この世界のこと
「シア!もう少し早く帰ってこなきゃダメじゃない!……目、どうしたの!?」
「ごめんなさい。遊んでたら忘れちゃって。目はちょっと痒くて擦っただけだよ。」
「もう、心配したんだからね。手と目を洗ってきなさい。」
「はーい。」
ご飯を食べてお母さんと帰ってきたお父さんの間で寝た。
本当はお父さんとお母さんにも慰めてもらいたかった。だが、いきなり泣き始めるのは不自然だ。3歳児なら有り得るだろうが、上手く取り繕える気がしなかった。
また夢を見てしまった。そろそろこの世界に慣れなきゃ。頑張ろう。
いつも通り朝ご飯を食べて、ニャポックと庭でゴロゴロする。
これからのことを考えよう。……いや、その前に、今の生活環境を整理しよう。
ぼくはシア。ノシアール・エフィーニュ。3歳と少しだ。そして可愛い。庭でポックと遊んだり、村の広場に遊びに行ったりする。
お父さんはエト。エトシュボール・エフィーニュ。20代半ばくらいに見える。キリッとシュッとしてて背が高くて程よい筋肉があって格好良い。可愛いのが好きだけど、こういうのも嫌いじゃない。日本とヨーロッパ系の半々くらいの見た目だ。髪色は明るく、目も青い。8日で1週間。4日目と8日目は休日で、それ以外は朝から暗くなる頃まで仕事をしている。
お母さんはノア。ノアトセーファ・エフィーニュ。お父さんと同い年くらいかな。黒く長い髪を後ろで結っていることが多い。綺麗な髪飾りをつけている。黒目で少し幼げに見える。日本人っぽい顔立ちだ。ぼくがまだ小さいからか、基本的にはいつも家にいる。家事の合間に、よく分からない内職のようなことをしている。
ニャポックはネーシュという動物らしい。大きくてふわふわで格好良い。呼ぶとどこにいても直ぐに来てくれる。どういう原理なのだろうか。
両親に記憶のことを明かすか迷った。けれども、3歳になる子供の中身がいきなり自分たちよりも歳上だと分かったら気持ち悪いだろう。接し方が変わるかもしれない。今回は普通の愛情を受けて育ちたい。今は誰にも言わないようにしよう。
今住んでいるのはレオール王国に属するクナルフという村だ。前世で夢に見た農村地帯が一部見える。村の中は基本的に安全と認識されている。子供を放っておいてもそこまで心配はないようだ。牧畜や狩りも行っている。川もあり魚も採れる。
基本的に日本のような技術はないようだ。発展していないのか、必要ないのかは分からない。外からの行商人より、必要な技術的生産物を取り入れている。見た目は違うが、時計、冷蔵庫のようなものなど……、電気は通っていないようだが、動力はなんだろうか。
この歳ではこれくらいしか分かっていない。これからは人に訊いたり観察したりして知識を広げよう。
そして、これから考えるべきことは大きく分けて3つだ。
・転生論
前の記憶を引き継いでこの世界に転生した原理を探ろう。優先順位は高くないが、単なる知的好奇心だ。今後に役立つ可能性もある。今はまだそこまで深く考える必要はない。
・物理量の調査
質量、長さなどの数多の物理量がこの世界でどのようになっているのかを調べる必要がある。持ってきた知識と結び付けて自然現象を解析するには、地球で使っていた単位と同じ次元の物理量と結び付けなければ面倒だ。例えば、この世界の質量の単位は地球でいう何kgに当たるのか。優先順位は高い。
・この世界のこと
この世界の基礎知識がない。今使用している言語はある程度分かるが、他に言語はあるのだろうか。地図はあるのだろうか、陸や国はどのように位置しているのか。生物はや人種どのようなものがいるのか。学問や技術はどの程度発達しているのか。これが最優先事項だ。
こんなにも地球に似た環境がある。動物も人間も植物も存在する。太陽のような恒星があり、昼と夜がある。四季がある。水がある。手からものを離せば落ちる。
偶然だとしたら奇跡だ。
それとも、生命が誕生するにはやはりこのような環境でないと難しいのだろうか。誕生した生命は、こんなにも似通った進化をするのだろうか。
ここが地球だと言われて何の疑いも持つことはないだろう。もしかしたらぼくが生きていたところと、時間と位置が違うだけ?
だが、決定的に異なる部分がある。魔法だ。他の物理法則は今のところ大きく異なる部分が見えない。魔法のみがぼくのいた宇宙の物理法則で説明がつかない。これは何なのか。
物理法則の違う宇宙も存在するはずだ。というか、ぼくのいた宇宙しかないと考えるのは不自然だ。
ぼくのいた宇宙では、例えば[ボルツマン定数、プランク定数、万有引力定数]などの物理定数が、数%ずれていただけで、生命は誕生しなかったなんて言われていた。
では、この魔法のある宇宙は、生命が存在する許容範囲内の物理定数を持っていて、ぼくのいた宇宙とはそれらがほんの少しだけずれているのだろうか。
「ねえまま、魔法って何?」




