危機と絶望と後悔
中腹まで来ると、また何かの動物か出てきた。
「シア、下がれ!」
"ノイジャン ノン セジェトール ユーク、エスネッフェ ダ レ リュアンジエソ(防御の神よ、吾が労たきを護らせ給へ。)"
"エトロフ ノワトセトール (強固な防御)"
お母さんがぼくに防御らしき魔法をかける。半透明の膜のようなもので包まれる。
「な、なに?どうしたの?」
「魔獣だ。しかもそこそこ知恵の回る奴だ。シアを狙うと思うぞ。気を付けろ。」
頭の2つある黒い豹のような生き物だ。これが魔獣か。
魔獣の飛ばす鈍色の玉がぼくを狙う。咄嗟に屈んだが、どうやら防御障壁に弾かれたようだ。
"エマルフ(炎)"
"ノワトルプクス(爆発)"
「エト!集中して!もっと長い詠唱をしなきゃ!効いてないわよ!」
「いてっ!くっそー!」
お父さんが鋭い爪で引っ掻かれる。腕についた3本の傷から血が流れている。
「もう1匹来たわね。ポック、シアを連れて遠くまで行って。」
「あう!!」
ぼくについていたお母さんが、ぼくをポックに乗せる。
「お父さん1人じゃ無理みたいだから、私もやるわ。シア、愛してる。」
「俺も愛してるぞ、シア。」
倒れたお父さんがぼくに言う。
「ねえ、大丈夫なんだよね?」
2人の反応を見る間もなく、ポックは走り出した。
嫌だ。
またぼくはひとりになるの?また後れるの?
「ポック戻って!」
ポックはぼくを無視して走り続ける。
「ポック!やだ!ぱぱとままと一緒にいたい。」
「あう。」
なんで言うことを聞いてくれないんだ。
後方から爆発音と閃光が差す。
お母さんが参加したところで戦況は大きくは変わらないだろう。戦闘経験はあまりなさそうだ。
またなくすの?また会えなくなるの?まだこんな歳で?
もっと一緒に居たかった。もっと一緒に遊びたかった。まだ魔法のことだってちゃんと教えてもらってないのに。
もうあんな思いしたくない。
走るポックから飛び降りる。慣性力がぼくを引き摺る。擦り傷だらけになった。
「あうー!」
走り出したぼくの服にポックが噛み付く。上着を脱いで走り出す。
これが前の罪へ対する罰?
今度は中に着ていた服にポックが噛み付く。これは上手く脱げない。そのままぼくを咥えてまた走り出す。
「止めて!戻してよ!」
ぼくが行ったところでどうにもならないことは分かってる。でも、1人後れるくらないなら一緒に居たい。
「嫌だ!嫌だよ……。ぱぱー!ままー!」
神様、何でもします。そろそろ許してください。この世界もぼくを愛してくれないの?
1人になったら、この世界で生きていくのは嫌だ。
不運を嘆いているとポックが止まった。口からぼくを離し、来た道の方向を見て、此方に顔を向けた。ぼくはポックに乗る。徐に歩いて、来た道を引き返す。段々と加速していく。
「ポック、分かってくれたの?」
「あうあう。」
何だろう。途中でぼくが脱いだ服を咥えて渡してきた。着直してポックにしがみつく。
とりあえず会いたい。今はそれしか考えられない。




