大学生⑦ 突撃、お宅の職場!
湊の働いているバーに行ってお酒を飲んだ。この状況で気持ちが持っていかれない訳がない。家に帰って数日考えた後、思いを告げることにした。
「一緒にお墓参り行ってくれてありがとう。嬉しかった。好きになったから付き合ってほしい。」
「少し時間ちょうだい。」
不安と悦びを行き来しながら数日待った。
「良いよ。付き合おう。」
勝鬨をあげた。幸せな気分になった。束の間のぬか喜び。
「ごめん、エイズになった。やっぱり付き合うの止めよう。」
数日後そんな連絡が来た。負の気質、発動!ぎゅいーーん!
「発症はしてないでしょ?発症を遅らせることもできるし、上手く行けば一生発症しないことだってあるよ。」
「いや、止めよう。俺もう死ぬから。」
連絡手段を断たれた。湊の働くバーに行き、待ち伏せをした。ストーカーである。湊が歩いてくるのが見えた。
「ちゃんと話して。何も伝えられないまま終わるのは嫌だから。」
「ここまで来たのかよ……。もう良いんだ。治療も受けずにこのまま死ぬから。君は格好良いからまた新しい人できるよ。」
振るための出任せの可能性があった。だが、詰問することができなかった。祐也を信じられなかったことで亡くしたことが想起され、ここで信じてあげなければと思った。真実を明らかにして、振るために稚拙な嘘を吐いたと認めたくなかった。
バイトが終わるのを待って、終わった後に数時間話した。
「言いたいことは分かった。取り敢えず今日はもう帰って。」
歳上の矜持などかなぐり捨てて、縋り付こうとしたが、ここまで言われては引き下がるしかない。帰ることにした。ストーカーの襲来を防ぐためか、断たれた連絡手段は再開された。
折角ある程度回復したのに、また逆戻りした。通勤、通学中に"おちび"を聴きながら号泣する毎日が続いた。
飼っていた犬を庭に放した。こいつはぼくのものを取って逃げ回るのが好きだ。流石犬、追いつけない。
湊と知り合うのと同時期に、歳上で教師をやっている人と知り合った。好きだと言われたが、ぼくは好きになることはなかった。ぼくがここに至るまでの経緯を知っているため、愚痴っていた。自然と悪意なく利用していた。悪意のない悪事は質が悪い。
「言いにくいけど、その子、掲示板で彼氏募集してるよ。」
募集している画面を見せられた。嘘だったんだろうか。信じてあげるべきなのだろうか。初めから断ってくれればここまでならなかったのに。
「どうして彼氏募集してるの?」
「君は一人亡くしてるから、もう一人亡くすのは辛いだろ?だから、死ぬまではどうでも良い人と付き合おうと思って。」
「寧ろ慣れてる。いっぱい迷惑かけてくれて良いのに。」
これまでの経験から、完全に好きになる前に交際を申し出ることにしていた。完全に好きになってから断られては、負の気質が大爆発するからだ。そして受け入れられると枷を外し、セーブしていた気持ちを解放する。受け入れられた後なら、ぼくの好意が負担になることはないと思っていた。
枷を外したので、好意を持ってくれないなら負荷をかけるしかできない。離れよう。
教師のほうはと言えば、心理(主に児童についてだが)を学んでいたので、ある程度この時点でぼくの解析は済んでいたようだ。だが、その結果を告げてこなかった。素人判断で診断するべきでないと思っていたのだろう。
泣くぼくを慰めてくれていた。バイト前に泥酔して運転できなくなったぼくを、バイト先の家まで送り届けてくれた。着くまでは泣き叫んでいたが、あら不思議、着くと同時に気分が切り替わり、教え子を見守る教師になった。泥酔してたって、これくらいの高校のレベルの勉強なら楽勝さ。
まだ忘れられないけど、穴を埋めるために新しい男を探そう。




