フリーター期Ⅱ① また捕まえた阿呆
【注意】軽微な性的描写があります。
晴れてフリーターになった。とりあえずフリーターしながら、1年後くらいに就職しよう。
ぼくと同じく、大学で化学をやっている男と知り合った。いや、同じだったと言うべきか。実家が近く、隣の市に住んでいた。そこから都内へ通っているようだった。化学をやっているだけあってそこそこ話も合うし、よく話すようになった。
「颯さん。今度会いたいです。」
写真ではそこそこ好きな顔だった。カワウソとか有名なビーグルっぽい可愛い感じ。電話では下心丸出しに下品なことを聞いてきたりしたが、まあ暇だし会ってみよう。
「マスク外してください。顔全体が見たいです。」
相手が親の車でぼくを迎えに来て、ドライブに行った。小さい頃にぼくの膝を傷つけた湖のほとりでぼくにそう言った。顔を見られるのが好きじゃないのと、花粉症のためにマスクを着けていた。まあいつか見せることになるだろうし、見せておくか。
「うわ、童顔ですね。凄く可愛いです。」
ああそう。下心があると褒め言葉すらそう感じてしまう。帰りの車の中で、手を入れられそうになるのを拒否していたが、しつこかったので面倒になってされるがままになった。うわ、こいつそれだけでズボン濡らしてんじゃん。
拒否していたのにそんなことをされたので、その時点で興味を失った。
だが、話し相手があまりいないので、暇を持て余して電話で話したりはした。どうせどうでも良い相手だと思ったので、祐也や過去の恋愛、ぼくの学生時代について話した。
「自分で死ぬなんて馬鹿ですね。というか、これから何するんですか?ニートの人って最期どうやって死ぬんですかね。気になります。それか、僕と一緒に勉強してもう一度大学院目指しませんか?」
あー、いくら暇つぶしと雖も、辛辣な俺カッコイイのこんな奴と関わるんじゃなかった。復讐として、こいつにはぼくの実験台になってもらおう。もうそこら辺のミジンコと同じ扱いだ。
こいつは頭がそこまで良くない。位置的に二大巨頭とその1つ下のランクは有り得ない。高くてもその更に下の大学群だな。この大学群は頗るプライドが高く、中でも1つ擢んでているところがある。こういう差別は良くないと分かっているので表には出さないが、ここに通ってる奴には経験上碌な奴がいなかった。多分こいつもそうだろう。
こいつはSNSでは文理両道を気取っていた。ぼくが水面と読むと、水面だと訂正してきたりした。いや、どちらでも正しいのだが。人間味が無いなんて言われたのを報告したり、文系の人に理系っぽい、理系の人に文系っぽいって言われたから文理両方いける等と吐かしたりしていた。
人は自分より上のレベルの能力は、自分より上としか評価できない。小学生は中学数学も高校数学も、どちらも区別がつかず、どちらも単に難しそうとしか認識できない。お前は専門でない人に評価をされたのだから、別にレベルが高いとは言えないだろうが。
両方できるなら受験科目に文理両方あるぼくの大学来れば良かったんじゃない?都内行くより近いし、学費も私立に比べたらかなり安いよ。研究施設もいっぱいあるし、今のところよりは良いと思うけど。なんで浪人してまでわざわざそんな大学行ったの?あ、ごめん、頭悪いから無理だったんだね。
ダニングクルーガー効果の権化のような人間だった。[無知な人は自信がないが、少し知識を持つと自信が最高潮になる。この頂点は馬鹿の壁と呼ばれている。更に知識を持つと再び自信がなくなっていき、段々と知識と自信が比例するようになる。これがダニングクルーガー効果だ。]こいつみたいなレベルの奴はずっとこの頂点に居るやつが多い。
ぼくはSNSで「〜って言われた。」等と吐かしていた言葉をかけてやった。喜ばせるためだ。案の定単純なこいつは喜んだ。アホは扱い易いな。
ぼくの部屋に呼んだとき、恥ずかしがって目を合わせられない演出をした。
「颯さんって、目合わせるの苦手ですよね。」
「うん……。ちょっと恥ずかしいから目合わせるの苦手なんだ。酔っ払ったりしてるときは、目合わせられるよ。」
「今度酔わせてみたいです。」
ハッハッハッ!馬鹿め!かかったな!それはぼくの罠だ!
「ちょっと疲れて眠くなってきたから、照明落とすね。」
そう言ってぼくは部屋を暗くしてベッドに横たわった。相手は何やらパソコンでレポートを書いているようだ。ぼくはベッドから降り、後ろから抱き締めた。こちらを向くこいつと数秒目を合わせ、唇を重ねた。すぐに離れ、ぼくは下唇を少し噛み、目を細めてもう一度見つめた。
こいつはぼくをベッドへ引っ張り、押し倒した。勝った。ぼくの逆鱗に触れた罰を受けろ。
今度は相手から口付けを受けた。ぼくは少し声を出し、終わると同時に口と目を半開きにして力の抜けた表情を作った。わざとらしくない程度の、仰角15°くらいの上目遣いも添えて。




