やりたいことリスト④ 20年以上の付き合い
この3人でいると時が過ぎるのが早い。ぺちゃくちゃと下らない話をしていると飛行機か下降し始めた。
「うわ、この落ちる感覚苦手だわ。」
絶叫系アトラクションは苦手だ。だがいつも1人で待つのが嫌で乗る。そのときは頭を抱えて下を向いて耐える。三半規管の向きを落下方向と平行にすることで、体が前進していると脳に錯覚させるためだ。ジェットコースターに乗っているときのようにその体勢をとった。
「またそのポーズ?」
「いつも思うんだけど、そんなんでジェットコースターとか乗って楽しの?」
「楽しくないよ。でも1人で待ってるの嫌なんだもん。」
間もなく着陸した。
「うわ、あっつー!ってか湿度高いね。流石亜熱帯。」
落下に耐えたぼくは次に気候に悲鳴を上げた。
「先に荷物置いて着替えたいね。うちらの泊まるホテルって近いっけ?」
「取り敢えず1泊目はここから近いよ。てか折角作ったんだからしおり見て。」
ホテルに着いた。
「あたしこんな良いホテル泊まるの初めて。」
「うちも。」
「日頃の感謝を込めて、かなり高級なホテル取りましたー!めっちゃ良いっしょ!」
「ケチな颯ちゃんがよくこんなところ取ったね。」
「やっとあたしらの価値が分かったか。」
お?そこは感謝するところだぞ。
「2人とももっと素直に感謝しろ。」
「「ありがとー!」」
荷物を置いて着替えて、繁華街に出た。沖縄名物のものを一通り平らげ、ダラダラと観光して夜にホテルに戻った。
「うちクジラ見たいかも!」
「えー、うちも見れるならみたい。」
「ねえ、なんで計画立ててしおり作ってる段階で言わないの?」
「だって今行きたくなったんだもん。」
「……ほんとにさー。」
調べるとギリギリ見られそうな時期だ。というか言い出したねえさんは調べねえんかい!
「4日目の予定潰せば行けそうだけどどうする?」
「行く行く!クジラ見に行く方が良い!」
「あたしもー。」
ぼくは予約を入れた。
「では皆様、しおりの7ページ目をご覧ください。そちらの4日目の予定のところを斜線で消し、ホエールウォッチングとご記入ください。」
「うちら書くものなんか持ってないよ。」
それからも突発的な予定の変更をしながら、旅は順調に進んでいった。シュノーケリングをしたり、美味しいものを食べたり、文化的なところに触れたり、名物を食べたり、マングローブを見に行ったり、甘いものを食べたり。
最終日2日前、僕たちは水着になって浜辺でダラダラと過ごしていた。
「ほんっと最高。」
「何も気にせずゆっくり過ごせるのって良いよね。」
「2人ともぼくに感謝しろよ。」
日が落ちてきた。湾曲した水平線から赤い光が差す。
「はい、これ。2人から。」
「あたしめっちゃ頑張ったかんね。」
覚えててくれたんだ。
「……ありがとう。」
徐にアルバムを開いた。見え難いのでスマホのライトで照らしながら見た。20年以上の思い出が綴じられていた。出会った頃のものは少ないが。
「うわー!これ懐かしい!こんな昔の写真残ってたんだ!」
「うちらの家にある写真引っ張り出してきたよ。」
笑いながら不満そうに臼井が言ってきた。
「これ棒玉どっちでshowのやつだよね?」
「そうそう。左右に分かれてるときは難しかったわ。」
ぼくがパンイチでパンツを極限まで上げ、左右の位置を特定するという、年頃の女がやるとは思えないとても下劣な遊びだ。
「ぼくたち色々行ったよねー。これ、船の中でえげつない話してたときのやつじゃん。」
テーマパークで疲れた3人が、船の建造物の中で休みながら、とても人には言えないような話を数時間していたときのものだ。
「ほんと懐かしいよね。うちらがまだ10代のときじゃない?」
「てかもうこんな歳になったんだね。新3結成したときに『マジなアラサーになったらどうしよう』なんて言ってたけど、本当になった。」
「辛いから止めて。」
ねえさんが止めに入った。
2人からコメントが書かれていた。遠くに行っても頑張ってということ、帰ってくるときは連絡しろということなど。陳腐な表現だが、ぼくはこの2人を分かっているので、具体的に何を考えているのか想像することができた。
「颯ちゃんが泣くの久しぶりに見た。」
「最近失恋してなかったからね。」
「いっぱい恋愛してたときはよくあたしらの前で泣いてたよね。」
「大丈夫。颯ちゃんなら上手くいくから。うちらが一番分かってる。不安なことも多いと思うけど、大丈夫だから。帰ってきたときは3人で会おう。」
そして次の日にクジラを見に行った。生で見たのは3人とも初めてだ。
「凄く、大きいです……。」
「あたしら3人で乗れそうじゃね?」
「うちも乗ってみたいなー。」
なんてあほなことを言いながら最後の夜を迎えた。
「今回は連れてきてくれてありがとう。」
「ほんと、感謝だわ。」
「いつか借り返せよ。」
そして飛行機に乗って帰った。行きと違って3人とも寝ていた。
一人暮らしの家に着いた。
「ありがとう。楽しかった。」




