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フリーター期Ⅱ⑧ 2人目の馬鹿野郎

事後の反実仮想だ。本当はこうするつもりだったんだ。こうなる筈だったんだ。


実際には職場に電話を掛けたが誰も出なかった。警察に湊の名前と住所を告げ、行ってもらうようにお願いした。ぼくに詳しい事情を()くために、家の近くの警察署から警察官を派遣すると言われたので身動きが取れなかった。


友達に送ったメッセージは、反応するには時間が足りなくて、あまり見てもらえず、見ても戸惑ってしまって通報してくれた人は居なかった。


そして警察が湊の家に着いたのは通報から1時間後だった。5分位でほぼ死ぬのに、絶対に手遅れだ。


「確かに首を()っていた方がいらっしゃいました。まだ温かかったので、病院へ搬送しました。」


家にやってきた警察官に告げられた。何やってんだよ。遅すぎるだろ。見つけるのに時間がかかったらしい。向かいのお店の看板とか、どんなアパートとか、説明しておけば良かった。


翔吾に連絡をして詳細を伝えた。


「ぼくは向かってるんで、このまま行きます。」


「行ったって無駄だよ。絶対助からない。」


「死人の顔を拝むのは無駄なことじゃないです。」


「そうじゃなくて、親族でもないぼくたちは搬送された病院すら教えてもらえないと思うよ。」


「とりあえず行きます。」


「しょうがねえな。ぼくも行くよ。」


翔吾が家に着くと警察官がいたらしい。一緒に警察署へと行き、事情聴取を受けたようだ。その警察署へ翔吾を迎えに行った。


そして、湊のバイト先へ行くことにした。


湊がお母さんのように慕っていたと言う、年配の女性に会った。ぼくたちのことは湊から話には聞いていたらしい。ぼくは事実を伝えた。


「単刀直入に言います。星野湊が自殺を図りました。見つかったのは通報から1時間後なのでほぼ100%助かりません。」


「な…なんで……。」


その女性は膝から崩れ落ちた。落ち着くと、休憩所に案内された。


「何でそんなことになっちゃったの?大学受かったから引っ越すんだって言って、この前ここで送別会やったばっかりだったんだよ。これからってときなのに。」


「湊は大学には全部落ちました。」


翔吾が答えた。


「そうだったんだ。言ってくれたら良かったのに……。」


ぼくは本題に入った。


「親御さんの連絡先知りませんか?湊が搬送された病院を知りたいです。」


「本当はこういうの教えちゃ駄目なんだけど……。」


湊の実家の住所を手に入れた。ここの隣町の一軒家だ。1度湊とドライブ中に前を通って見たことがあるが、詳しい場所は覚えていなかったため、住所を知る必要があった。あのとき、どんな気持ちで実家を見ていたんだろう。


「あの子、親の文句を言うことも多かったけど、時々会いたいって言ってたのよ。本当は会いたかったんだろうね。」


それを聞いて胸が(つんざ)かれた。ぼくにも翔吾にも親に会いたいなんて言ったことはなかった。そうか、やっぱり寂しかったんだよな。


「ありがとうございます。また何かあったら連絡ください。」


車で湊の実家へ向かった。星野と言う看板を見つけ、ドアフォンを鳴らした。


……無反応。居留守だろう。明かりはついているし車もある。警察からは既に連絡が行っているはずだ。ぼくたちが湊の友達だと分かって無視を決め込んだのだろう。


本当は硝子(がらす)を割って侵入して引き()り出して湊と同じ目に遭わせてやりたかった。(むご)たらしく殺してやりたいと思った。こんな人間は子供なんか産むな。十代半ばの自分の子供を放り出して生活費を出さないなんて、鬼畜の所業だ。


考え(あぐ)ねていると、メッセージが届いた。バイト先の女性からだ。そちらにも警察が行き事情聴取を受けたらしい。そこで、湊の死を告げられたようだった。


大泣きした。もしかしたら、もしかしたら助かるかもしれないなんて、医学的に有り得ない期待をしていた自分に気付いた。翔吾も泣いていた。ぼくたちは久しぶりに手を握った。もう恋愛感情なんてないから死んでも落ち込むことはないと思っていたが大間違いだった。


落ち着くと、2人で今後のことを考えた。とりあえず手紙を書いて投函することにした。


湊の友達だと言うこと。責めるつもりはないから、せめてお墓の場所だけでも教えてほしいこと。ぼくの名前と電話番号を記した。


そして帰ることにした。帰りの車でぼくと湊が好きだった"おちび"を流した。ぼくが教えた曲。


帰り際にファミレスに寄った。


「ごめんなさい。僕がもっと早く対処していれば良かったです。」


「そう言えばさ、湊は電話でもメッセージでも、事前にぼくに死ぬって言ってたんだよね。祐也もぼくがいなくなったら死ぬって言ってたのに信じずに死なせちゃった。また信じられないで死なせちゃったんだ。」


「颯さんのせいじゃないです。」


「何でだろうね。湊さ、祐也の墓参りに着いてきたんだよ。翔吾も知ってるよね。そこでぼくわんわん泣いたんだ。それを見てたのに、またぼくに同じ思いさせるなんて。」


「本当に浅慮です。まあ喧嘩別れしたので僕には相談し難かったんでしょうけど、颯さんにもっとちゃんと相談すれば良かったのに。」


「そういえば、最期の電話で『生まれ変わったら何になりたい?』って()いたら、歌手になりたいって言ってた。歌聴くの好きだったもんね。」


「そんなこと()いたんですか?」


「いや、最初は冗談だと思ってたからさ。あと、スーツ着て死ぬって言ってた。多分一種の儀式的な要素があったんだと思う。この世から逃げるための儀式だと思ってたんだと思うよ。」


「確かにその側面もありそうですね。僕は、もっとちゃんと話を聞いてあげれば良かったです。やっぱり親もなく、働きながら自己流で勉強しても限度がありますよね。」


「ぼくが(あお)ったからだ。去年受かった大学があったのに、ぼくがもう1年やることを肯定したからだ。去年大学行かせておけばよかった。ってか大学落ちたくらいで死ぬなよばーか。死ね。本当は助けた後に『お前ごときがこのぼくを出し抜けると思うなよ!』って言って、張り手かましてやりたかった。」


家に帰ると、ぼくは返信のない湊のアカウントにメッセージを送った。


「馬鹿野郎。なんでもっと頼らなかったんだよ。ぼくが死んだ元彼を見てボロボロに泣き(さけ)んでたの見てただろ。なんで、ぼくならどうにでもできたのに、助けることだってできたのに。」


飼っていた犬を庭に放した。涎でベタベタになったボールを取り返し、もう一度投げた。


結局湊の親から連絡は来ず、ぼくたちは湊のお墓の所在を知ることができずに、各々(おのおの)湊を(しの)んで線香を供えた。


「助けられなくてごめんね。ぼくと知り合ってくれてありがとう。ゆっくり休んでね。」


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