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11ページ目・剣術指南役マイヤー

魔法の練習をする上で、1番大事なのはイメージだそうです。出来るならばその過程までイメージすると、魔法の完成度は格段に上がると言います。


「1番わかりやすい例は、高難易度魔法『植物魔法』だ。魔法はその人にとって身近なものを発動するのが一般的。雪国の人々は水――特に氷魔法が得意で、岩山をねぐらにする民族は土魔法。風を崇める遊牧民族なら風魔法が得意だ。だが、植物となると実は世間の関心が低い。それに、知らないうちに育ってるもんだから過程がイマイチ分からない者が多く、使えるものは少ない。暇な才能ある魔法使いが蕾から花を開かせる、程度はたまに聞くし、花屋の娘が枯れかけた花を治したりするとかもまれに聞く。だが、苗木から大木まで成長させるような植物魔法は、それこそエルフくらいしかいない」


「エルフ、ですか?」


エルフ。ゲームだと耳がとがってて森にいるようなイメージが定着している。弓や魔法が得意というイメージあります。

そりゃ、ロードラン領ですら獣人もいたのですからエルフなんかもいるだろうけど、何だか現実味のないような感覚を覚えました。


「エルフってのは、森や樹上の民だ。木と共に過ごし、木と共に死ぬ。寿命が非常に長く、それこそ木と同じくらい長生きするという。そんな彼らが植物魔法が得意なのは、植物の成長の過程を知っているからだ。花を咲かせるのと大木を生やすのは、他の魔法に比べると……火球をぶつけて火傷を負わすのと魔物を燃やし尽くすくらい違う」


「でもね」カンナさんは話を続ける。


「私も出来るんだけど難しい割に効果が無い。木が生えました。だから?っていう魔法で、エルフの中でも術者が減ってきているそうだ」


そう言うとカンナさんの足元の草がぐんぐんと背をのばし、膝に届いたところで満足したように枯れていきました。

そして、下から新芽が顔を出し、元の背丈まで成長をしていきます。

青々とした元通りの芝生が戻ってきました。


「………これは…確かにだから何だって魔法ですね」


「私もそう思う。なんでこんな魔法使えるんだろって我ながら思う。一応何か使い方を模索しているのだが、私の硬い頭ではなんとも出来ん」


と、整った眉を八の字に曲げました。


庭師とかなら…随分と助かりそうな魔法ですね、と思ったが魔法の才能があるなら他の魔法を覚えた方がよっぽど注目されるだろう。

何とも微妙な間があってから、練習を再開しました。



水を出す時は、川の湧き水をイメージすると、だいぶ簡単に出来ました。飲んでも大丈夫みたいです。

無から有が生まれるのか?魔法で発生した物体は果たしてそこに存在するのだろうか。そう思いましたが、カンナさんは「神の御力の一部だから」とゴリ押してきました。

神様、人間に権限を与えすぎでは……


そんな調子でとりあえず全属性の魔法を使ってみて、下級魔法を何度も繰り返し、感覚をつけていきます。


「この調子なら4年もあれば大丈夫か」


カンナさんは呟きました。4年後?何かあったでしょうか。


それからは毎日少しずつ、ですが確実に手応えを感じつつ魔法を習得していきました。

中級魔法もあらかた発動できるようになった頃、ようやく剣の講師がロードランに着きました。

季節は夏の盛りになり、セミこそ居ませんがどこか騒がしい虫の声と、領の端に行くとハッキリとした夏空に草原の緑が地平線を作っているが印象的でした。


さて、剣術指南役はマイヤーさんという、爽やかな男性でした。彫りの深い整った顔立ちと、王国騎士団の元副団長という何ともモテそうな人です。

まぁ、私の感覚でいうと、彫りの深い顔は苦手なのであんまりトキメキはしませんが。

客間で待っていたマイヤーさんは、私達が入るなり顔を明るくし、真っ先にお父様に挨拶をしました。



「ロウダ卿、お久しぶりです!6年ぶりでございますね。あれから噂は聞いておりましたが、私がこうして呼ばれたということは、御息女はお元気なのですね!」


「あぁ、ありがとう。すまないね、わざわざ来てもらって」


お父様を見るマイヤーさんの目は、物語の英雄に憧れる少年のように輝いていました。


「いえ、命の恩人であり、ロードランの英雄の御息女の剣術指南役を任されるとは我が人生でも一二を争う誉れ!喜んで馳せ参じました!」


後で聞いたのですが、マイヤーさんもグラウンドドラゴン討伐戦に参加しており、危険なところをお父様に庇ってもらった事があるそうです。

どおりで、テンションが高めなんですね。

マイヤーさん自身、物語に出てきそうな薄い綺麗な金髪に、海の煌めきを思わせるような碧眼です。

その目を更に輝かせてお父様を見るので、とてもキラキラしていてもはや鬱陶しいくらい眩しいというか、お父様もたじたじです。


彼は王国騎士団副団長という事もあり、正統な王国の剣術を教えてくれました。

カンナさんやお父様よりも教え方が丁寧で、何より型を大切にしておりました。

ですからカンナさんから教わった剣術の癖が気になったり、私の使う刀について眉を顰めました。

確かに彼の剣筋は美しく、相手との読み合いを得意としていました。

まさに騎士団副団長を担うに相応しい人物であります。


ですが…正直カンナさんやお父様に比べると、正直だいぶ弱くて拍子抜けしました。



マイヤーさんが来てから1週間後、模擬戦をする事になりました。

お父様だけでなく、何故かカンナさんも見に来て「マイヤーは本気出さねぇと負けるかもよ?」と煽り立てます。

何を言ってるんでしょうか。副団長ですよ?グラウンドドラゴン討伐戦にも赴いた精鋭ですよね?

お父様に煽られたこともあり「ほう、それ程ですか」等と本気になっています。

あなたも大人気ないなぁ…手を抜かない精神は立派ですが、こちとら6歳ですよ?いや、そろそろ7歳ですか。



さて、マイヤーさんと私は向かい合い、お父様の合図を待ちます。

マイヤーさんはしっかり私の刀を見つめ、私もマイヤーさんの長剣を見据えます。

もちろん2本とも刃の潰した木剣です。


「始め!」


お父様の声が響きましたが、両者とも動きません。

マイヤーさんは仮にも騎士。どちらかと言うと守りや迎撃が得意なようです。

とはいえ、こちらも攻めるには力不足な気がします。

私は小さいのでマイヤーさんも腰を深く落として構えています。

このままでジリ貧ですので、こちらから仕掛けることにしました。


えいやとわざとらしく刀を振りかぶります。

マイヤーさんの目に困惑と余裕と疑念の色が見受けられます。

マイヤーさんは素早く剣を横薙に、私の刀に叩きつけようとしました。マイヤーさんは、敵の得物を弾いて身を守り、軸を崩した時に攻めるような戦い方が得意だそうです。

ならわざわざ弾かれるまでもないです。

剣が十字に交わった時、そのまま力を抜いて受け流し、ぐっと姿勢を低くします。

するとマイヤーさんの剣をどうということはなく後ろに振り抜かれ、簡単に懐に潜り込めました。

その勢いのまま脛を撃ち抜いて回り込み、呻くマイヤーさんの背中から脇腹を切り上げます。


「参った」


マイヤーさんがそう言い、勝負が決着しました。


「刀は切れ味が普通の剣とは違う。もし、本物だったらエリザ嬢の今の一撃で致命傷になっていたでしょう」


あっさりと勝てて私は困惑しました。いや、相手が舐めてくれていたのでしょう。いくら何でも騎士団の副団長が6歳相手となれば流石に手加減をするでしょうからね。

まさか……まさか……ね……

しかし、手を抜かれていたとしても、カンナさんと比べてしまうと動きが悪かったように思います。もしかしなくてもカンナさんって、めちゃくちゃ強いのでは?という疑念が頭をもたげましたが、私の慢心に繋がりそうなので考えることを中断しました。

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