18ページ目・春、王都へ
春が近づいて来る頃には私ももうすっかり元気になり、もう上級魔法というものもかなり習得出来ていました。
私は、慣れと感覚派なので言い表すのは苦手ですが、毎日使っている上で上達していってるのが自分でも分かります。
最近、「身体強化」や「武技」というものについて教わり始めました。
本来なら最初に習うべきものだそうですが、カンナさんは考えがあって後回しにしたと言います。
「身体能力を異常なまでに伸ばす『身体強化』や、魔法ではないが金属のように硬い敵を切り裂いたり、遠くの物を見つけたり、気配を察知したりする「武技」というものがある。というか、身体強化は武技の一部らしい。これは魔法の使えない者達がよく使うものだが、実は魔法によく似ている。というのも、体内の魔力を使うからだ」
彼女の説明によると、武技とは魔力を使い超人地味た技を使えるようになるものだそうだ。身体強化も、身体中の魔力を血のように循環させることで、言わば擬似的に魔物のような身体能力になるという。
魔物は生まれながらに血液中に魔力が流れているそうで、常に身体強化がかかった野生動物という雰囲気であった。話を聞く限りでは。
さて、武技が魔法とは別に見られるのには理由がある。武技こそが、いわゆる無属性の魔法なのだそうだ。だが、他の魔法のように無いものを生み出したり、シンボルがある訳では無い。何となく、発動する。もしくは極められた型が魔力を帯び、技としての固定化される。そんな感じのもので、ここだけの話武技が無属性魔法だと気づいている者は極めて少ないという。
そして、気づいた者はわざわざ自分の発見を人に知らしめたくなく、独り占めするのだとか。
ですが、共通点もいくらかあります。
魔法で言う詠唱にあたるものが、武技の技名だそうです。技名を叫ぶことで体に染み付いた動きと共に武技を発動させやすくなるらしいです。
「故に、実の所魔法の感覚を磨いてから武技に移った方がやりやすいと思うのだ。それに、身体強化に頼ってばかりでは、いざと言う時に何も出来なくなる」
なるほど、これでお父様の怪力やカンナさんの見えないくらい素早い斬撃に納得がいきました。
そして、驚くべきことに気づきました。
「マイヤーさんって身体強化してませんでしたよね?」
「そうだね、もし、彼が子供に身体強化を使って勝負を挑むような人間なら、エリザは負けていたかもね。さすがにそんな大人気ないことはしないけどね、普通」
そう。つまりはマイヤーさんは本気だったけど、禁じ手が残っていたと言うことでした。彼が身体強化したら私よりも強くなる。つまりは私が体感したよりもずっとマイヤーさんは強かっのでしょう。
なるほど、元副団長がこんなにあっさり小娘に負けるわけないですからね。
武技とは魔力そのものに干渉して効果を発現するので、魔法のような明確なイメージが湧きづらいそうです。
ポピュラーなものは常識として、技名だけで発動可能だそうですが、個人で作ったようなマイナーで複雑な技は継承が難しいそうです。
代表的なのが、素早く小さな斬撃を飛ばす「飛燕斬」や、武器の切れ味を増す「スラッシュ」などである。有名である上にイメージしやすく、応用もきく。最もポピュラーな武技である。
初めは飛燕斬と身体強化の2つを極めることにしました。
他にも魔力の波長に干渉して相手の強さが分かるとか、思念だけで会話が出来るものもあるそうですが、難しそうなのでまずは簡単なものから。
体の魔力を循環されているのを、更に早く動くように意識します。すると、驚く程に激しく加速していき、体の中でカーレースでもしていそうな勢いを感じました。
「お、出来たかな?ちょっとこれを強く握ってみて」
そう言い、カンナさんが差し出したのは近くにころがっていた石でした。
言われた通り力を込めて握ると、なんと石が砕け散りました。
「え、なにこれ…」
化け物じゃないか……と自分の力に引いているとカンナさんは「そんなもんだよ」と笑っていました。
「じゃあ、これは物を壊さない程度で後は自主練習しておいてね。飛燕斬いこうか」
「はーい」
ということで、イメージとしては振った剣の先から一直線に飛んで行くのだそうですが……刃が飛んでくのかしら?斬撃が飛ぶってどういうこと?
おおよそ現代日本では原理の分からぬ物で、結局その日は発現には至りませんでした。
「私もそれは苦手だったなぁ」
とカンナさんもぼやいていました。
まぁ、焦るものではありません。今は時間がたっぷりあります。何度も繰り返して少しずつ身につけていけばいいじゃありませんか。
結局見本も見せてもらいながら、飛燕斬が成功したのは3日目のことでした。
ひゅんと素早く空を斬るような音と共に空気が歪み、遠くにあった木の幹に切り傷がつきました。
「おー!やりましたよ!」
嬉しくてその場で何回か跳ねていますと、カンナさんも頷きながら褒めてくれました。
「少し遅かったけど、まぁ良し。次は、これを何度も繰り返して威力を調節したり、アレンジしてみたりしようか。例えば――」
そう言い、カンナさんは刀を鞘から振り抜きました。
すると、先程の透明な斬撃ではなく、雷を纏ったものが「の」の字に辺りの草を切り払いながら地面を抉り、消えていきました。
「こうやって、軌道を曲げたり、魔法を纏わせたりできる」
凄い!
自然と私は拍手をしていました。
カンナさんは得意げに胸を張りましたが「まぁ練習したらエリザも出来ると思うよ」と言いました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、武技の練習をし始めて数週間後、年の終わりが近づいてきました。
この世界では1月(にあたる月)は春先から始まります。
そして、奇妙な事に年齢の数え方が、1月になったら誕生日は関係なく1つ歳をとるというものでした。
つまりは、7歳が近づいてきたのです。
貴族社会では、王都で誕生パーティが開かれます。1年に1度、5歳〜9歳の同年代の子供が集まります。
これは、10歳になると学園に通わなくては行けない子供達の事前の顔合わせの場所、という事もあるそうです。
私エリザの記憶にも5歳と6歳の時の記憶がありますが、当時の私は意識がなく、微動だにしていなかったので隅の椅子に座らされていました。
だからあんまりどんな空気なのか知らないのです。
私を人形に見立ててままごとを楽しむ女の子が集まってきたりもしていましたが。
初めての社交の場。緊張しないわけがありません。
王都へは馬車で1週間程かかるので、少し早めに着くために今日から旅支度を始めます。
動きやすいお気に入りのワンピースを何着かと、当日で着ることになる、お洒落な青色のドレスをカバンに詰め込みます。
その他、櫛やらネックレスやら、変わると寝られないので枕も持っていくことにしました。
気分はさながら修学旅行。
友達もいなかった私的には、1人でも修学旅行気分を味わえるのです。
とはいえ今回はサーシャさんや護衛としてカンナさんがついてくるそうですので、いつも以上に楽しめそうです。
明日はいよいよ馬車での旅が始まります。ロードラン領を出るのは(私の気分的に)初めてで、とてもワクワクしています。
うまく眠れるか心配になりながらも布団に潜り込みました。
◇◆◇◆
小鳥のさえずりが遠くから聞こえ、麗らかな陽光が朝の来たことを告げます。
なんと素晴らしい朝でしょう!
早朝の冷ややかな空気を吸い込み、両腕を上に突き出してうんと背伸びをしました。
眠っていた体が縦に伸ばされ、背筋をピリピリとした気持ちよさが抜けていきます。力を抜くと落ち着いた気分が戻ってきます。
とはいえ布団の外は少し肌寒く、床に足の裏をつけると少しひんやりとしています。
顔を洗うと指先は冷たくなったので、息をふきかけて温めました。
初めての馬車旅。動きやすいように、丈が短めで質素なデザインの黄色いドレスを着ました。
帽子はあまり好きじゃないのでまだ被りません。
お父様と食事を終え、3週間ほど別れる事を互いに惜しみました。
カンナさんはお父様から「娘を任せたぞ」と強く言い聞かされていました。
カンナさんと屋敷の人数人とお父様を連れ、街の外れにある馬車の乗り場までやって来ました。
その場で、サーシャさんとカンナさんと私は馬車に乗り込み、他の人は別れました。
「行ってきま〜す!」
馬車の窓から身を乗り出し大きくてを振るとお父様だけでなく屋敷の使用人さん達も手を振り返してくれました。
馬車の中に戻ると「慕われてるねぇ」とカンナさんがニヤついていました。
「ふふん、あたり前田のクラッカーよ」
等と胸を反らしてドヤ顔を決めてちましたが、引き気味に「あ、はい」と言われて心に深く傷を負いました。
いつか返してやりますよ。
街からしばらく離れると、豊かな自然が目に入ってきます。
地平線が見えようかというくらいに草原が広がり、遠くにちらほらと森のようなものが見えたり、近くを流れる川の綺麗な事と言ったら実に風光明媚でした。
馬車は揺れが結構あり、座るところも固いので乗り心地は悪かったのですが、外の風景を見ているとそれすらも忘れられました。




