10ページ目・カンナの剣術
いわゆる魔力切れという状態に陥ると、どうやら意識を手放してしまうそうなので、魔法を教わるのは午後。午前中は中庭で、お父様と剣を振る練習をします。
とはいえ筋力も無いので、私は軽い木剣です。
筋トレをし、剣の振り方や素振りの練習をし、お父様と軽い模擬戦をしていると、カンナさんがやって来ました。
区切りが着いたのを見計らってカンナさんが口を開けました。
「ロウダ様も剣を振るわれるのですね。剣の講師を呼んでいると聞きましたが、ロウダ様がエリザ嬢に剣を教えているのでしたら、不要では?」
「あー、エリザにはいつも言ってるんだがな。俺の剣筋は魔物を倒すために磨かれた物なんだ。だから、対人戦や自衛には向かない。基礎と、対魔物の戦い方なら教えれるんだがな」
お父様は申し訳なさそうに肩を竦めました。
魔物との戦い方を教えくれるのも嬉しいですよ!ウェルカムです!
カンナさんは少し考えてから「あ」と言いました。
「もしかして、ロウダ様って、ロードランの英雄様ですか!いやはや、こんな有名な話を知っていながらピンと来ないとは私も勘が鈍りました」
「よせ、英雄などという立派なもんじゃない」
お父様は恥ずかしそうに頭を掻きました。
その様子を見ていると、カンナさんが予想外の事を言いました。
「そうですねぇでしたら剣の講師がこちらに来るまでは私が剣をお教えしましょうか?」
この人、剣士だったのかとお父様と顔を見合せました。お父様もこの人の事については、ギルマスの紹介という事でほとんどどんな冒険者か知らず、私も魔法使いなら腕が無くても戦えるのでは?と思っていましたが、まさか剣を扱えたとは…。
いや、魔法も使えるので魔法剣士でしょうか。
「と言っても、正式な王国剣術ではなく、キョウ国の剣術ということでもありません。我流ですが」
「ふむ…まぁ変な癖をつけない程度であれば頼む」
「はい」
ニコニコと微笑むカンナさんを見て、お父様は右手で顎を摩りました。
「……カンナ殿、腕を失った貴女にこんな話を振るのは不躾かとは思うが、少々手合わせ願えないだろうか。仮にもエリザに稽古をつけるなら、私の目でその実力を見たい。エリザにも、見稽古という事で見て欲しい」
「え?えぇ…英雄様貴族様相手とは色々と分が悪いような…」
カンナさんはまたしても苦笑いを浮かべています。
そりゃ相手の実力を知っており、しかも貴族となると傷つける訳にもいけません。気を使うのでしょう。
ですが、お父様も腕が鈍っているし、あれ以来剣は握っていない、それに怪我しても回復魔法が使えるんだろ?と押し通します。最終的にはカンナが折れました。
「分かりました。魔法は危ないですし、剣の稽古なので剣だけでいかせてもらいますね。ロウダ様のお噂は聞き及んでおります。少し広い所へ出ましょうか」
3人で中庭から、城門と館の間の庭にやって来ました。ここはかなり広く、正直剣で戦うだけですよね?と聞きたくなりました。
ですが、グラウンドドラゴン討伐の話が、誇張では無いならある意味このくらいのスペースは必要なのでしょうか。
以前、お父様の怪力を見たことがあります。
ギルドでチンピラに絡まれた時とは違い、今度はカンナさんが心配になりました。
お父様ら不格好な大剣を取り出しました。対するカンナさんは、いつの間にか腰に日本刀のようなものを帯刀していました。
え?真剣勝負なの?危険すぎない?
私は少し、いえ、だいぶ離れたところから観戦しています。前世は眼鏡を付けていたので、眼鏡がなくとも遠いところもくっきり見れる、我が身の健康体に少しびっくりしたりもしました。
最初に動いたのはお父様でした。私ほどはあろうかという大きな剣を、まるでナイフでも振るかのように軽やかに振り下ろしました。
カンナさんはその場から左に飛びます。
お父様が振り下ろした剣は地面には触れず、V字に跳ね上がると、カンナさんを振り抜きました。地面にこそ触れていませんが、風圧で地面がえぐれます。
キラリと何かが光ると、お父様の大剣が弾かれました。
カンナさんの刀はいつの間にか抜かれており、弾かれました大剣にダメ押しの追撃を放ちます。
バランスを崩したお父様は、咄嗟に弾かれた方向に身を任せて大きく飛び下がりました。
果たしてその判断は正しく、先程お父様のいた所を白い光が弧を描きます。よく見ると峰の方で振り抜いており、万が一当たっても切らないように配慮している事が分かりました。
いつも優しく、余裕そうにしていたお父様の額は汗が光っています。
カンナさんは深追いをせず、その場で剣を構え直しました。
仕切り直しです。
またお父様から動きます。先程より素早く近づき、今度は左下から切り上げました。
右腕しかないカンナさんは、左下から攻撃こカバーが難しいと踏んだのでしょう。
ですがカンナさんはそれを右に避けるとくるりと後ろを向き、返す大剣の振り下ろしを刀で受け流す……そう思った刹那、キィンと高い音がなりました。
何事かと思うと、カンナさんはお父様と向き直っており、お父様の大剣がスッパリと切られていました。
何をしたのか目でも追えませんでした。
武器をなくしたお父様は両手を挙げ「降参だ」と言いました。
途中までは高度そうな駆け引きをしているように思えましたが、最後の最後で突然の理不尽な決着が着きました。
これが…異世界剣術……
とはいえこんな、剣を斬るようなのは異世界でも珍しく、お父様も賛称しています。
「凄いな。まさか俺の大剣が真っ二つに斬られるなんてな。それに、最初に俺の剣を弾いたあの力。片腕のしかも女からあんな反撃を食らうとは夢にも思わなかった。というか、最後のは俺ですら剣筋が見えなかったぞ?俺が見ていなかったこの6年で、世の中のそんなに技術があがっているのか?」
「あー、いや、ですから我流ですし、自慢じゃないですけど、私、だいぶ強い部類だと思うので」
ともあれカンナさんはお父様の合格ラインを大きく上回ったようで、剣を……いや、刀を教えてもらいました。
刀は、キョウ国ではポピュラーな武器で、剣や大剣に比べ「斬る」という事に重視を置いた物です。
むしろ重さを乗せて叩き切る長剣のようなものより、今の私は刀の方が良いのかも知れません。
私も手加減したカンナさんと模擬戦をしましたが、圧倒的に何もかも足りないなと実感しました。
昼食をとり、一休みしてから今度は魔法の練習です!