抜けた拍子と花火
ポックに乗って来た道を戻ると、お父さんとお母さんが見えてきた。見たところは無事だ。降りて駆け寄って2人に抱き着く。
安堵から涙が出る。
「大丈夫だっだの?」
「見た通り大丈夫よ。ほら、泣かないの。それより何でそんなに傷だらけなの?」
「戻ろうと思ってポックから飛び降りた。」
「何でそんなことしたの!」
"エノイジラウグ(治癒)"
「だって、何も言ってくれなかったんだもん!爆発してたみたいだったし。ぼく、1人になっちゃうのかと……思った……。」
声を上げて泣く。お父さんとお母さんが顔を見合わせて、困ったような表情をぼくに向ける。
「ごめんな、シアを早く安全なところに連れていきたかったんだ。それに、あれはママの魔法だぞ。」
あれ、魔獣の攻撃じゃなかったの?驚きが涙を押し込む。
「ままってあんな魔法使えるの?」
「そうだ。シアには言ってなかったけど、ママは俺の何倍も強いんだぞ。」
「何十倍じゃないかしら。」
お母さんの方が強いのは夫婦喧嘩のときだけだと思ってた。あんな魔法が使えるんだ。
「じゃあ、帰ったら魔法教えてね。」
「ママは厳しいんだぞー。俺も何度泣かされたことか。」
「ぱぱはままに魔法教わったの?」
「そうだ。ママが先輩だったんだ。昔から凄かったんだよなー。」
「はいはい、話は後にして。日が暮れるわ。」
クナルフへの道を歩く。来た道と同じだ。
「そう言えば、何で防御の魔法かけたのにぼくは怪我したの?」
「あれはね、魔力の節約のために他からの攻撃にしか反応しないようにしたの。攻撃に対してはちょっとやそっとじゃ破られないわ。でも、シアが飛び降りるのは想定外だったのよ。」
そんな選択的なこともできるのか。
それよりもあれだな。考え方を少し変えないといけない。最悪を想定するのは大切なことだ。それへの対策を練ることも。ここは前よりも死亡率が高そうだし。
想定に腐心して自棄になるのは良くない。少しでも欠陥があると全部を壊したくなるこの思考回路、こんなものまで持ってきてしまった。
直ぐには変えられないだろうな。それでも、なるべく意識しておこう。もう少し精神を強く持てるように。
また数日かけてクナルフに着いた。人生初の長旅が終わる。
「はあー、疲れちゃったな。」
「お疲れ様。今日はみんなでゆっくり休もうな。父さんは明日からまた仕事頑張るよ。シアも魔法の練習頑張れよ!」
「うん。ぱぱもままもありがとう!」
お母さんが簡単なご飯を用意して、お風呂に入る。
「シア、魔力の操作の練習には花火が良いぞ。見せてやる。」
"エスィフィトラデューフ (花火)"
お母さんの顔が夏の夜空に浮かぶ。
「懐かしいわね。」
「あう!」
ポックも花火が好きなのかな。
「笑ってるままの顔にすれば良いのに。」
「無表情のときので練習してたから、こっちのが慣れてるんだ。」
「そんなことないんじゃないかしらね。」
ふーん。
「ぱぱ花火の魔法できたんだね。」
「そうだぞ、凄いだろ。」
「誕生日のときはみんなに気をつかってくれたんだね。」
賢明な判断をする親父じゃねえか。酔っ払ってた癖に。
「うっ……、まあそうだな。」
「ありがと!」
明日からの魔法の練習が楽しみだ。




