繭の中の蚕の懐古①
エトシュボール視点
俺はその後、何度かノアに挑んだ。授業ではいつも余っているため、挑戦するのは簡単だった。
「今日こそは!」
また無傷だしまた丸焦げ。
「そろそろ俺が勝つぞ!」
無傷丸焦げ。
「俺のありったけの魔力を受けろ!」
無傷丸。
「なあ、詠唱止めてくれねえか?ハンデくれ!」
「良いですよ。」
むきまる。
魔力量でもかなり負けてるのか。完敗だ。ここまで来ると悔しさすら湧かない。
7年生になった。俺は14歳になる年だ。ノアは8年生で13歳。また飛び級をした。この学年で飛び級をするのは数十年振りの快挙だ。俺が勝てるはずなかった。
もうクラスも同じになることはないし、授業で組むこともない。ノアと話す機会はなくなった。
そう思うと、同情心が疾うになくなっていたことに気づいた。途中からは違う気持ちだった。話す機会がないなら、こっちから出向いて話せば良い。
「ノアトセーファさん。好きです。」
苦悩と幸福とが混じりあった感覚。伝えずには居られなかった。
「はい、そうですか。何故敬語なんですか?」
「先輩になったので。付き合ってください。」
「私より弱い人に興味はないです。」
「じゃあなんで俺と授業で組んでくれたんですか?」
「授業なので。」
そうか……。
「お願いします!絶対幸せにします!」
「根拠のないことをそう易々と口にしないでください。今、嫌いになりました。」
失言した。直球で行きすぎたな。
ノアのことをもっと知りたい、そう思った。先ずは仲良くならなくては。
近づくには少しでも追いつく必要がある。
学校には討伐部というのがある。他にも部活動はあるが、討伐部だけは入るために条件が設けられている。ノアは今年からこれに入った。
魔法使用免許試験合格から5年経っていること。飛び級した場合はその年数分も加算される。つまり、3年生で学校で受ける試験に合格して飛び級もなければ、普通は8年生になればこの条件を満たす。
もう1つは、学年で上位5%の成績を修めている必要がある。これがネックだ。
討伐部に入ると、年間20日分の授業が免除される。その分を部活動に当てるとこができる。だからと言って、成績が下がれば退部せざるを得ない。
俺には飛び級は絶対に無理だ。だから9年生から討伐部に入ることにした。ノアもここからの進級は無理だろう。そうすれば1年間は討伐部で被ることができる。
「ノアトセーファさん。俺、9年生になったら討伐部に入ります。その時はよろしくお願いします!」
「そう、頑張ってくださいね。」
勉強と魔法の訓練を頑張った。魔力量を増やすための訓練はかなりキツかった。
時々ノアの教室に会いに行った。自発的にアドバイスをくれることはなかったが、勉強や魔法について訊くとちゃんと答えてくれた。気の利いた話題は出せなかったので、これしか話題がなかった。反応は相変わらず無機質だし。心が折れそうになることもあったが、どうしてもノアが気になった。
2年間の努力で、俺は無事討伐部に入ることができた。
「ノアトセーファさん。俺も討伐部に入れました!」
「そうですか。おめでとうございます。」
意外そうな表情をした。表情が変わったのを見たのは初めてかもしれない。
「俺と付き合ってください。」
「あれ、以前お断りしませんでしたか?討伐部に入ったからと言って、あなたが私より弱いのには変わりありません。」
予想通りだ。覚悟していたはずなのに、心がズタズタになった。
「泣くほどのことですか?」
「はい。2年前と気持ちに変わりはありません。」
「そうですか。私も同じです。申し訳ありません。」
街の外れ、暗くなった時間に1人で星を見る。
"エスィフィトラデューフ(花火)"
細かい操作を学ぶため、この2年間ノアの顔を象った花火を練習していた。いつか見せて喜ばせたかった。
「もう引き際なのか?」
"エスィフィトラデューフ(花火)"
ノアの無表情を空に浮かべる。いつか笑顔を浮かべたかった。
とりあえず家に帰ろう。こんなところで花火を上げてたら誰かが来るかもしれない。




