をしてると昼夜逆転しそうだ、と笑いました。


騎士さん達も快く受け入れてくれます。


馬車に揺られながら、話し相手が増えたので談笑をします。

一気に馬車内は賑やかになります。


騎士さん達はカンナさんと話を弾ませ、時々私達の方に生暖かい視線を向けました。


貴族の娘だとはいえ子供なので、案外子供みたいな接し方をしているように思え、それも「お友達が来たなら自分たちは世話しなくてもいいかな」という雰囲気が出ています。

子供同士とはいえ、私の方が地位が上なのでもっと注意してやって欲しいところです。私は気にしませんが。


おかげで私はアメリアちゃんの話し相手をずっとしています。



「あなた、なんで今まで人形みたいにじっとしてたの」


「ふふ、実はねぇ…あれは私そっくりの人形なの!私の代わりにパーティに出てもらったのよ」


「えぇ!そんなことしてバレないなんて、なんていい腕の職人さんがいるのかしら!」


嘘を混ぜながらお話していても、すんなりと信じてしまうのでイタズラ心よりも罪悪感が積もってきます。


純新無垢な子供が、眩しい……


騎士達やサーシャさんは微笑ましくこちらを見ますが、カンナさんは悪戯そうにニヤついています。なんかムカついたので後で仕返しをしましょう。


「そんなだから私は友達が居ません。アメリアさんは友人はいますか?」


そう尋ねると先程までの明るい顔から、会った時のようなムスッとした顔になりました。


「ふん、あなたには私がいるでしょ!私には何人も友達はいらないわ。私に釣り合うのなんてそういないの。あなたは私のお人形だから特別なだけ」


「ふふふ、そうですか。アメリアさん、いつか私以外にも、一緒にいて気分の良い人ができると良いですね」


アメリアちゃんは自分を1つ上の段に置き、他者を見下しているようです。

いや、本当は上手く人に話しかけれない事に理由をつけているだけかもしれません。私もよくやりました。

(エリザ)は一切動かず、物も言わなかった人形のような状態だったから話しかける練習相手になったのでしょう。

友人が一人しかいなかった私がこんな事を言うのもなんですが、アメリアちゃんには私以外にも良き友人を作って欲しいところです。あ、いや…でも、私にだけ懐く子もそれはそれで…なんでもないです。


「うー、ジークみたいなこと言わないで!あなたは私のお人形さんなのよ!」


アメリアちゃんの手が私の両頬を引っ張ります。

私は無抵抗のままそれを受け入れますが、私を踏み台にアメリアちゃんには友人を作ってもらおうと勝手にお節介心を滾らせました。


少しずつ慣れていけば良いのです。

そんな温かな気持ちになりました。



夕方になり、馬車を、止めて野営の準備をします。


いつも通りカンナさんがお風呂と明かりと暖を確保すると、騎士さん達は随分と驚きました。

今までやってきた馬車旅でも1番快適だと微笑みをこぼしています。


ようやく目を覚ましたルートさんがカンナさんに魔法について問い詰めてました。

おかげでカンナさんは結局その晩もずっと起きていたようで、翌朝彼女の目の下に少しくまができていました。

少し可哀想に思いましたが、日頃の恨みを込めてふっと嘲笑うと「性格悪いなぁ、君は」と呆れられました。


朝食を終え、馬車を動かす直前にルートさんが魔力で鳥を創り何やら手紙を持たせて飛ばしました。


「何をしていたのですか?というか、今の鳥を創るのってどーするのですか!」


「ん?あぁ、エリザ様、おはようございます。賊に襲われ馬車が壊れた事やロードラン侯爵の馬車に同席することになった事を子爵様に伝えねばならなくてですね。こうやって魔法伝書鳩を飛ばしていたのです。簡単な命令しか出来ませんし、少々難しいですが教えましょうか?」


「はい!」




それから小さな鼠などをイメージして、ルートさんに魔法で創る動物について教えてもらいました。


カンナさんもその魔法を知らなかったらしく、私とカンナさんで説明を聞いていると、あっという間に時間が過ぎていきました。



昼前になった頃、ようやく王都の城壁が見えてきました。


遠くからでもくっきりと見える灰色の壁は、随分と大きく強固である事が見て取れます。


その堅固な外装とは裏腹に、中では華やかで豊かな街並みが並んでいるのですから今からワクワクが抑えきれません。


まさに修学旅行を楽しむように心を弾ませ、近づいてくる城壁を眺めました。


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