羽化した蚕の弱点
品種改良の影響で、羽化した蚕は食事ができません
エトシュボール視点
「とりあえずここら辺で。」
ノドラネットの吐く熱線を防御魔法で弾きながら感知器から離れた場所に着いた。
「討伐隊に助けは出したけれど、直ぐには来られそうにないわ。そして私の魔力も防御魔法の維持で少なくなった。」
「どうすれば良いんですか?助かりますか?」
俺がもっと強かったらノアを守れるのに。こんな情けない質問しかできないのが悔しい。
「ここで終わりかしら。」
「ノアさんと一緒なら。」
「だからあなたは弱いのよ。」
何も言えなかった。自分では何も考えず、ノアの言う通りになるしかないと思ったのが更に情けなかった。
「ごめんなさい。一度くらい死を覚悟してほしかったの。こんなところで終わるわけないじゃない。博打だけどやってみるわ。とりあえずあなたは逃げて。」
「俺も戦います。」
「足手まといよ。今は言うことを聞いて。」
魔力消費を抑えるためか、防御魔法を解いた。
「自身に防御をかけて、なるべく離れてください。」
どうしよう。何もできない。守りたいのに、俺がいても足枷にしかならない。惨めだ。
ないよりはマシの防御を自身にかけた。
"エディパール(俊足)"
ノアは加速して、攻撃を躱しながら詠唱を始める。魔力が少ない状態だ、詠唱を長くするしかない。よくもあんなに集中力がもつな。
"エキガン リオヴュオ ノン セーヴァ ノルトセレ セデトセージェユトック ノシアラーレ リュアンジエソ (理を司る神よ、吾が魔力を糧に電子を弾き出せ。)"
(……)
(……)
(……)
(……)
何を言っているのか上手く聞き取れない。
(……)
(……)
一撃がノアを掠る。転んでしまった。瞬時に起き上がる。
(……)
"エジュレヴノック セリック エキテニャン マッショ (磁場よ、これらを収束させよ。)"
"エスィノワ トヌムレットヌ アンサール(完全電離気体)"
無数の光がノドラネットの頭を貫いた。
「やったわ。」
フラフラのノアがこちらに向かってくる。
"エディパール (俊足)"
俺はノアに駆け寄った。
「うっ……!」
1羽だけ斃し損ねたノドラネットが、ノアに攻撃を仕掛けた。その嘴が間に入った俺の肩を貫く。
「何してるの!下がってって言ったじゃない!」
"エマルフェ ドナルグ (火炎)"
肩に刺さったノドラネットにありったけの魔力で攻撃をする。1羽だけなら俺の魔法でも斃せた。火傷もしてしまったが。
「……守れた。」
「だから弱いものは嫌いなのよ。」
力の入らない手で何とか俺を抱えた。
「何で泣くんですか。」
涙が俺の顔に落ちる。
「今から治癒魔法を行います。私は魔力切れで倒れます。ここら辺にはもう強い魔獣はいないでしょう。私を抱えて壁の内側へ戻ってください。」
「これくらい大丈夫ですよ。」
本当はものすごく痛い。ノアが目の前にいなかったら泣き喚いていただろう。
「出血が多いです。最悪死にますよ。」
「あと少しだけこうしていてください。」
「……。」
「ノアトセーファさん。好きです。今とても幸せです。ずっと一緒に居たいです。俺と付き合ってください。」
「狡いわ。私は弱いものは嫌いなのよ。」
"エスィルーグ エスュオッシユ ノンク エクナッシアネ ア レ ルュアンジエソ (再生の神よ、吾が兄を癒させ給え。)"
"エノイジラウグ オミッスィドナルグ (最大の治癒)"
傷が塞がった。まだここまでの魔力が残っていたのか。俺のために絞り出してくれたのか。
喜ぶのは後だ。先ずはノアを背負って戻ろう。
治療院でノアに点滴をしてもらう。起きるまで気が気じゃなかった。3日程でノアは目を覚ました。
「おはようございます。」
「……。」
「気分はどうですか?」
「最悪ね。」
「負担をかけて申し訳ありませんでした。」
「まあ、2人とも助かったので。」
俺はノアを抱き締める。
「好きです。えっと……あの詠唱が答えっていう事で良いんですよね?」
「本当は何も言うつもりはありませんでした。でも、あの魔力の残量で魔法を発動するには、気持ちを込める必要がありました。」
「ずっと一緒に居てください。戦闘で守ることは難しいですけれど、ノアさんの心は守ります。もう強さだけを求めて心を殺すのは止めてください。」
ノアのこの涙の理由はなんだったんだろう。喜び?悲しみ?
どっちもか。
「はい。私に弱点ができてしまいましたね。」
「そろそろシアが戻ってくるんじゃないか?」
「待ってる間に腕の傷を治してあげるわ。」
"エスィルーグ エスィレッシユ ノンク エクナッシアネ ア レ ルュアンジエソ (再生の神よ、吾が夫を癒させ給え。)"
"エノイジラウグ(治癒)"
「ノアに治療されると、あのときのことを思い出すな。」
「いつのこと?」
「治癒魔法の後に直ぐ倒れたやつ、覚えてるだろ。あのときに比べたら、俺も強くなったよな?」
「あなたはいつまでも私の弱点よ。今はシアもね。」




