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16ページ目・レッツクッキング

早くも問題が発生しました。


「その……なんだ?カンナさん、あんた、じゃがいもの皮…剥けるのか?」


「あーーー……」


本人もすっかり忘れていたようで、凄く残念そうに左袖を見つめました。

皮剥きもですが、形を整えるのも、みじん切りも難しそうです…

揚げる事は出来そうですが……その時はカンナさんに任せようと思います。


「では、料理長と私が」


そう言い、包丁を手に取ると料理長が慌てました。


「エリザ様!?危険ですよ!もしあなたに何かあったら絞められるのは私ですからね!?」


確かに料理長の言うことは正しいです。ですが。


「2人でやった方が早いですし、料理長に任せっきりで何が『私の手料理』でしょう」


にっこりと笑顔を作り「ですが…」と呟く料理長を威圧します。


「最悪、私が言い出したことだから私のせいにすれば良いさ」


とカンナさんが言って、料理長が折れてくれました。


包丁の付け根で芽をえぐり出して、じゃがいもを回しながら薄皮を剥いていきます。


久しぶりだということもあり、刃物に若干の恐怖を覚えましたが、難なく全て剥き終えました。


「あ、あの?エリザ様?こういうのって初めてですよね?皮剥きだけでなく芽のことも知ってるようですし、やけに手際が…」


「初めてです」


にっこりと笑顔を作り、有無を言わせず次の工程に移ります。


少量塩を入れて茹でます。

タイマーが無いので、こればかりは体感時間ですが、カンナさんに様子を見てもらうことにしました。


その間に玉ねぎをみじん切りにするのですが、目が痛くなるのでこれは料理長に任せました。

料理長、ありがとう。


玉ねぎを塩と砂糖、バター、ひき肉と一緒に炒めます。


じゃがいもが茹で上がり、私では力が足りないので料理長に潰して貰います。

流石にマッシャーはないだろうと高を括っていましたが、料理長はマッシャーのような調理器具を使っています。

木製でしたが、この世界で何が発達して何が発達していないのか分からなくなりました。



さて、いい感じに炒める事が出来たので、それを潰したじゃがいもと混ぜます。


手が油だらけになります。料理長も顔を顰めています。


これだけだと、まだ茹でたじゃがいもと炒めた肉と玉ねぎの練り物ですからね。


形を整えている間にカンナさんに油を温めて貰います。


小麦粉……正確には小麦ではない植物のものらしいですが…それを全体にまぶし、溶き卵に絡め、パン粉を表面につけます。


「これを、カンナさんが温めてる油に入れるのですが、油が飛んじゃうかもしれませんので、気をつけてくださいね」


「あぁ、なら俺がやろう」


「ありがとうございます」


個人的に最難関だと思っていたので、その申し出は助かりました。多分揚げ物を作る上で、油が跳ねるというところが1番怖いところだと思います。少なくとも私は。

初めて火を使う料理を作る時に火が怖いというアレですね。


「炒め物をする時よりも派手に飛ぶので注意してくださいね」


と声をかけ、私は手を洗う事にしました。

ハンドソープはなく、硬い石鹸のような物がありましたが、流石は油汚れ。なかなか落ちてくれませんでした。


洗っている最中、ある事に気が付きました。



「あれ?菜箸ってありますか?」


「あ、いや、ないのだが…」


帰ってきたのはカンナさんの声でした。


ぱっぱと手を払って水を切り、カンナさんの方に駆けつけると、短い普通の箸でコロッケをすくい上げています。


「え、ちょ!?それは…」


「あ、一応しっかり洗った、マイ箸だ。まぁ、見ての通りとても危険だが」


油がぽつぽつと跳ねている、その僅か上をカンナさんの指が動きます。

料理長も目を開き、心配そうに見守っています。


「安心してくれ、ほら、私は魔法の先生だぞ?防御魔法で手を覆っている」


半笑いになりながら見つめる、彼女の手は明らかに震えていました。

安全でも、怖いですよね。気分の問題ですから。


料理長を見やると、呆れたように引きつった笑みを浮かべていました。


最後に跳ねた油が手にあたるというハプニングがありましたが、カンナさんの無駄に強力な防御魔法で防がれていました。


出来たコロッケをお皿に盛り付け、完成!


そのうちの3つを別の皿に取り分けて試食会をします。




「熱いから気をつけるんだよ」


「はい、あふいへふがおいひいです」


「こらこら食べながら喋るんじゃないよ」



むふふーと笑いながら頬張ると、コロッケは噛む度ザクザクといい音をたてます。

久しぶりに食べたコロッケは、自分で作ったという事もあり、とても美味しく出来上がっていました。

カンナさんも満足そうに食べていました。


「どうでしょうか?」


料理長を見ると、一口食べては何か思案し、また一口食べては唸っています。


「いや、驚いた。あんなねちゃねちゃしたものが、パン粉を付けて油に入れるだけでこんな食感になるなんてな……美味い。それに、エリザ様の手際の良さには驚かされました。料理人見習いも顔負けですよ。レシピはどこで知ったのですか?」


とりあえず大成功と言えましょう。ですがレシピについては、言えませんね。というか、信じてもらえるかも分かりませんし。


「ですから、私とカンナさんの秘密のレシピですよ〜」


私は人差し指を口の前に持ってきてはにかみました。

料理長さんは残念そうに肩を落としましたが、この調理方法を軸に色んな料理も作れるのではと直ぐに立ち直りました。


「カンナさんとエリザ様は他にもこんな料理を知っていたりするのですか?」


その目は研究者が研究対象を見つけた時のようにギラギラと輝いています。


こくりとカンナさんが頷きました。


「そうか。こんな料理たくさん作れるなら俺の立場は危ういな」


料理長がカラカラと笑いました。


「いえいえ、作り方知ってても材料揃えたり、上手に作ったりは出来ません。長年の勘とか、細やかな技術とか必要ですからね。私は料理長の作ってくれるご飯、美味しくてとっても好きですよ?いつもありがとうございます」


少し頭を下げ、お礼を言うと料理長は少し顔を顰め、「ぉ、おう。ありがとうございます」とぎこちなくに答えました。


その時、彼はどういったことを考えていたのでしょうか。

料理人としてのプライドを逆撫でしてしまったのでしょうか?

なぜだか無性に申し訳ない気分になりましたが雰囲気を崩す訳にもいかず、そのまま流しました。


正直なところ、気になりましたが、今はお父様がなんと言うかの方が気になっています。

そろそろ夕飯の時間ですし、ドキドキしてきました。




夕食の時間、お父様はお皿の上に置かれた奇妙な丸い食べ物を見つめていた。

それを見た料理長がお父様に耳打ちをします。


「先刻、エリザ様とカンナ殿が厨房へ参られました。その際、是非ロウダ様の為に手料理を作りたいと申されこのコロッケという料理を作られました」


「……エリザが作ったのか?」


お父様は驚いたように顔を上げました。

そりゃあ、誰からも料理を習っていない者がこんなもの作れたらちょっと引きますよね。

「えへへ」と笑って誤魔化そうとしましたが、いつの間にかお父様の親バカ化が進んでおり、杞憂だったようです。


「美味しいじゃないか!他の貴族の祝宴会でもこれ程のものはなかなか食べれない。凄いな。流石我が娘だ!」


そう言い、私の頭を掻き回しました。

大袈裟だなぁと思いながらも、ニカッと笑うお父様の顔を見ていると、体の芯から温まるような感覚が広がっていきました。


「わ、私も参加したんですからね!」


と何故かカンナさんも便乗してきました。それには流石のお父様も「お、おう?ありがとな?」と困惑していました。

一応感謝の言葉を吐かせたカンナさんはドヤ顔で胸を張っていました。

まぁ、参加は…参加ですしね。助かったところもあるので目を瞑りましょう。



ついでに料理長と席に着かせ、今晩は4人で夕食を食べました。料理長が少し居心地悪そうにしていましたが、食べ終わる頃には柔らかい表情を浮かべるようになっていました。


「ご馳走様でした」


私とカンナだけですが、手を合わせ食後の文句を言ってみました。


「なんだ?それは」


「カンナさんの故郷の文化で、食前だけでなく食後にも感謝を捧げる行為なんですって」


そう言葉を濁してみました。

この世界は食前に1回、感謝の念を黙祷するだけです。


言葉に出して、しかも食後にも感謝を捧げるのはここいらじゃ珍しいのでしょう。

ですが私としては「ご馳走様でした」を言わないとむしろ気分が悪いような感じです。


カンナさんが横にいると「カンナさんが言ってた」と言い訳できるので楽ですね。





食後、料理長やカンナさんとも談笑をし、部屋に戻り、ベッドに潜り込みます。

寒い日のベッドは格別で、しっかりと羽毛の詰まった掛け布団があるのも幸せです。

あの日から今日まで、どこかゲームのキャラを育成しているみたいに私エリザを鍛えてきましたが、体に積もる疲労や筋肉痛は本物で、ゲームのような虚無感がありませんでした。

今日も充実した一日だったと眠りにつけるのです。


時々、これはそういう夢を見ているのではないかと疑う時があります。

家に帰って、塾に行って、深夜に帰ってきてから宿題をこなし、30分の読書タイムを終えて、寝るまでゲームをする。そんな体に悪い生活の果てに見た夢の中ではなかろうか。

そんな気がしてしまう。


車もなく街灯もない。街の明かりも届かぬこの部屋は、ランプを消せば真の暗闇が広がっていく。

天井を見上げたが、そこにあるのはただの黒。

いつしかそこから一筋の光が指し、気がつくと目覚まし時計が不快な音をたて、学校へ行く準備をしなくてはいけないのではないか。

そんな妄想をしながら眠りについた。


今晩は、こんな現実から逃げてきたような生活をしていて大丈夫なのか、こんな堕落した自分のままで大丈夫か、私の同級生達は立派な大人になっているだろうか、そんな焦燥がふと込み上げてきて、気分が悪くなりました。

その事を考えているうちに何だか涙腺が緩み、息が荒くなる。


「ごめんなさい」


何に対してか分からないが、そう言葉が漏れた。

一体自分は何しているんだろう。今や関係ない話前世では無いか。


それでも、嗚咽が込み上げてきて、なぜだか上手く眠れませんでした。


翌朝、涙の後と眠そうな私の顔を見てお父様とカンナさんが心配してくれましたが、何だかまた申し訳ない気分になっていきました。


それは、雪が1週間連続で降り続いた朝でした。


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