やりたいことリスト⑤ 挨拶回り
1人で祐也のお墓に行くことにした。そういえば湊と行って以来、行ってなかったな。
思い出の曲を聴きながら、車で7時間かけて行った。前と同じように、近くのお店で好きだった煙草とお菓子と線香と花を買った。
「久しぶり。ずっと来られなくてごめんね。」
線香に火を点け、ついでにそれで煙草に火を点ける。そういえば普通の煙草吸うの久しぶりだな。
「そっちはどう?」
「そういえば前一緒に来た子、そっちにいったんだ。自分から。会った?」
「これ、ありがとう。返すね。添削したから、ばか。」
8年間読み返し続けた遺書に火を点けた。
「ありがとう。またいつか違うどこかで会えたら良いね。」
会いたくて会いたくて堪らなくなった。懐かしさがぼくを締め付ける。
何故だろう。涙は出なかった。声も顔もまだ覚えているのに。
1人でホテルに泊まった。前に供えたのと同じものを供えてそれを食べたが、やはり好きじゃない味だ。1泊して家に帰った。
湊のところにも行ければ良かったけれど、結局場所は分からず終いだ。
久しぶりに実家に帰った。
前は月に2回は帰ってきていたのに、もう数ヶ月帰っていなかった。前に帰ったときに、兄と明確に差をつけると宣言をされたからだ。兄にお金がかかるから、ぼくからはお金を取ると言われたのだ。
差をつけられる度に胸騒ぎがした。子供の頃から差をつけられる度に虐待をされているように感じていたのに、どうして態々虐待をされに帰っていたのだろう。
苦言を呈すと母親から理不尽に八つ当たりを受け続けた。兄にはお金をかける癖に、ぼくには常識的な子供の像を押し付けてきた。お金を払うのは良いが、そんなに困っているなら兄にお金をかけるのを止めろと言ってもきかない。
そのときの帰り際にお金を払うことを了承する旨を母に伝えた。それにも関わらず、母親は未だに文句を言っていた。ぼくは久しぶりに動物的に怒鳴り声をあげて罵倒して、話すのを止めて帰ることにした。
「また帰ってきてね。」
父親にそう言われた。
「もう帰ってくるの止める。」
それを言った瞬間に、子供のとき振りに親の前で泣き噦った。20年近く我慢していた待遇の差に、遂に耐えられなくなった。
父親は一応話が通じる。母親と違って、差をつけざるを得ないことに罪悪感を持っていた。
「出来の悪い子ほど可愛いって言うけど、そういう訳じゃない。でもどうしても出来の悪い方は手がかかる。」
「そんなのは分かってる。でも、そんなに無駄遣いさせるのになんでこっちだけお金払わなきゃいけないの?あいつにかけるお金をなくせば余裕ができるのに。」
「それでしか助ける方法が分からなかった。」
「こっちがお金を払うのは良いよ。お金がないのだって分かってる。でも、差をつけ続けてあいつのために散財し続けたのは、お前ら2人が悪いだろ。反省して、申し訳ないけどお金を払ってくれって頼む立場だろ。苦言を呈されて当たり前だろ。なのになんでそれに反論をするのか。普通は払うもんだなんて言ってくるんだよ。普通のまともな家じゃないだろ。こっちばっかり家の掃除もして、自分で買ってきたものでご飯も作ってやって、お金も要求されて。そこまでしてるのに。」
「……。」
「なんで2人目産んだの?お前らは子供なんで産むべき人間じゃないよ。人形遊びでもしてれば良かったのに。」
「そんなこと言わないでよ。」
「誰のせいでこんなになったと思ってるの?生まれてきたくなかったよ。もっと普通の家に生まれたかった。」
涙が止まらなかった。
「ママにはちゃんと俺から言うから。俺がちゃんと言ってこなかったのが悪いんだ。」
「あんな頭の悪い奴に何言ったって無駄だよ。言ってることが何一つ通じない。言われたことを空気の振動としか捉えてない。」
「俺がちゃんと分かるように言っとくから。」
「もうあの歳で変わる訳ない。もう疲れた。また頭がおかしくなる。上があんなんだったから言わないであげたけど、自分だってもう頭イカれてんだかんね。ちょっとスマホ持ってきて。」
父親にスマホを取りに行かせた。ぼくはそこに「境界性人格障害」と入力した。
「『ちゃんと見てきたから颯はちゃんと育った。』って何回も言ってたけど、何も知らなかったでしょ。こんなになってたの知らなかったでしょ。」
「それは……知らなかった。」
「全部全部隠してきてあげたんだよ。上があんなんだったから何も言わなかったんだよ。どんな病気か調べて。なんでこんなになったのか考えてみて。」
それを捨て台詞にぼくは一人暮らしの家に帰ったのだ。
久しぶりに帰った実家では何事もなかったかのように接してきた。ああ、結局面倒になってなあなあで済ませるのか。だからこんなになったと言うのに、何も学ばなかったんだ。
親に対しての感情は未だによく分からない。こういうときは自分を理解するために感情やそれに至った経緯を言語化をする。
だが、それをしたら耐えられなそうなのでしない。意図的に自身の感情を分からないままにしておいた。
感情は分からないままだけど、親が死んだら泣くだろう。それ以上は考えたくなかった。
祖父母の写真の並ぶ仏壇に線香を供える。
いつも通りご飯やお菓子を作って置いてきた。
「気を付けて帰ってね。」
母が声を掛けてきた。
「うん。」
無愛想に応えた。車が運転できるくらいの視界になってから帰った。
挨拶は済んだ。準備に取り掛かろう。




