17ページ目・冬の日
冬季鬱、等という言葉があったり、雨季に気分が沈む、なんて事象があったりします。
理由は単純明快、太陽の光を浴びていないから。
太陽は生命にとって大切なものだなと思う反面、理由が分かっていても沈む気分はどうしようもないと感じました。
正直太陽が無くなったら人は狂ってしまい、まともに生きれないという話は話半分に嘘だと思っていました。
けれど、実際に体感すると、なるほどこれは死活問題だと思います。
窓の外は変わらずしんしんと雪が降り積もっています。それは薄ぼんやりとしています。こんなので気持ち悪くなってしまうのは、私ばかりでしょうか。カンナさんもサーシャさんもピンピンしています。
カンナさんから魔法を教えてもらっている時、ある事を思いつきました。
「はぁ……あの、火球出せるなら、火力最大にして圧縮した擬似的なプチ太陽みたいなもの、作れませんか?又は雲に風穴を開けるか」
「雲に風穴を開けるのはともかく、プチ太陽かぁ…昔似たようなことしてた人を見たことあるし、作れると思うが……辺り一帯焼け野原になるかもよ?」
「ですよねぇ。雪は好きなのですが、如何せん日光を浴びていないと気分が嫌に落ち込んで……」
「あー…そういう事だったか……ロウダ様の許しがあれば天高くに作ってみるって実験は出来るかもしれないが……」
カンナさんも日光を浴びたいのだろうか。作りたいとは思っていたようです。
最近は寒いので火の魔法の練習ばかりしていました。
火というもの自体は、質量がある訳では無かったので私は苦手でしたが、最近は上達が著しいように思われました。
暖が欲しいという渇望が魔法を発動させているだけかもしれませんが。
授業が終わり、お父様に大魔法(?)の行使の許可を取りに行きます。
「―――という事で、エリザ様の気分が優れないのは日光を浴びていないせいであり、太陽を疑似的に再現できないだろうかと言われたのでその試験の許可を得ようと。知ってのとおり、太陽はあんなに空高くにあるのにも関わらず、私達を温めます。つまり、近くに行けば想像もつかぬほど高温になっています。小さいとはいえそれを再現するのでしたら危険かもしれぬと思い、どこかそれを行って良い場所を探しています」
カンナさんが説明するとお父様が唸りました。デメリットだけ伏せておけば良かったのでは?と狡い考えが浮かびましたが、嘘をつけないのがカンナさんなのでしょう。
「……どれほど危険かは知らんが、庭で行ったらダメなのか?結構な広さがある上に周りへの被害と言ったらせいぜい木や草が燃えるくらいだろう。庭師には悪いがそこで行ってみるのはどうだろうか」
思えばカンナさんも随分お父様の信頼を勝ち得たものです。まさかこんなにあっさり承諾してくれるとは思いませんでした。
「だが、俺も同行させてもらう」
とはいえ流石にそんな危険な事に娘とカンナさんだけでは気が気じゃないでしょうね。
手袋と耳あてをつけて、皮の厚いブーツを履きました。マフラーはありませんでしたが、上着が首元まで布のある作りでしたので、まさに完全武装です。
冬将軍でも何でもかかって来やがれー!
そう心の中で叫びながら外へ踏み出しました。
外の空気は、現代のような排気ガスの臭いも無ければ風を塞ぐビルもありませんでした。まして、人混みの排出するCO2などはとても少ないのです。
すなわち、思っていたよりも寒かったのです。
蝶よ花よと育てられた私の柔肌には耐えられません。
カンナさんは何か魔法でも使っているのか、いつもの着物の上にちゃんちゃんこを羽織っているだけです。さすがにブーツは履いているようですが。
私が身を縮めて震えていると、お父様が抱き上げてくれました。半年ぶりでしょうか。久しぶりに抱き上げられて少し嬉しくなります。
「ありがとうございます」
にっと微笑むと、お父様も白い息を吐きながら笑っていました。
3人で庭の真ん中まで来ると立ち止まりました。
「この辺だろうか。その、擬似太陽?はどう言ったものだ?太陽を作ろうと挑戦した魔導士の話はたくさん聞くが、成功したとかの文献は殆どないと聞いた。出来るのか?」
「え、まぁ、多分ですが。やってみなきゃですねぇ。昔、大陸の西の方で似たようなの使ってる人が居たんですよ。少しだけ教えて貰って、まぁ真似ならある程度は。じゃ、いきます」
とその場で「一発ギャグ言います」みたいな雰囲気のまま魔法を発動しました。
お父様の話を聞くにだいぶ凄い領域の魔法らしいのですが、大丈夫でしょうか。
カンナさんが斜め上に手を掲げ、目を閉じています。
胸がゆっくりと上下していて、深く呼吸をしているのが分かりました。
集中が終わると、珍しくカンナさんは詠唱を始めました。聞き取れそうで何の言語か掴めないようなそんな音でした。
しばらくすると降り積もった雪が溶け、水と合わさり氷っぽくなっていき、カンナさんの背中からうっすらと影が伸びている事に気づきました。
赤、と言うよりは黄に近い強烈な輝きを放つビー玉くらいの球が頭上高くに浮かんでいます。
それ自体は小さいですが、照りつける熱と光はまさに地上の太陽と呼ぶに相応しく、私の凍えた体を解していきました。
上着を脱いで、腕まくりをしてみたりして皮膚でその光を感じると、嗚呼、何だか生き返るような、活力が湧いてきます。
日向ぼっこは前世より好きな行為だったので、心の内が満たされていくようでした。
「こりゃ凄いな……俺は魔法には疎いが、魔導士が見たら狂ったように問い詰められそうだな。」
「はは、そりゃ勘弁ですね」
「なんかこう……思ったよりも小さいんだなてっきりイグニスボールくらいあるのかと思ってた」
確かに太陽の再現となれば、ファイアボールの最上位版魔法であるイグニスボールくらいはありそうと考えるのは普通ですかね。
イグニスボールはだいたい直径2mくらいなので、そんなものをこの威力で作ったらロードラン領が消し飛びそうだなぁ……と思います。
「まぁ、このサイズだから威力を抑えられているのですがね」
カンナさんの言葉にお父様は納得しているようです。
「ところでこれ、いつまで光っているのですか?」
しまった、というような顔をしてから、カンナさんはおどけて答えました。
「………超新星爆発まで?」
結局その光は夜になっても庭先で昼を作り出していましたが、翌朝になると普通に燃え尽きていました。
炎系の魔法は、基本的に可燃物があればずっと燃えています。ボール系統は少し違うくて、自分の魔力を媒体に燃やしているので、消費した魔力を燃やしきるまで残ります。
果たしてカンナさんが「サンライズ」と名付けたあの魔法はどちらを元にしていたのでしょうか。
気になるところではありますが、あの光が私の部屋まで届いていたので、昨晩は上手く寝つけず、今はとても眠くてそれどころでありませんでした。
日中、カンナさんとの打ち合いと魔法の授業が終わった後に尋ねました。
「そういえば昨日、珍しく詠唱してましたけど、やはり難しいものなんですか?」
「そうだなぁ…アレは単に火力が高くても作れないんだ。火の魔法であるんだが、なんというか、光の魔法でもあるようだし、私は詳しい概念を理解していない。ロードランから見て南西の森に賢者と呼ばれる人が居てね。日本に帰る手がかりを探して訪ねた時に、情報が得られなかった代わりに色々教えて貰ってね。私の魔法は殆どその人から教わったんだよ」
「へぇ!カンナさんって多分凄いからきっとその人も凄い人なんだろなぁ」
「こらこら、多分ってなんだ。多分って。でもまぁ実際、私はまだ何も出来てないし凄かないよ」
「そういえば、カンナさんって今なにかしたい事とかってあります?」
聞くと、カンナさんは鳩が豆鉄砲でも受けたようなあっけらかんとした顔をして、少しして顔を赤らめました。
「ま、まぁあるにはあるさ。」
歯切れの悪いその言葉に、つい口角が上がります。面白そうな話の予感。
「え〜なんですか〜?」
突っ込むとカンナさんは誤魔化すようにして「まだ今はわかんないから、ね」と言って自室へと引っ込んでいきました。残念。




