図書館
お父さんに肩車されながら、草原を歩く。前も小さい頃はよく強請ったな。
「ぼく、肩車好き。いつもよりいっぱい見える。」
意識して感謝を伝える。
「シアが何歳になるまでできるかなー。」
「ずっと!」
「あはは。パパ潰れちゃうよー。」
なんて理想の家族なんだろう。お父さんにぼくの顔が見えない状態で良かった。
図書館が見えてきた。お父さんは受付で手を翳し、何かを読み取られた。ICチップでも埋め込まれているんだろうか。
「うわー、すごい。こんなに本があるんだね。」
汗牛充棟に気圧される。お父さんについて歩く。
「シアが読めそうなのはここら辺だな。」
"レーメ"と書かれた範囲を指差す。
「"レーメ"って何?」
「学校に入って1年目の人のことだよ。」
1年生のことか。学校の存在は知っていた。広場でエリーとナックがそろそろ学校に行く歳だと言っていたからだ。
「学校はいつから行くの?みんな行くの?」
「よっぽどのことがなければ、8歳になる年からみんな行くんだ。」
「いつまで?」
「普通は10年かな。頭が良ければ、もっと早く出られる人もいるし、逆に長くなる人もいる。」
飛び級の制度があるなら、ぱぱっと卒業しちゃおう。高等教育機関はあるのかな。
「ここの本ぜーんぶ借りたい!」
「シアが興味を持ってるのは嬉しいけど、3冊しか借りられないんだ。パパがもっといっぱい本が買えたら良かったんだけど……。」
あー、落ち込ませちゃった。
「じゃあ何回も借りに来るよ!」
「うーん。シアはまだ魔法が使えないから、パパがお休みの日じゃなきゃ借りられないんだ。」
「なんで魔法?入るときに手当ててたやつ?」
「そうだ。あれで誰が何時何を借りたか分かるようにしておくんだ。」
そんな魔法もあるのか。
仕方ない。3つに絞るか。1年生で覚えるべき表音文字が書かれた本を2冊と、物語の書かれたものを1冊借りよう。本当は図鑑のようなものも気になるけれど、まだ読めなさそうだ。
「ぱぱ、これにする。」
「よし、分かった。じゃあ受付のところに戻ろう。」
受付の人に本を手渡す。
「こちらの3冊をお借りですね。お子さん用ですか?」
「そうです。最近魔法に興味が出てきたみたいで。勉強のために文字を覚えているところなんです。もう表音文字は全て覚えたんですよ!次に表意文字をやろうとしているところなんです!」
こんなところでそこまで自慢しないでよ恥ずかしい。
「偉いねー。これからいっぱい本を借りに来てね!まだ1人で借りられないのが残念だけど。お名前はなんて言うの?」
「ノシアール。シアだよ!」
「シアちゃんね!私はエルビルって言うの。図書館とか本のこととかについて訊きたいことがあったら遠慮しないでね。では、登録を始めます。」
お父さんに手を翳した。
"ノワタスィフィットヌディー(身元確認)"
今読み取った情報と入館時のものを照らし合わせているようだ。そして次は本に手を翳す。
「"ネール"(紐付け)」
派手な魔法ではないけれど、魔法にまだ見慣れないぼくは見入った。他の2冊にも"ネール"をかける。
「エルビルさんすごい!」
「いやいや、私はこれくらいの魔法しかできないのよ。まだこんなに小さいシアちゃんが勉強を始めたら、私なんて直ぐに追い越されちゃうわ。」
エルビルさんは派手な魔法が使えないのだろうか。適正な魔法などがあるのだろうか。
「そんなことない!すごい!」
「そうかしら。ありがとう。じゃあ、また来てね!エトシュボールさんもまた。」
「うん、ばいばーい。ありがとう。」
「ありがとうございます。また来ますね。」
図書館を出て帰路に着く。市街地を歩いていると、ノナックを見かけた。もっと近くでご尊顔を拝ませてくだせえ。
「ノナックー!」
「あ、シア!お父さんも、こんにちは。お休みの日にこっちまで来るの珍しいね。お買い物?」
本の入った手提げを見てそう尋ねる。
「ううん。ぱぱと一緒に本借りてきたの。」
「シアは文字読めるの?」
「うん。表音文字はぱぱに教えてもらった。これから表意文字やるとこなんだー。」
「シア僕より小さいのにすごいね。僕も学校入る前にそれくらいはしなきゃな。じゃあ、また広場で遊ぼうね。ばいばい。」
「ばいばーい。」
あー、家に泊まりに来てくれないかな。
草原に着いた。
「ぱぱ、肩車。」
「本があるから無理だ。」
「ぼくが持つから。」
「しょうがないなー。よーし、乗れ。」
屈んだお父さんの背中に乗る。幸せだな。
家が見えてきた。ポックが駆け寄ってくる。お父さんから降りて、ポックに駆け寄って抱き締める。ほっぺをすりすりする。
「ただいま。」
ポックを離して家に入る。
「ままー!ただいま!本借りてきた!」
「ただいま。」
「おかえり。良かったわね。お勉強頑張ってね。」
「あのね、まま。今日寝るときにこれ読んでほしいの。」
ぼくは手提げから物語の本を取り出す。
「良いわよ。じゃあ今日は一緒の時間に寝るわね。」
「やったー!」
夕飯の時間まで借りてきた表音文字の本を読む。やはり表音文字は煩雑だな。何か規則があれば良いのだが。初めのうちは丸暗記するしかないな。慣れてくれば規則を見出せるだろう。
そういえば前から暗記作業は読むだけだな。漢字も外国語の単語も。数学や理科も内容を理解するだけなら読むだけだったな。覚えるには書いた方が良いとよく聞いたが、面倒でやる気が失せる。何もしないよりは読むだけでもした方が良いのだ。書くのはアウトプットするときだけで良い。
お父さんとお母さんが話し始めた。
「シアは最近急に賢くなった感じがするな。」
「子供の成長って、吃驚するぐらい早いものね。」
「頼もしくもあり、少し寂しいものもあるな。いつか俺たちを必要としなくなるんだろうな。」
「まだまだ先よ。」
本を見ずに、覚えた文字を一画一画頭の中で書く。読み仮名だけを見て全て書けるようにしなくては。
「シア、お疲れ様。そろそろご飯食べよう。」
「お腹空いたー。」
消費したブドウ糖を補填しよう。というか、ぼくの体はブドウ糖で動くのだろうか。
ご飯を食べてお風呂に入って寝るところになった。
「まま、これ読んで。」
「分かったわ。」
前も子供の頃はよく読んでもらったな。何回も何回も強請っていた。あの頃は色々な話を沢山覚えていたはずなのに、どんな話があったのか何も思い出せない。あの頃の本はどこに行ったんだろうか。
「そして、魔女と王子様は幸せに暮らしました。」
お母さんの声は落ち着く。ぐっすり眠れそうだ。ぼくを呼ぶ母親の声を思い出す。
「どう?面白かった?」
「うん、ありがと。また読んでね。ぎゅーして。」
「はい。おやすみ。」




