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4. アニスは仲間を罠に誘う

王都から少し離れた田舎道を、一台の二輪車が疾走していた。

「あああああーっ、シズー、速いってばー」

後部座席でアニスが叫ぶ。


「何言ってるの。大した揺れも無いんだから騒ぐ必要は無いわよ。それに、これくらいの速度で進まないと、標的を逃がすことになるわよ」

ハンドルを握るシズアは至極冷静だった。


「い、いや、こんな速さだと、道の上に何かあれば止まれずにぶつかっちゃうって」

「大丈夫。そのために、探索魔法も前方の探索域を広げる練習をしていたのよ。何か障害物を見付けたら、飛び越えちゃうから」

「えー、そんなの無茶だってばー」


「やってもいないうちにそんなこと言わないでよ。あ、良い感じに前に馬車が見えたわ。集中するから、騒がないでよ、アニー」

アニスは失敗しないでと心の底から叫びたかったが、シズアにプレッシャーを掛けたくない一心で黙っていた。


シズアは何やら呪文を詠唱したらしく、二輪車の下に魔法の紋様が現れる。

「十、九、八」

魔法の紋様を維持しながらカウントダウンしていくシズア。

「二、一。フライ!」


力ある言葉と共に二輪車が宙に浮き、車輪による振動が感じられなくなる。

二輪車は、車輪を通じて地面に力を伝達して前に進んでいるのではなく、車体後部に設置した推進板から吹き出す空気によって前に進んでいる。そのため、宙に浮いても前進する速さが低下したりはしない。ただ、上空の方が向かい風が強く、シズアは推進板に送り込む魔力の量を増やして、速度を維持するようにしていた。


二輪車はどんどん高度を上げ、先行していた馬車を大きく飛び越した。

そして高度の上がり具合が段々緩くなってきたあと、今度は逆に高度を落とし始めた。

「アニー、後輪から着地させるから、私にしっかり掴まって」

アニスには返事をする気力が残っていない。ひしっとシズアにしがみ付いていた。


後輪が着地して、振動がお尻から伝わるようになると、シズアは二輪車を加速させ、前輪がなるべく静かに着地するよう制御する。

「ほら、できたでしょう?こんな感じに走って行けば、目的地まで今日中に着くわ」

シズアは誇らしげだ。


しかし、何でシズアに運転を任せてしまったのだろう、とアニスは考えていた。シズアに任せたらこうなることは分かっていたのに。

本当は空から行きたかった。でも、今日は向かい風が強くて適していないと言われたのだ。

魔女の技を使えば簡単だけど、それだと後で説明できないし、シズアも連れていけない。


今回は先行している第一王女の私兵との共同作戦とのことで、シズアは顔合せも兼ねて参加したいとお願いしてきた。シズアのお願いを断る選択肢はアニスには無いし、二人で移動する最速手段となると、空でなければ二輪車しかない。そして、アニスの運転だときっと間に合わない。


つまり、陸路で行くことに決まった時点で、こうなる運命だったのだ。

アニスは諦めの境地に至り、運を天に任せ、ひたすらシズアにしがみ付き続けることにした。

その甲斐あって、朝、王都を出発した二人は、夕方、陽が沈む前に集合場所の宿に到着できた。


宿の扉を潜ると、そこから左側の空間に食堂が広がっていた。正面突き当りには、受付カウンターがある。アニス達は先に受付で宿泊の手続きを済ませてから、食堂の中を見渡す。

左奥のテーブルにそれらしい若者の四人組を見付けたが、シズアの方が早く、アニスより先に彼らの方へと歩いていた。


「失礼ですが、こちらにカイト様はいらっしゃいますか?」

若者のテーブルの前でシズアが話し掛けると、左側に腰掛けていた男性が立ち上がった。

「カイトは私ですが、もしかしてシズリアーテ様?お待ちしておりました。どうぞこちらへ」


カイトは自分の左にシズアを誘う。私はシズアの隣が良いのにとアニスは思うが、カイトは子爵の三男だと聞いていたので、アニスより位が上である。初対面で我儘は通し難い。それに、カイトは自分の左側をシズアに譲っている。この席配置だと奥の側が上座だ。カイトはシズアを自分より上位だと態度で示したことになり、ここで場をかき混ぜるのは得策ではないなとアニスは考えた。


その上で何処に座ろうかとアニスが躊躇していると、カイトの向かいに座っていた女性が右側を開けてアニスに手を振って来た。アニスはシズアの前にと言うことらしい。

女性の気遣いに感謝して、有難くシズアの前に陣取らせて貰う。


全員が席に収まった後、会話の口火を切ったのはシズアだった。貴族同士だと、下位の者が先に口を開くのは無礼であるとの暗黙の規則があるので、ある意味シズアが最初に話をするは必然である。

「本日はお集まりいただきありがとうございます。互いに協力して手早く任務を完遂できればと考えています」


アニスが仲間の顔を一通り眺める。皆、見るからに真面目そうだった。もしかして、この作戦を続けている間はずっとこのお上品な会話をすることになるのだろうかと、アニスはげんなりしていた。怪しまれないように見た目は全員冒険者のなりをしているのだが、それでこの口調は無いよねと思うのだ。そんなアニスの気持ちはお構いなしに、会話は進んでいく。


「まず、自己紹介をお願いできますか?私はシズリアーテ・スペンサー、子爵の娘になります。任務中はシズアとお呼びください。得意属性は火と風。それからこちらは――」

「私はアニス・コルバルト、得意属性は水」

シズアの言葉を遮ったのでカイトの表情が一瞬歪んだが、アニスは知らん振りを決め込んだ。


「私はカイト・ランダースだ。子爵家の三男になる。得意属性は火と土」

カイトの次は、アニスの左隣の女性が口を開いた。

「クラウディア・フェイベル、男爵の娘です。クラウと呼んで貰えれば。得意属性は水」


「フィーナ・バロア、風と光属性が使えます」

フィーナはカイトの右隣。カイトもだが貴族では二属性を得意とする者は少なくない。

「ジャック・ランドルーイです。土属性です」

ジャックは、この場で唯一の人狼族。


「ありがとうございます。皆さんは、指令を受けて今日ここに到着したばかりで、まだ標的と接触はしていないのですよね?」

シズアの確認に、四人は首を縦に振る。

「では、こちらの情報を共有させていただきます」


そこでシズアが目線で訴えて来たので、アニスが入手していた標的の風貌などの情報を伝える。

そして段取りも決めたところで食事を始め、雑談へと移っていった。


「二人は、昨晩、何処に泊まっていたの?」

酒も入り、口調も砕けて来たジャックがシズア達に問い掛ける。

「王都の屋敷ですよ。今朝出て来ました」


「え?待ってよ、王都からここまでどれだけの距離があると思ってるの?あ、もしかして、時空魔法が使えるとか?」

ジャックが驚くのも無理はない、王都からここまで、馬車なら一週間は掛かる道のりだから。

「時空魔法なんて使えませんよ。そもそも、時空魔法で転移するには、転移先に転移陣を設置しておく必要がありますよね」


「まあ、そっかー。それならどうやって?」

「二輪車を走らせて」

「二輪車?」

どうやらジャックには心当たりがないらしい。


「ほら、前に姫殿下に子爵家から献上されたって話があった奴だろう?魔力で走る二輪車」

カイトがジャックに助け舟を出した。その言葉に、シズアが頷く。

「その通りです」

「え?あー、あったね、そんな話。でも、出せる速度はせいぜい早馬位って話じゃなかったっけ?」


「ああ、いくら整備されている街道でも、速度を上げると振動が激しくて運転が難しくなるからって話だったが」

カイトが視線をシズアに向けると、シズアはニッコリ微笑んだ。

「慣れれば速度を上げられるようになりますよ」


いや嘘だ、とアニスは心の中で叫んだ。シズは最初の最初からスピード狂だったよ、と最初に乗せられた時の恐怖を反芻しながら考えていた。と、ここでなら仲間作りができるかもと思い付く。


「ねえ、ジャック。明日シズアに乗せて貰ったら?百聞は一見に如かず、よ」

アニスが笑みを浮かべて持ち掛けると、ジャックの瞳が輝いた。

「え?良いのかなぁ。でも、それだと僕たちが先行することになっちゃわない?」

「それなら、進行方向とは逆側の隣街に行って戻って来たら?シズアの運転なら余裕で追い付くから」


「へー、でも作戦前に良いのかなぁ」

「問題ないと思うけど。そんなに難しい作戦でも無いし。シズアも運転したいんじゃない?」

アニスが話を振るとシズアは笑顔で頷いた。

「ええ、そうしましょう」


これで話が決まった。シズアの運転の犠牲者がめでたく一人増えるのだ。

アニスは心の中で歓喜していたが、釘を刺すのも忘れない。


「ジャック、分かっているとは思うけど、シズアにしがみつくのは絶対に駄目だからね」

鬼である。


ごめんなさい。見通しを間違えました。


一話で書き終わりませんでした。と言うか、二話ですらないです。これも含めて三話、つまり、残り二話です。

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